voice of mind - by ルイランノキ


 歓天喜地13…『話を』 ◆


出会うべくして出会う。
 
出会いは人生の宝だ。
それを生かすも殺すも、自分次第。

 
アールたちはブラオ街の裏口から外へ出て、30分ほどは歩き続けた。
その間、何体か斬り殺されている魔物と出くわした。傷跡がいくつもあるところからして一撃では倒せず、何度も何度も刀剣を振るったのがわかる。それを見た一行は複雑な思いにかられていたが、2体目、3体目と息絶えている魔物と出くわす度にその斬り傷の数が減っていることに気がついた。
 
「凄い……徐々に慣れていってる感じがする」
 と、アール。目の前で息絶えている魔物の体には斬り傷がふたつ。
 
ヴァイスは魔物の血と混ざっている人間の血のにおいを感じた。シドの匂いではあるが、伝えるほどではないと判断した。負傷しているようだが、匂いは薄い。大した怪我ではないだろう。
 
「魔物の血がまだ止まっていないので、近いかもしれませんね」
 と、ルイ。
 

今の現状が最低だと思っても
誰かのせいにしてはいけない。
誰かの言葉や行動に振り回されたのは自分だ。
 
結局、自分を動かせるのは自分だけなのだから。

 
厄介なのは、血のにおいを嗅いで現れる魔物がアールたちの行く手を塞ぐことだ。
ルイはなるべく仕留めた魔物は土の下へ沈めていたが、進めば進むほど魔物の数が増えている気がする。
 
「きりがありませんね」
「魔物の血のにおいをも消し去る消臭スプレー、ないの?」
 と、アール。
「服についたにおいを消すものならありますが、さすがに……」
「モーメルばーちゃんに作ってもらったらいいよ」
 と、カイ。
「売れないものは作りそうにないよ」
「先を急ぎましょう」
 

誰かに動けと言われて動いた結果が地獄の淵に立たされるものだったとしても
言われた通りに動いたのは自分だ。
言いなりになっていたのは自分だ。
 
結果を招いたのは
流された自分なのだ。

 
とうとう、一撃で倒されている魔物と出くわした。急所を狙ってざっくりと深く斬ってある。
その後も一撃で倒された魔物が道を塞いだ。
選ばれし者を支える光。腕一本無くしただけで使い物にならなくなるような弱い光ではない。
 
「なんかゾワゾワしてきた」
 と、カイ。
「わかる気がする」
 と、アール。
 
──正直、怖かった。もし、シドの姿を見つけても目を背けてしまう光景がそこにあったらと思うと、怖かった。誰よりも自信家で、勇み立っていたシドが小さな魔物相手に全く歯が立たなくなっていたらと。片腕で刀を振り回し、苦痛に歪む表情を見せられたらと。
きっと、声を掛けられない。そう思ってた。
 
だから安堵した。そして、余計な心配をした自分を恥じた。
 
「シドの匂いがする」
 と、ヴァイスは道の先を見て行った。「近いようだ」
 
風に乗って流れてくる匂い。
アールたちは顔を見合わせ、駆け出した。
 

シド
 
ごめんね
 
私から誘ったのに

 
一行は一斉に足を止めた。視線の先には、息絶えた魔物に囲まれた片腕の剣士の後姿があった。筋肉も体力も以前より落ちて一回り小さくなっていたはずのその背中は逞しくも勇敢で、恥じることなどなにひとつ無く堂々とした力強さがある。
 

 
前方から走ってくる魔物に向かって駆け出したシドは、片腕がないバランスの悪い身体を上手く利用して攻撃を交わしながら瞬時に首を狙って大きく刀を振りかぶった。魔物の血しぶきが上がり、顔に飛んできた血を袖で拭いた。
そして、来た道の先に仲間が立っていることに気がついた。はじめは驚いていた表情も、すぐに面倒くさそうに顔をしかめた。
 
「シドっ!!」
 
カイは思わず駆け出した。
けれど、シドは刀を構えてカイに向けて振り下ろした。攻撃魔法が発動され、カイは咄嗟にブーメランを構えて身を守った。
 

ごめん
 
ごめんなさい シド

 
「カイさん!」
 と、ルイはカイに走り寄った。
「大丈夫ですか?!」
「シド……なんで……」
 
シドは、刀を握ったまま一行を見遣った。
 
「何しに来たんだよ」
 
迷惑そうにそう言い放って、これ以上近づくなとその目で威嚇する。
 
「迎えに来たんです。どうして連絡してくださらなかったのですか」
「迎えに来てくれなんて言ってねぇし、お前等のところに戻るとも言ってねぇよ」
「戻る気はない、ということですか?」
 険しい表情で、そう訊いた。
「そもそも元からお前らの仲間じゃねんだからな」
「そんなことはないはずです。地元に戻って組織に身を置いていた彼らに会うまでは、僕らの仲間ではなかったのですか?」
「忘れたな」
 シドはそう言って、一行に背を向けた。
「理由を教えてよ!」
 と、カイは叫ぶ。「こっちが納得出来る戻りたくない理由を教えてよ!」
 
こんなときにも森の奥から魔物が現れ、アールは剣を振るってすぐに退治し、歩き去るシドを追いかけた。
 
「シド!」
 その後ろから、仲間もついて来る。
「せめて……せめてカイとはちゃんと話をしてあげてよ!」
「…………」
「ずっとシドが目を覚ますの待ってたんだよ?! 誰よりも早く病室に行って誰よりも長く側にいて、ずっと待ってたんだよ?! 旅を再開するときだって後ろ髪引かれる思いでっ」
「うるせぇな」
 と、シドは小声で呟き、舌打ちをした。
「シドさん、戻ってきてください。僕らにはあなたが必要なんです」
「そーだよ……シドいないとつまんないし……」
 カイは少し控えめだった。シドから攻撃されたことがショックだったのだ。
「ねぇ! 無視しないでよ!」
 と、アールはシドの手首を掴むとシドの前へと回り込んだ。
「話ぐらいちゃんとしてよ!」
 シドは足止めを食らい、忌々しげにアールを見遣った。
「いきなり現れたあげくに話をしろ? 勝手だな」
「そっちだって勝手にいなくなったんじゃない。文句言われる筋合いない」
「退けよ邪魔だ」
「退かない。──放っておいてほしいなら、せめて話をして。じゃないと私たちも諦めつかない」
 
諦めるつもりはさらさらないけれど。
シドはため息をついた。腕を組みたかったが、組める腕がない。余計に苛立ってくる。
 

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