voice of mind - by ルイランノキ


 ログ街8…『闇夜の礫4』

 
「カイさん、アールさんは……?」
 ルイはカイに歩み寄りながら訊いた。
「俺……アールを守れなかった……」
「しっかりしてください」
 と、ルイは座っているカイの肩に手を置く。「アールさんはきっと無事ですよ。何があったのか、詳しく話してもらえませんか」
 
シドは冷静に周囲を見回した。足元を見遣り、争ったような形跡がないことに気づく。
 
「おい、連れて行かれたって、誰にだ?」
「……ジムだよ」
「え……」
 ルイは自分の耳を疑った。「ジムってジャックさんと一緒にいた方ですか?」
「うん……ジム、本当は喋れるんだ。鎖鎌振り回して……ジャック達は殺したとか言うし……結界は解いちゃうし……」
「カイさん、落ち着いて冷静に話してください。まず、ジムさんはなぜここに?」
「わからないよぉ……。ジャック達を殺して俺たちのところに来たみたいだった」
「殺した……? アールさんはなぜ連れていかれたのです?」
 ルイに訊かれ、カイは眉をひそめた。
「わからない……“選ばれし者”はどっちだって訊かれたんだ……」
 
その言葉にルイとシドは顔を見合わせた。どこからか情報が洩れている。
 
「お前は黙って女が連れて行かれるのを見てたのか」
 と、シドは呆れたように言った。
「違うよ! 俺だって……どうにかしようと……」
「争った形跡もねぇし、すんなり連れて行かれたようだけどな」
「…………」
 カイは黙り込み、悔しげに下唇を噛んだ。
「今はそんなことより、アールさんを助けるのが先決です。何処へ連れ去られたのか……手掛かりになるようなことを言っていませんでしたか?」
 カイは黙って首を横に振った。
「どうやって連れて行かれたんだ?」
 と、シドは苛立ちながら言った。「ゲートを開いて連れ去ったなら範囲くらいは分かるだろ」
「う、うん……。魔法円が浮かび上がって……そのままアールを連れて……」
 と、カイは思い出しながらたどたどしく説明した。
「魔法円に行き先が書かれているはずですが覚えていますか?」
「そこまで見てない……」
「では、どのような魔法円でしたか? 大きさは?」
「そんなのわからないよぉ! パニクってたし、直ぐに連れて行かれたからちゃんと冷静に見てないし!」
「いいから思い出せ! こうしてる間も女に危機が迫ってんだぞッ!」
 シドはカイの腕を掴み、無理矢理立たせながらそう怒鳴った。
「待ってください」
 と、ルイはシキンチャク袋から1冊の本を取り出した。様々な魔法円が描かれている本をパラパラとめくり、あるページをカイに見せた。
「これはゲートを開く魔法円の一覧です。この中に似たものはありますか?」
 カイは本を手に取ると、顔を近づけ必死に探した。
「あ……これかも? 俺が見たのと似てる……」
 そう言って指を差した魔法円をルイが直ぐに確認した。
「近距離の移動に使われるものですね。ログ街……でしょうか。しかしそんな分かりやすい場所に……?」
「いいから行くぞ。ここで考えてても埒が明かねぇ」
「でも罠は……?」
 と、カイが訊く。
「ここでジムさんがゲートを開いたのなら、罠はもう大丈夫です。同じ場所をぐるぐると回り、外へ出られなくする魔法には罠を仕掛ける範囲があります。範囲内から罠の外へ出るにしても、範囲外から罠の中に入るにしても、それが徒歩だろうとゲートだろうと一度罠を解かなければ罠を仕掛けた本人も出入り出来ませんから」
「ならなんでいちいち罠を張ったんだよ」
「カイさんが言っていたことが本当なら、恐らく、ジムさんははじめから僕らを狙っていたのでしょう。ジャックさん達を始末している間に僕らを足止めしておきたかったのだと思います。確実に連れて行くために」
「なんかめんどくせぇことになったな。……まぁいい。急ぐぞ」
 
シドの掛け声で、一行は走り出した。ログ街まで直ぐだったが、ログ街の塀が見えてきた手前付近で、ジャック達が乗っていたエディの車を発見した。
彼等の血の匂いを嗅ぎ付けた魔物が4匹ほど群がっていたが、シドが刀を抜いて追い払った。
 
「やっぱ息はねぇな……」
 シドはドルフィの首筋に触れながらそう言った。
 
ジムと戦闘したからなのか、魔物に引きずり出されたからなのかはわからないが、コモモとドルフィの遺体は地面に転がっていた。エディは運転席で目を見開いたままぐったりとハンドルに覆いかぶさるように息絶えており、ジャックは後部座席で倒れていた。
ルイはエディの脈がないことを確かめてから助手席を前へ移動させ、ジャックの様態も調べた。
 
「──シドさん! ジャックさんはまだ息があります!」
 興奮気味にそう言ったルイにシドが歩み寄った。
「生きてんのか……?」
「息はありますが意識はありません。でも助かる見込みはあります……シドさん、バングルを外してください」
「…………」
「シドさん! 今だけでいいんです!! 応急処置をしたらログ街の病院へ運びますから!」
 シドは視線を落として暫く考えた後、「わかった」と、気が進まない様子で答えた。
 
シドはルイのバングルに手を添え、スペルを唱えた。するとバングルに嵌め込まれていた小さな赤い石が光輝いた。そして、カチッと音がなり、バングルはルイの手首から外れた。
 
「……ありがとうございます」
 ルイはバングルを嵌めていた手首を摩りながらそう言うと、ジャックの応急手当てをした。
 
ルイはアールがジムに連れられてゲートから移動したのなら、エディ達の惨死した姿は見ていないだろうと少しホッとした。彼女は人の死に慣れていない。
 
3人はログ街へ着いてから真っ先にジャックを病院へと運び、エディ達の亡骸を移動させる為に人手を探し、アールの捜査を始めた。
 

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©Kamikawa
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