voice of mind - by ルイランノキ


 説明不足の旅33…『二度と会えない』

 
「んじゃ、俺達は先に行くぜ」
 
朝を迎え、ジャックがエディの車から顔を出して言った。なんとか車の修理が出来たらしいが、見た目がオンボロのせいで走れるのが不思議なくらいだ。
 
「お前ら懲りずによく乗れるな」
 と、シド。
「まぁ壊れて襲われて喰われりゃそれも運命ってことよ」
 ジャックは笑いながら言う。「俺達が死んでたら笑ってやってくれ」
 黙って聞いていたエディは、
「おいおい縁起でもねぇこと言うなよ」
「ガハハハハ! 冗談に決まってんだろ? 俺だけならまだしも、危険を承知で仲間まで乗せたりしねぇよ」
「お、いいこと言うねぇ! じゃ、ルイちゃん達、今度こそお別れだな!」
 エディの言葉にシドはため息をついた。
「本当にお別れだろうなぁ? どーせまた少し歩いた先で車がイカレて立ち往生してんじゃねーのか?」
「その心配はねぇよ、まぁお前がまた俺に会いたいって言うなら待っててやってもいいけどな!」
「ふざけんな! さっさと行け!」
 と、シドは車を蹴った。
「ハッハッハ! 素直じゃないねぇ! それじゃ、ルイちゃん達気をつけて!」
 
エディは一同に手を振ると、アクセルを踏んだ。
 
「また会いそうな気がするね」
 アールは彼等を見送りながらそう呟いた。
「冗談じゃねーよ」
 そう言うとシドは歩き出した。カイが早足について歩く。
「シドってなんであんなにエディのこと嫌ってるんだろうね」
 アールは歩きながらルイに言った。「──て、ルイ、なんか元気ない?」
「え……? いえ。シドさんは別に嫌ってはいないと思いますよ」
「そうなの?」
「えぇ、多少鬱陶しいとは思っているようですが、嫌っているわけではありませんよ。本当に嫌っていたら話もしませんからね」
「そっか」
 
一行はログ街に向けて再び歩きはじめた。
本日は晴天。何処まで行けるか分からない雲がまた、風に身を任せて流れ行く。
 
「あ!」
 カイが何かを思い出して声を出した。「俺昨日ご飯食べすぎて残す夢を見た」
「くっだらねぇ夢だな」
 と、シドは馬鹿にする。
「なんだよぉ、そうゆうシドは何か見たぁ?」
「海賊船で大海原をゆく夢を見たな」
「なにそれいいなぁ……」
 カイは後ろを振り返り、「アールは何か見たぁ?」
「私は……覚えてないや」
 アールは笑って答えた。その笑顔に違和感を覚えたのはルイだった。
「じゃールイは何か見たぁ?」
「いえ……僕も覚えていませんね」
「なんだよつまんないなぁ」
 
仲間のことを一番に思っているルイは、仲間の異変にいち早く気づく。体の不調による異変ならば直ぐに対応が出来るけれど、心から来るものなら手が出せない。
救いたいという気持ちばかりが大きくなってゆく。
 
「ルイ、やっぱり元気ないね?」
 と、アールは、ルイが自分を思うあまりに浮かべた表情だとも知らずに心配をした。
「あ、いえ……少し考え事を」
 そう言ってルイは心配かけまいと微笑んだ。
「ふふっ、ルイの微笑みは癒されるね」
「そう……ですか?」
「うん、癒し系かも」
「癒し系……」
 
なぜ、自分はこんな場所にいるのだろうと、アールはそんな思いなどどうでもよくなるときがある。かと思えば急激に陥って気が狂いそうになるときがある。
 
昨夜見た夢は、そんな自分を支えてくれるものだった。
 
  * * * * *
 
『え……別世界?!』
 
 うん……そうなの
 
『大丈夫……?』
 
 そうでもないかな……
 頭がおかしくなるときがある
 頑張らなきゃって思うのに
 直ぐにダメになる……
 強い意思で決意しても
 また直ぐにダメになるの
 
『……仕方がないよ。てゆうか、当たり前じゃない?』
 
 え……
 
『そんな場所で、独りで頑張るなんて無理があるよ。受け入れるのだって無理あるし』
 
 う、うん……
 
『私だってそんな話を聞かされてまだ信じられないもん……あんたが別世界にいるなんて。それに……会えないなんて……』
 
 久美……
 
『死ぬかもしれないんだよね……』
 
 ……うん
 
『やだよそんなの……納得しないから』
 
 ……うん
 
『絶対に帰って来ないと許さないから』
 
 ……うん
 
『死んだら……二度と会えないじゃない……』
 
  * * * * *
 
友達が夢に出てきたのだ。
久美が最後に言った言葉に、一瞬、ほんの一瞬、微かに“答え”が見えた気がした。だけど、夢から覚めてしまえば余韻に浸る余裕もない。だから忘れた。忘れてしまった。
せっかく久美が教えてくれたのに。
  
「おい! 魔物がお出ましだぞ!」
 シドがそう叫ぶと、アールは剣を抜いてシドの横に並んだ。
 
カイは直ぐさまルイの横に立ち、結界待ち。ルイはいつものようにロッドを構えた。
 
「モルモート2匹とダムボーラ3匹。お前どれ行く?」
「じゃあ……モルモート1匹で」
「なんで1匹なんだよ……2匹な」
「はい……」
 アールは剣をグッと握り締めると、シドと共に駆け出した。
 
ログ街までまた戦闘の繰り返しだ。1日足りとも気が抜けない。
 
「行けー! アールぅー!」
「無理はしないでくださいね!」
 
2人の声援は、何気にアールの背中を押していた。
 
第五章 説明不足の旅 (完)

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