voice of mind - by ルイランノキ


 隔靴掻痒5…『光を齎す者』

 
──アリアンの塔が空中に聳え立つ異空間。
組織はこの場所を『テンプルム』と言った。意味は【神聖な場所】だが、彼らは鼻で笑うように言ったため、茶化したつもりだったらしい。それでもこの異空間に名前がないよりはいい。
 
ルイは風の攻撃魔法を発動させた。
 
《我ハ身ヲ潜メ 静カニ汝ガ我ヲ見ツクノヲ待チタリ》
 
《我ハ影ヲ作リ 突風ガ吹キ荒レバ影ヲ隠スコトモアラム》
 
《中央二我ヲ突キ立テタマエ》
 
《 我ハシーワンノ大剣ナリ 》
 
──我は影を作り 突風が吹き荒れれば影を隠すこともある。
 
試しに起こした風だったが、木からはらりと落ちた葉や砂を巻き上げただけでこれといって大きな変化は見られなかった。
 
「ごめんね、無駄に魔力使わせてしまって」
 と、アール。風を起こしてみたらどうだろうと提案をしたのはアールだった。
「いえ、なんでも試してみるのは必要だと思います」
「じゃあ私洞窟内見てくる」
「先ほど第二部隊が入っていくのを見ました。狭い場所でアールさんだけを行かせるわけにはいきませんから、僕もお供します」
「ありがとう。──カイは?」
 と、周囲を見回すと、浮かんでいるアリアンの塔の下で仰向けに寝そべっているカイの姿があった。
「なにしてるの?」
 と、アールとルイはカイに歩み寄った。
「ここに寝そべってアリアンの塔の底を眺めてごらんよ」
「なにかあるの?」
「ちょーハラハラするから! どーん!!って落ちてきたらどうしようって! ビビリな奴は出来ないね!」
「シーワンの大剣を探してよ……」
「探してるよ、頭ん中で」
「歩きながらでも探せるでしょ?」
「じっとしていたほうがピンとなにか思いつくこともあるのだよ」
「もういい」
 
アールとルイは洞窟へ向かった。
 
ヴァイスは一人でまた森の中へ足を運んだ。もっと奥へ行けばなにか見つかるかもしれない。木々の上を飛び跳ねながら移動していると、背後から同じようにしてついてくる気配を感じて地面に下りた。すると、後をつけてきた何者かも地面に下り、ヴァイスと顔を見合わせた。
 
「同じ仲間を殺すとは、驚いた。」
 と、ヴァイスを追ってきたのはハイマトス族のトリスターノだった。
「仲間だとは思っていないからな」
「君の村を燃やした理由は聞いたのか?」
「納得したわけではない」
「ああするしかなかったのだ」
「……もういい。私に関わるな」
 と、背を向ける。
「訊きたいことがあるんだが」
「…………」
「君は人間の姿でありながらハイマトスにも戻れるそうだな」
「…………」
「元からか?」
 
ヴァイスはガンベルトから銃を抜き出して銃口をトリスターノに向けた。
 
「お前と話す気はない」
「…………」
 トリスターノは口元を緩ませ、笑った。
「悪かったよ。私は君が殺したあの2人しかハイマトス族を知らない。だから興味を持っただけだ。とはいえ、我々を生み出した親はシュバルツ様だ。彼を崇拝しないとは、変わり者だな」
「勘違いするな。シュバルツは好き好んでハイマトス族を作ったわけではなかろう。所謂、化け物を作り出す過程で生まれた失敗作だ」
「…………」
 トリスターノはしゃくに障ったのか頭を傾げて首の骨を鳴らすと鋭い視線をヴァイスに向けた。
「この世界に光を注ぐのはシュバルツではない」
「あの女は余所者だ。アリアンもな」
「…………」
「なぜ余所者がこの世界の為に立ち上がる? 根本的におかしな話だ」
 トリスターノはヴァイスに背を向けて立ち去った。
 
洞窟内に足を踏み入れたルイとアールは足元、両サイドの壁、天井を注意深く観察しながら奥へと進んだ。壁には時折手をついて、なにか感じやしないかと探ってみるが、特になにもない。
 
「なにもないし何も感じないね」
「えぇ。アールさんはここへ来る前に森の中でなにかを感じ取ったのですよね?」
「うーん……あの場所になにかあるような気がして。誰かいるような気がして」
「誰か?」
「…………」
「…………」
「アリアン様かなぁ……わかんないけど」
 と、足を進めた。
 
カイは相変わらず塔の下で寝転がっていた。寝返りを打つと頭に尖った石が当たった。
 
「痛っ! もぉー」
 尖った石を手に取って、遠くへ放り投げた。
 
携帯電話を取り出し、シドのことで連絡が入っていないかを確かめる。誰からも連絡は来ていない。ため息をこぼし、シドにメールを打った。
 
【シドー、今アリアンの塔んとこいるよー。第二部隊に遭遇しちゃってさぁ……なにごともなければいいけど。シーワンの大剣はまだ見つからないよ】
 
送信し、携帯電話をしまう。シドの携帯電話は彼が眠っているベッドの横にあるテーブルの引き出しの中だ。シドが着ていた服とシキンチャク袋と一緒にある。
 
「病院行きたいなぁー」
 
なにかあるたびに病院へ行ってシドに直接伝えたい。こんなことがあったとか、どこへ行ったとか、全て直接伝えたい。
 
仕切り屋である第二部隊のハミードは、森の中央に立つと手のひらを周囲に翳してスペルを唱えた。風もないのに森の木々がざわめき、揺れる。枝も幹もミシミシと音を立てるほどにしなり、その後すぐに静けさを取り戻した。
場所を移動し、もう一度木々を揺らしてなにか隠されていないかと探索する。

セル・ダグラスは杖をつきながらカイの元へやってきた。
カイはセルに気がつくと警戒し、すぐに立ち上がってブーメランを構えた。
 
「なんもせんわい」
「信用してないし!」
「お前さんは探さないのかい」
「頭ん中で探してる」
「ほう、ワシもじゃ。手当たり次第探し回るのは体力の無駄じゃと思うてな」
 と、アリアンの塔を見上げる。
「第二部隊のじいちゃんでも塔に入れないの?」
「どういう意味じゃ。誰だろうと仕掛けを解かねば入れん」
「…………」
 カイも塔を見上げる。
「お主らは塔になにを望んでいる?」
「ん? んー、俺はアールが救世主だっていう証明ができるものがあればって思ってるんだ。アールってば自分に自信がないからさぁ」
「自分に自信のない救世主か。おもしろいな」
「そっちは? アリアンの秘密?」
「大雑把に言うとそんなところじゃ。シュバルツ様を眠らせた方法もわかるかもしれん。そうなればアーム玉を集めなくとも目覚めさせることが出来るじゃろう。そしてアリアンの正体もな。アリアンの塔はまだ誰も踏み入れたことがない。なにが待っているのか、誰にもわからん」
「シュバルツが悪者だったらどうすんの?」
「…………」
 セルは無言でカイを見遣り、少し溜めてから口を開いた。
「彼女が悪者だったらどうするんじゃ」
 と。
「それはない! 断じてない!」
「ワシもシュバルツ様に対してそう思うておる」
「…………」
 頬を膨らませ、ムッとした。
「グロリアが敵と証明され、シュバルツ様の目覚めさせることが出来たときは、容赦せんぞ」
「そりゃこっちだって。てかさ、ずっと気になってたんだけど」
「なんじゃ」
「“グロリア”ってさ、【光を齎す者】って意味なのに、なんで敵に向かってそう呼ぶわけ?」
「ふむ」
 と、セルは長い髭を擦った。
「おかしいじゃん? 悪い奴に天才ってあだ名つけてるみたいだ」
「ふむ、おもしろいな。じゃが、残念ながら深い意味はない。誰かがグロリアと呼んでいた。だから我々もただの呼び名として使っているにすぎん。意味など考えてもおらん」
「誰かって誰? 最初にグロリアって言い出したの誰なの?」
「ギルトか、国王じゃろう」
「……それって情報流出ってやつ?」
 

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