voice of mind - by ルイランノキ


 切望維持12…『明日の予定』

 
ルイは無事にスマイリーからお金を受け取った後、シラコに連絡を入れようかと思ったが、アールとカイに最終確認をするため、アールに電話を掛けた。
 
アールは食器を洗い終えたところで、すぐに電話に出た。
 
「もしもし? どうしたの?」
『起きてらっしゃいましたか。明日、氷の彫刻展示会を観にシラコさんの国へ行こうと思っているのですが、アールさんは大丈夫ですか? 特に予定とかはありませんか?』
「大丈夫だよ?」
『わかりました。カイさんはまだ寝てらっしゃいますか?』
「起きてる。カイにも訊く?」
『えぇ、お願いします』
 
アールはルイを待たせて、ベッドで横になってゲームをしているカイに明日のことを話した。カイはゲームを中断して考え込んだ。
 
「俺たちが遊んでる間にシド起きたらどうするの?」と。
「シドが起きたらすぐに連絡入れてもらえるように頼んだら?」
「家族でもないのに連絡してくれるかなぁ……」
「ヒラリーさんたちに頼んでおいたら?」
 アールが淡々と答えるので、カイは少し不機嫌になった。
「アールは平気なの? シドのこと心配じゃないの? なにかあったらとは思わないけど……起きたとき側にいたいって思わないの?」
「……思うけど」
 
シドが大変なときに、私はなにをやっているんだろうと思うときは正直あった。メロンフェスタに心を躍らせていたときは、ふいにシドを思い出すたびに私は彼を心配していないのだろうかと思う。食欲なんて至って普通だし。
 
「安心しすぎてたのかも……」
 と、アールは呟いた。
「安心?」
「まだ安心できないけど、とりあえずはシドの命が無事だったことに安心したんだと思う。このまま一生目が覚めないとか、最悪な結果になるとか全く想像できなくて、あとは目覚めるのを待つだけって単純に考えてた。シドの目が覚めたとき、そこにいたいとは思うよ。でも……」
 
──でも、ずっとシドに付きっ切りでいることは出来ない。他にもやるべきことはあるんだし。氷の彫刻を観に行くのだって、せっかくシラコさんから誘ってくれたのだし、ルイのことだから私たちに対して気晴らしにでも、と思って引き受けてくれたのだろうし。
と、心の中で思う。それを口に出せないのはシドに対して冷たく感じたら嫌だなと思ったからだ。要するに、簡単に言えばシドにばかり構っていられない、という答えになるから。
 
「シドも鬱陶しいって思うかなぁ」
 と、カイは言った。「毎日毎日俺の声聞いてたら」
 
心なしか悲しそうに笑うカイの横に、アールは座った。
 
「そんなことはないと思うけど。安心してると思うよ」
「そう?」
「うん。展示会は無理に行く必要はないと思うから、カイがシドの側にいたいっていうんなら無理にとは言わないよ」
「んー、正直ねぇ、迷ってるんだ。氷の彫刻見てみたいし。でもシドの側にもいたい……。せめてシドが目ぇ覚めたときに誰かいてくれたらって思う。お姉さんとか。そしたら少しは安心かも」
「じゃあその日はお見舞いにいけないからってお姉さんに連絡しておく?」
「うん。シドの目が覚めたときにお土産話聞かせたい!」
 
散々迷って、カイも行くことに決めた。
ルイはアールとの電話を切った後、すぐにシラコに連絡をし、明日の予定を立てた。
アールはこれからシドのお見舞いに行くことをルイにメールで伝えた。ついでにヴァイスにもメールを打っている間、カイはヒラリーに電話をして、明日シドのお見舞いに行けないのでなにかあったら連絡してくださいと伝えた。
 
「スーちんまだ帰ってこないの?」
 と、部屋を出ながらカイは言った。
「うん。のんびり待つことにしたよ」
「どうしちゃったんだろうねぇ」
「旅を再開するときに戻ってきてくれるといいけど。スーちゃんもいないと困る」
 部屋の鍵を閉めたとき、隣の部屋からちょうどマルックが顔を出した。
「おはようさん。お前らもこれから出かけるのか」
 彼もちょうどこれから出かけるようだ。
「おはようございます。シドのお見舞いに」
「そうかそうか。──あれどうだった?」
 と、マルックはカイに訊く。
「ん? あぁ、あれね。大満足!」
「そうか、ならよかったよ。んじゃ、俺は先に行くわ」
 と、マルックは急ぎ足で宿を出て行った。
「なんの話?」
 と、アール。
「別にー」
 
アールは今の会話を頭の中で反芻し、心当たりを探してみた。──なぜ二人して“あれ”という言い方をしたのか。マルックからどうだった? と訊き、カイは満足したと答えた。なんの話か尋ねると“別に”と内緒にした。
アールははたと足を止めた。
 
「どったの?」
 と、カイは振り返る。
「おかしいと思ったんだよね。病院の売店に、エロ本があるなんて」
「?!」
 カイは目を見開いてしまったという顔をした。
 アールはゆっくりと廊下を歩きながら探偵ごっこをはじめる。
「売店にエロ本なんてなかった。では、カイ容疑者はどこで手に入れたのか。マルックは売店で偶然カイと会ったと言っていた。ということはカイは売店になにかしらの用事があって行ったのは確かである。エロ本は売店の袋に入っていたため、売店で買ったと誰もが思った。でも常識的に考えて病院の売店にそんな卑猥な本は売っていないはず。ということは?」
「…………」
 カイはアールから目を逸らして虚空を見遣った。
「先ほどの会話でマルックは『あれ、どうだった?』と訊いた。カイ容疑者は『大満足』と笑顔で答えた。『あれ』を示すものがエロ本だとすると、マルックはエロ本の存在を知っていることになる。売店にはないのに。と考えるとカイ容疑者はマルックから手に入れたのではないか、と考えられる」
「はて、覚えがございませんな。証拠も無い!」
「証拠はこれからいくらでも見つけられる。これから病院に行くわけだし。売店にエロ本がないことはすぐにわかる。白状しなさい」
「覚えがございません」
 と、しらを切る。「大体さぁ、なんで俺がそのこと隠すんだよぉ」
「その理由もきっと直にわかる。カイが本を買ったのではなくマルックから貰ったのだとしたら、あの袋は? わざわざ袋に入れたのは? シキンチャク袋に入れれば済むのに。……まって。病室に置いておくために袋に入れただけ? さすがに人目に堂々と晒すようなものではないから。元々持っていた袋なの?」
「わかりません。記憶にございません」
「仮説1、カイは売店に行ったけどお目当ての本が無かった。適当にお菓子でも買って戻ろうとしたところでマルックさんと会ってエロ本がなかったという話をしたら、持ってるからやるよと言われた。カイはじゃあお礼にと買ったお菓子をマルックに渡してエロ本を受け取って袋に入れた。……いや、お礼とはいえいくらなんでもカイがお菓子をあげることはしないだろうから貰うものだけ貰ってお礼はしなかった」
「お菓子はルイが用意してくれていたのでありました」
 と、カイ。二人は宿を出て、病院へ向かう。
「じゃあ買わない? 内緒で買うでしょ。お金貰ってたんなら」
「…………」
「……ん?」
 一瞬、カイの目が泳いだのを見逃さなかった。
「ちょっと待って。とりあえずこの続きは病院へ行って売店を覗いてからね」
 と、アールはもうひとつの仮説を頭に浮かべた。
 

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©Kamikawa
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