voice of mind - by ルイランノキ |
正午を回ったとき、病室のドアを誰かがノックした。
カイはてっきりルイだろうと思ったが、ドアが開いて顔を見せたのはモーメルだった。
「モーメルばあちゃん!」
「元気そうだねぇ」
と、モーメルはシドが眠るベッドに近づいた。
「こっちはまだ夢の中かい」
「シドを目覚めさせる薬でも持ってきてくれたの?」
「そんなもの作れたら病院はいらないさ」
と、呆れたように笑う。「あんただけかい」
「ルイは風邪気味だから検査中。アールは朝いたんだけどVRCに行った。ヴァイスんは知らないなぁ」
「アールにも用があったんだがね。明日うちに来るよう、伝えておいておくれ」
「忘れるから今メールしとくー」
と、携帯電話を取り出してさっそくメールを打った。
モーメルは眠っているシドの顔を上から覗き込み、その頬に触れた。
「まったく……あの威勢の良さはどこいったんだい」
「ほんとだよねぇ、無口なシドってシドじゃなーい」
メールを打ちながら言う。
「あんたもよく我慢したね」
と、カイを見遣った。
「へ?」
「シドの裏切りさ。……信じてたんだろう? ずっと」
「……まあね」
と、カイは微笑した。
「酷いこともされたろうに」
「頭踏まれた」
と、メールを送信しながら言った。
「そんなことだけじゃないだろう」
と、呆れ笑う。
「いいんだ。大したことない」
「…………」
カイは立ち上がり、シドを見遣った。
「ねぇばあちゃん」
「なんだね」
「ばあちゃんはゼンダのおっちゃんを信じてる?」
「…………」
モーメルは怪訝な表情でカイを見遣った。
「おっちゃん、なにか隠してる。そんな気がするんだ」
「なぜそう思うんだい」
「組織の連中は城に忍び込んで情報を盗んだ。組織の人間は本気で……シュバルツを正義だと思ってるし、ゼンダのおっちゃんやアールを敵だと信じてるらしいんだ。シュバルツが世界を救って、俺たちは世界を滅ぼすんだって信じてるんだ。そこまで信じる根拠がどこかにあるんじゃないの? と思ってさぁ」
「……驚いたね。あんたはおもちゃかお菓子のことしか考えてないんだと思っていたよ」
「あと女の子も忘れないでー」
と、笑う。
「確かに、ギルトから世界の終わりを告げられたゼンダが何を企んでいるのか、その全てを話しているとは思えない。城内に敵が忍び込んでいた可能性があったのなら尚更さ」
「……その企みって、悪いこと?」
「さぁね。あたしには国王が考えていることまではわからないさ」
「…………」
「信じるしかないんだよ」
「ばあちゃんはエテルネルライトの研究したことある? なんか、城に沢山あるみたい」
「いや、ないね。興味はあるが、未知のものにゼロから手を出して時間を費やすくらいなら、万能薬作って売っていたほうが金にもなるってものさ」
「おっちゃんはエテルネルライトを何に使うつもりなんだろう」
「何に使えるものなのかもわからない状況じゃ、誰にもその答えはわからないさ」
「…………」
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VRCで汗を流していたアールは、お昼休憩を取ろうと戦闘部屋を出て食堂に向かった。
タオルで汗をぬぐいながら、携帯電話を取り出すとカイからのメールを読んだ。
【モーメルばーちゃんきた。明日うちにきてってさー】
「…………」
頼んでいた、タケルの愛用武器にタケルの想いが詰まったアーム玉を取り付けてくれたのだろうか。アールは【了解しました】とメールを返した。
食堂では会員割引が効く。カツカレーを頼んで開いている席に座った。
食堂からは庭が見える。筋トレをしている大人から、指導を受けながら剣術を習っている子供たちの姿があった。
アールはカツカレーが運ばれてくるまでの暇つぶしにメール画面を開いてメールを打った。
【カツカレー650ミルがVRC会員サービスで500ミル! わお!】
打った文章をコピーして、ヴァイスとカイとルイに送信した。
誰から先に返事が来るかなと思いながら待っていると、一番初めに返事をくれたのはカイだった。
【俺のファンクラブに入ったらファンクラブ会員の特典として俺とのデートが楽しめます! わお!】
「なんじゃそりゃ」
と、笑う。
【ファンクラブに入る条件は?】
と、冗談に付き合ってみた。
【俺のことを愛することだね! だからアールはもう合格です。ファンクラブに入ることを許可します】
【お断りします。】
【そうだよね。わかるよ、ファンとしてじゃなくて俺の恋人として側にいたい気持ちは】
「…………」
面倒くさいな、と思って返事を返すのをやめた。
カツカレーが運ばれてきてからまた携帯電話が鳴った。返事は来ないだろうなと思っていたヴァイスからだったので驚いてすぐにメールを開いた。
【よかったな】
「それだけっ?!」
ヴァイスからの返事は一言だった。とはいえ、ヴァイスからメールが送られてくるのは珍しい。
「よかったなって……どういうニュアンス?」
活字だけだとわからない。
冷めないうちにとカツカレーを口に運ぶ。なかなか美味しい。飲み物は無料の水だ。節約できる部分は節約しようと思った。
ルイからの返事はなかなか来なかった。診察が長引いているのだろうか。風邪かどうかの診察をするのにそこまで時間がかかるものだろうか。予約をしていたというし、待たされることもないと思うのだけど。
「…………」
アールは水を飲んだ。
せっかくだからと他にも検査を受けているのかもしれない。まさかとは思うけど、悪い病気が見つかったとかは……ないよね?
居ても立ってもいられず、アールはまたルイにメールを打った。
【ルイ、まだ診察中? 結果はどうだった? 大丈夫?】
何事もなければいいけど。
アールはカツカレーを食べ終えると、少し休んでから戦闘部屋へ戻って行った。
Thank you... |