voice of mind - by ルイランノキ |
シドの刀が空へと弾かれた。
仰向けに倒れたシドの顔の横に、タケルの剣が突き刺さった。馬乗りになっているアールがシドを見下ろし、息を吐いた。
「私は私。他の何者でもない。今あなたの目の前にいる私がシュバルツを倒して世界を救う。手を貸してほしい。仲間になってよ。シド・バグウェル」
「…………」
すくと立ち上がって手を差し伸べてきたアールを見て、妙な感覚に囚われた。安心と恐怖が入り混じった、手を振り払えない抑圧感と脅迫観念……そして安らぎ──。
「今の俺は使い物にならない……」
「今は、でしょ?」
「……組織はまだ俺の命を狙ってる。俺といれば面倒になる」
「そんなの元からでしょ?」
「俺は……裏切り者だぞ」
「裏切られたって誰も思ってないから大丈夫」
「は……?」
上半身を起こし、少し離れたところで様子を窺っているカイたちの方を見遣ると、うんうんと頷いている。
「相変わらずバカだな……」
「今にはじまったことじゃない」
と、手を目の前に差し出すアール。
この手を取れば、仲間になるということだ。
「シド。仲間に──」
アールがもう一度言おうとしたとき、シドはアールの手を取って立ち上がった。
そして、服についた砂を片手で払うと、アールの前で片膝をついて頭を下げた。
穏やかに吹いた風がアールの髪を靡かせて流れてゆく。
「俺を仲間に入れてください。すぐに戦力になるんで」
「シド……」
ルイとカイは目を合わせ、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ……よろしく頼む」
と、少し照れくさそうに言って笑顔を向けたアールの目には、涙が浮かんでいた。
カイはすぐにシドの刀を拾いに行き、シドに手渡した。
「おかえりシドぉ!!」
と、抱きつくカイ。
「離れろ暑苦しい」
「おかえりっ!!」
と、アールも思わず抱きついた。
「あちぃっつんだよ!」
片手では2人を振り払えない。
「おいルイ! どうにかしろ!」
「おかえりなさい、シドさん」
「?!」
──なんだこれ……。
シドは3人に囲まれ、身動きを奪われた。
「抱きしめた方がいいか?」
と、ヴァイス。
「お前はいい。つか退けろ。手ぇ貸せ!」
と言ったシドの頭の上に飛び乗ったスーは、嬉しそうに飛び跳ねた。
「退けっつの! さっきの撤回すんぞ!!」
「ごめん。」
3人は両手を上げてシドから離れた。
「すぐには戻らねぇからな。多少修業してから合流する」
「えぇ、僕等は何日でも待ちますから」
「うんうん! 待つ待つ!」
と、カイはカメラを取り出してシドを撮影した。ムッとしているシドの表情が撮れた。
「待たないよ。」
と、アール。
「え?」
「待たないってば。今から一緒に旅を再開するの」
アールはそう言って腕を組んだ。
「それはいくらなんでも無茶ですよ……」
「万全で挑みたいのはわかるけど、こっち戦力外でまたすぐ組織と会わなきゃいけないのに待てないって。アリアンの塔はすぐそこなんだよ? 組織を連れて入りたくない。そうなると戦闘は避けられないじゃない」
「そうですが……」
「いけるでしょ? シドなら」
と、シドを見遣る。
「勝手だな……」
「いけないならいけないって言ってよ。まだ今のままじゃ組織と戦っても負けちゃうので待ってくださいって」
「おいコラなんかムカつく言い方だな……」
「ちゃんと言ってよ、今の俺はアールより弱いので待っててくださいって」
と、言いながらヘラヘラ笑う。
「んだとゴラァ?!」
シドは思わず刀を抜いた。
「落ち着いてください……。アールさんも煽らないでください」
「こっち腕一本失ってんだよ同情ぐらいしろ!」
「ごめん……」
と、カイが落ち込む。
「同情して欲しいんだ……」
ビックリするアール。
「てめぇいちいちムカつくな!」
「まぁまぁ、とにかく……そうですね、とにかくお姉さんたちに連絡して一度会いませんか? 義手のこともありますし」
「義手?」
と、シド。
「あ……知らないのですね。お姉さん方が、シドさんが眠っている間に義手を作ろうという話になって」
「…………」
シドは複雑そうに顔を顰めた。
「必要ないなら必要ないで、直接話しましょう」
「魔物が来たぞ」
と、ヴァイス。
「ダムボーラならおいらがやる!」
と、カイがブーメランを構えた。
ルイはヒラリーに電話を掛けた。シドが見つかったと聞いて、電話の向こうから嬉しそうに喜ぶヒラリーの声が聞こえた。
Thank you... |