voice of mind - by ルイランノキ |
〜SID Voice of mind〜
──うるせぇ チビカス。
あの時そう思っていた。
ずっと 無 の世界にいた。
後になって長い間自分が“無”であったことに感覚で気がついた。
はじめに感じたのは聴覚。
なにか篭った音が微かに聞こえていた。
耳を塞いだときに聞こえるゴォォという音が時折聞こえた程度。
次第にその音は大きくなり、ボリュームが上がったり下がったりと変動していることに気づいた。すぐ近くで聞こえるときもあれば、遠くの方で聞こえるときもあった。
それを誰かの声だと認識したのはもっと後になってからだ。
身体の感覚はなかなか戻ってこなかった。自分に置かれた状況を理解する頭もなく、ただ俺はそこにいて、自分の存在もわからないままに“音”だけを感じていた。その音に対してなんだろうと考えることさえ出来なかった。
だけどあるとき、突然視界が開けたようにハッキリと言葉が聞こえたんだ。
「起きろー!!」
女の声。初めはそれだけ理解した。
女の声。起きろと言った。聞きなれた声。チビカスの声。起きろと言った? 起きろってなんだ。俺か? 俺に言ったのか? なぜだ? 俺は寝ているのか? 寝てる? なぜ──?
背中に感じた軟らかい感覚。体をなにかが包んでいる感覚。頭の後ろにある軟らかいもの。
布団。布団の中にいる。布団の中で寝ている。誰が? 俺がだ。なぜ──?
そこからまた、俺は闇に葬られた。
理解が出来たのは、自分がどこかで眠っている。そのことだけ。そこがどこなのか、なぜ眠っているのか、わからない。もちろん体も動きやしない。
暗闇にいる。暗闇で身動きが取れずにいた。
「じゃあまたね、筋肉バカ」
うるせぇ チビカス。
ここはどこなんだよ。どうやったら起きれんだよ。
なんで俺は眠ってんだよ。なんで動けねんだよ。
声が聞こえなくなってからは
一人での戦いが待っていた。
孤独な戦いだ。闇の中で、ただそこに存在している自分しか感じれない、そんな中での戦い。
焦るものを感じていた。なにに焦っているのかもわからずに。
お前の声は届いていたんだ。
お前に俺の声は届いているのか?
返事くらいしろ
返事が出来る状況にあるのなら。第四十二章 無常の風 (完)
Thank you... |