voice of mind - by ルイランノキ


 身辺多忙14…『対処法』 ◆

 
見知らぬ少年等について行くアールの姿を見て、はぁとため息をこぼしたヴァイス。お節介にも程がある。なぜ自分からトラブルが起きそうな場所へ飛び込んで行くのだろうか。
アールたちが入って行った雑貨屋の前で待機することにした。特に問題なければいいが。
 
アールは少年等と店内を見て歩いた。
 
「お姉さんはいくつですか?」
 とアール。
「バストサイズですか?」
 と、聞き返す少年に、連れの友達が笑う。
「いや、年齢です」
 と、アールは苦笑い。
「24です」
「どんな感じの人ですか?」
「そうですねぇ、下着は派手なのが多い感じです」
 と答え、またどっと笑いが起きる。
 店内にいた女性客が迷惑そうに少年等を一瞥した。
「ふざけるんだったら私もう行きますけど……」
 やんわりとそう言うと、少年は甘えるようにアールの腕にしがみついた。
「ごめんなさいおねえさーん。なにがいいですかねぇ」
「……ちょっと、くっつかないで」
 笑顔を忘れず、やんわりと。しかしそれでは少年は離れてくれなかった。
「おねえさんはどういうのが好きー?」
「あの……重いから」
「じゃあ軽くしてあげまーす」
 と、少年はアールをひょいと抱きかかえた。
「ちょっと! やめてよ!」
「やめなーい」
 他の少年等も笑ってばかりだ。このままでは引っ叩いてしまいそうなほどカッとなったが、笑ってばかりいた少年が急に真顔になり、アールを抱きかかえている少年に注意を促した。
「……おい、やめとけ。やめとけって」
「あ?」
 と、振り返ると背の高い男が自分を見下ろしていた。紅い鋭い目に圧倒され、アールを下ろして距離を取った。
「あ……すいません」
 少年らはヴァイスをアールの仲間だと察してすぐに謝った。
 アールはヴァイスの背中に隠れ、適当に棚からオルゴールを取って少年に見せた。
「これでいいと思う」
「あ、どうも……」
 と、少年は恐る恐る受け取った。
 
ヴァイスはアールの腕を掴んで店の外へ連れ出したが、その力が強かったためアールは怒られる!と身を強張らせた。
 
「アール」
「はいっごめんなさい!」
 
怒られている猫のように身を強張らせて小さくなっているアールを見たヴァイスは、ため息をついて言った。
 
「帰るぞ」
 と、アールの手を引く。
 
ヴァイスの足は速く、アールは小走りでついて行く。足がもつれてこけそうになるとヴァイスが気づいて歩くスピードを落とした。
人ごみを抜けてゲートボックスの前までたどり着くと、ヴァイスはアールの手を離して腕を組み、列に並んだ。アールはヴァイスの顔をちらちらと見て、ご機嫌を伺う。
 
「あの……モチキジ、ヴァイスの分も買ってみたの。食べる?」
 と、笑顔でモチキジが入っている袋を持ち上げてみたが、ヴァイスは見向きもしなかったため、しゅんと肩を落とした。
「あの……言い訳って言うか……あの人たちお姉さんの──」
「知っている。」
「あ……そう……そうなの。無視したら悪いかなと思って……」
「…………」
「あの……」
「怒っているわけではない」
「はい……呆れてるんですね……」
「そんなところだ。お前の不運を引き寄せる強さにな」
「…………」
 がくりと頭を垂れた。
 
これでは安易に一人で行動もできない。何がいけなかったのかもわからない。もっときっぱり断るのが正解だっただろうか。困っている人がいても。
 
「フッ……」
 と、ヴァイスが笑った気がしてアールは顔を上げたが、ヴァイスはすぐに顔を背けた。
「今、笑いました?」
「いや」
「フッて。笑ったよね?」
「いや」
「…………」
「…………」
 微かに肩が震えている。
「笑ってんじゃん!」
 バスッと、手の甲でヴァイスの腕を叩いた。
 
ゲートに並びながら、なめられない、絡まれない方法を考えた。まずは見た目だろう。話しかけにくい見た目ならまず面倒なことが起きるきっかけを防げる。
 
「私って話しかけやすい感じ?」
 ヴァイスはアールを見遣り、「そうだな」と言った。
「うーん……。まずシークレットブーツかなにかで身長を伸ばそうかな」
「…………」
「そんで、カイに変なマスク借りる。基本変な人には近づかないし話しかけないでしょ?」
「そうだな」
「あ、でも変な人は変な人に声掛けられやすいかなぁ。酔っ払いとか絡んできそう。怖いほうがいいかも。ヴァイス立ってるだけであの子たちビビッてたし!」
「…………」
「まず身長を伸ばして……重ね着してガタイも大きくして、白塗りの不気味な仮面被って、唸る」
「唸る……?」
「う”ー…う”ー…って言いながら歩いてたら誰も寄ってこない」
「仲間も近寄らないだろうな」
「近寄ってよ……他人のふりしないでよ」
「…………」
「笑ってるよね、また。本気で悩んでるんだけど」
「笑ってはいない」
「呆れてるんですね! わかりますよ!」
 
ヴァイスは思わず声を出して笑いそうになった。
 
「あ、いいこと考えた。ずっとイライラ感を出してるのってどう? イライラしてる人とは関わりたくないじゃない?」
「確かにな」
「見て」
 と、アールは腕を組み、片方の足に体重をかけ、ムッとした。「どう?」
「……いいんじゃないか?」
 と、笑いを堪える。
「ちょっと話しかけてみて」
「……何をしている」
「え? なに?! 今私超イラついてんだけど!」
「微妙だな」
「…………」
 アールは腕を解いてうな垂れた。
「…………」
「笑わないで。」
「笑ってない」
 
ヴァイスは顔を背けた。──実に面白い。
 

 

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