voice of mind - by ルイランノキ


 隔靴掻痒6…『洞窟』


イライラすることが多かった。
 
ひとりになるといつもそう。
誰かといるときはいい。なにか考え事をしているときもいい。
 
ふと、ため息をついた後とか、
心にもやもやしたものを感じていた。
 
モヤモヤ、イライラ。
 
自分の世界で生きていた頃も社会に出てから時間に追われることが多かったけれど、今と比べれば全く大したことはない。
ダラダラする時間も十分にあったし、友人に愚痴を聞いてもらう時間も、大好きな人と会って心を休める時間も、その心の余裕もあった。
 
今のように、次から次へと問題が起きて、周りで沢山の人が死に、それでも時間は進み続け、ひとつの問題が解決したかと思いきや、新たな問題が生まれ、大きな問題はずっとそこにあり続けて、私たちはずっと歩き続け、見えない終わりに向かってずっと、歩き続け……
 
ずっと…… ずぅっと……
 
イライラする。

━━━━━━━━━━━
 
何も得られなかった洞窟から出ると、植物の蔦がアールを目掛けて飛んできた。ルイが結界で守ろうとしたが、それよりも早くアールは剣を振るって蔦を斬ると、斬られた蔦の先は蛇のようにうねり、動きを止めた。
前方を見遣るとハミードが笑いながら拍手をしている。
 
「お見事」
「どういうおつもりですか」
 と、ルイはロッドを構えた。
「退屈しのぎにちょっとからかってみただけだ。俺は植物を操れる」
「……それで、なにか見つかりました?」
 と、アール。
「まったく。単純そうな在り処のヒントもさっぱりだ」
「この辺りにはないのかもしれません。遠くまで足を運んでみましょうか」
 
そこに、洞窟に入っていたルーカスが出てきた。
 
「洞窟内にはなにもないようだ」
「お会いしませんでしたね、僕たちも先ほど中へ」
「入れ違いか」
「…………」
 アールは洞窟に目を向けた。
「入り口から入ってすぐに道が3つに別れてますけど、どの道から行かれました?」
「俺は右の道から行って左の道に回った。途中、中央の道に入る通路から中央の道を探索し、左の道へ戻って外へ出た。全て見て回った」
「私たちが入るどのくらい前に入ったの?」
 と、ルイを見遣る。ルーカスが入っていく姿を見ていたルイ。
「2、3分前だと思います。洞窟内部の構造は頭の中にありますが、僕等は左の道へ入ってから途中で中央の道へ移動して調べていましたので、その間にルーカスさんは左の道へ移動、僕等が戻って右の道へ行った後、ルーカスさんが中央の道へ行かれたのかもしれません」
「会わなくてもおかしくないってことか……」
 と、アール。
「魔物がいる部屋は調べたのか? 特に宝があるわけでもないのに魔物がいる意味がわからないが、君たちも入ったのならなにかあったのか」
「魔物?」
 と、アールとルイは顔を見合わせた。
「確かに以前訪れたときには魔物がいましたが、シドさんが退治しましたので、今はいませんでしたよね」
「いや、洞窟奥の広いスペースに魔物が二匹いた。宝箱もなさそうだし戦うのは面倒だ。結界で囲んでから周囲を調べたがなにもなかった。殺してはいない。まだ中にいるだろう」
「魔物なんていなかったですよ」
 と、アールは目を丸くした。「隅々まで見たけど」
「見逃すとは思えん。小さな魔物ならまだしも、3メートルはあった」
 
アール達は怪訝な表情で顔を見合わせた。
 
「おかしいですね……話が噛み合いません」
 一同は洞窟を見遣った。
「もう一度入る……よね?」
「えぇ、そうしましょう。今度はルーカスさんが通った道順で」
 
アール、ルイ、ルーカスは再び洞窟に入った。3つに別れている通路を前に、一度立ち止まる。
 
「もしも選ぶ道順によって内部が変わるのなら、意味があるはずです。ルーカスさんは左の道から入って確かめてください。僕等は右の道から行き、中心で落ち合いましょう」
「中央の道はどうする。中央はまっすぐに行くと行き止まり、右に入る道がひとつあるがそれも行き止まり、左側は行き止まりと、左の道に繋がる道がひとつしかないが、中央の道から入った場合も調べた方がいいだろう」
 ルーカスは一度洞窟を出てまだ近くにいたハミードに声を掛けた。そして、それぞれの道を進み、洞窟の奥中央で落ち合うことにした。
 
アールとルイはルーカスが言っていた通り、魔物がいる部屋を見つけた。見つけたといっても、左の道から入ったときに見た内部構造は同じだ。そのときはなにもいなかった場所に、魔物が住み着いている。
 
「戦う?」
 と、アール。
「いえ、近づかない限り攻撃してくる気配はないので、一先ずルーカスさんたちと落ち合いましょう」
 
しかし、待てども待てどもルーカスもハミードも現れない。15分ほど待ち、ルイは様子を窺いに洞窟から見て左の道へ回ってみることにした。
 
「アールさんはここにいてください。念のため、結界紙を持っていてくださいね」
「うん」
 
ルイはアールを置いて左の道へ。ぐるりと洞窟の出入り口付近まで回ってみるが、二人の姿はない。ルイはすぐにアールの元へ戻り、とりあえず一旦外へ出ることにした。
二人が外に出ると、洞窟の前で腕を組んだルーカスとハミードが待っていた。
 
「随分待ったようだな」
 と、ハミード。
「どういうことでしょうか」
「俺たちも暫く待っていた。俺たちも、と言っても一緒にじゃない。それぞれひとりでな」
「会わなかったということですか?」
「まったく同じ内部だが、別の洞窟にいるようだな」
「魔物はいたのか? こっちは確かにいなかった」
 と、ルーカス。
「いました。疑ってしまい、すみません」
「洞窟の入り口はひとつだが、進む道によって違う空間になっているってことはどういうことだ?」
 ハミードは腕を組んで考えた。
「中央の道から入ってなにか変わったことはありませんでしたか?」
 と、アールはハミードを見遣る。
「変わったことねぇ……なにもないということぐらいか」
「なにもない……」
「なにもないなら中央の道をつくる必要もないだろうがな。まぁ迷路のようにしたかったのであれば意味など必要ないんだろうが」
「中央の道って、確かまっすぐ進むと行き止まりで、その行き止まりの壁の向こうは左右の道が繋がっている通路ですよね」
「距離を考えるとそうなりますね他にも右の道へ繋がりそうな行き止まりの道もありましたが」
 と、ルイ。
「行き止まりってなにか怪しい気がするのは私だけ?」
「確かになにもないと見せかけて、というのはありそうだな」
 と、ハミード。
「手当たり次第壁を破壊してみる?」
「洞窟が崩れてしまわないか心配ですが、試す価値はありそうですね。ここにはなにか隠されている気がします」
 
ハミードとルーカスがもう一度洞窟内へ入って行ったあと、ルイは振り返って言った。
 
「アールさんはここで待っていてください」
「え?」
「問題ないとは思いますが、壁を破壊するとなると中はそれほど広くはありませんし危険ですから」
「危険なのはルイも一緒でしょ?」
「お願いします、待っていてください」
「……わかった。なにかあったらすぐ呼んで? ここにいる」
 改めて言われると、断れず。
「わかりました。アールさんも、組織の方には気をつけてください。まだお二人いらっしゃいますから」
「うん」
 
アールはルイが洞窟に入っていくのを見送り、洞窟の横で腰を下ろした。
そこに、セルがやってくる。
 

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