voice of mind - by ルイランノキ


 声涙倶に下る10…『第一関門』


最悪な状況を生むかもしれないのに行動になんて出せない。
と、地団太を踏んでいる暇も無かった。
 
悩んだままずるずると問題を引き延ばしにしていたら、それこそ手遅れになる。
先手を打つしかなかった。
 
シドからシオンとカイのことを聞き、シオンの写真を見て顔が違うことに驚き、確かめてもらうために私の世界から持ってきた携帯電話を取り出した。
携帯電話を見て、“今”なんだと思った。
物事の流れにもきっと意味がある。そう思った。
 
時折見る夢が
私の背中を押すように。

━━━━━━━━━━━
 
暗闇が明けても太陽は存在しないこの空間は、アリアンが作り出した世界なのだろう。
限られた者にだけ近づくことを許された聖域。雲ひとつない青い空。
 
「ジャックー」
 と、カイはジャックが一人になったところを見計らって声を掛けた。
「なんだ?」
「ジャックって確か怪力だったよねぇ」
「まぁそこそこな。最近は力仕事してねぇから鈍っちまった」
「あっちの森の奥に気になる大きな岩があったんだ。ちょっと退かすの手伝ってくれなーい?」
「退かしてどうする」
「んー、俺たちさぁ、ヒントに惑わされすぎてるんじゃないかと思うんだ。影がどうとか書いてるから日の当たる場所だって考えてる」
「違うのか」
「違うかもしれないってことだよ。気になるものがあったら調べてみたいと思わない?」
「まぁ……そうだな。これだけ探しても見つかんねぇし。どこだ?」
「あっちあっち」
 と、カイはジャックを連れ出すことに成功した。
 
ルイはジョーカーの姿を捜した。ジョーカーもヴァイスと同様、気が付けば姿を消し、別行動が多い。アールがシドとベンと話をしている間だけでも近くにいなければそれでいい。ジョーカーを捜すのをやめ、アールの近くで邪魔が入らないように警戒しておくことにした。
ヴァイスはルイから事情を聞き、スーと共に成り行きを見守ることにした。塔へ入るために必要な大剣を見つけてからでは、ゆっくり話す時間も無いだろう。
 
アールははじめ、ベンに声を掛けた。ベンは洞窟内を探索していた。
 
「ベンさん、例の件、どうなりましたか」
「なんのことだ」
 ベンは振り返らずに奥へ進みながら言った。
「忘れたわけじゃないでしょ。シドのことです」
「今はそれどころじゃない。それくらいわかるだろう」
「後回しにしていたらそれこそ話す時間がないと思います。シドを呼ぶから、ベンさんも来てください。自分から話さないのなら、私から全部話します。あなたが認めたことも全部。ヒラリーさんに電話を繋いだままでもいいかもしれませんね」
「…………」
 ベンは足を止め、ため息をついた。
「わかったよ。話せばいいんだろう? タイミングを見計らっていただけだ」
 と、アールを見遣る。
「じゃあ今すぐ。石段のところにシド呼んできます」
「ちょっと待ってくれ。この先の道を調べてからでいいだろ? また戻ってくるのは面倒だからな」
「でも洞窟内はもうシドとジャックさんが調べたから」
「気づかなかったものもあるかもしれないだろうが」
「……わかりました。すぐに来てくださいね」
「わかったよ。逃げようもないだろ」
 
アールはベンの元を離れ、シドを探しに洞窟を出た。すると、洞窟の前にヴァイスが立っていた。
 
「シドなら向こうの森へ入って行ったようだ」
「ありがとう」
 
アールはヴァイスに教えてもらった森へと急いだ。
 

あまり深く考えないようにした。
 
みんなが言うには、私は色々と余計なことを考え過ぎるらしいから。

考えると不安になる。
 
私がこれからやろうとしていることは
 
シドを追い詰めることになるんじゃないかとか
 
もしも最悪な事態になったら
 
みんなは私を責めるかなとか
 
でもそれならそれでいいとさえ思った。
 
このままなにもせずに時間だけが過ぎて、ろくに話も出来ないままに組織に主導権を握られて、奇襲をかけられて戦うことになるよりはいいと思った。
 
だってもしも、なにも出来ないままにシドがいなくなってしまったら……
 
きっとみんなは自分を責めるでしょう?
 
それなら私を責めてくれたらいい。
私を恨んでくれたらいい。
もうタケルのときのように後悔に縛られて、行き場の無い痛みを抱えたままでいるよりは、私にぶつけてくれたほうがいいと思った。
 
バカだよね。
 
こんなの優しさじゃないし
みんなは私が思っているよりも優しいから
誰かのせいで大切なものを失っても、決してひとりのせいになんてしないのに。

 
耳を澄ませて音がする方へと歩み進めると、シドの姿を見つけた。シドは誰か来る気配を感じていたのか、その場でじっとして待っていたようだった。
 
「話がある」
 と、アールは足を止めて言った。
「話すことはねぇよ」
「こっちにはある。ていうか、私じゃなくて、ベンさんが話したいって」
「…………」
 シドは怪訝そうに眉をしかめた。
「シドだってはっきりさせたかったんでしょ?」
「…………」
「今じゃないと、塔に入ってからじゃそれどころじゃないと思う」
「……チッ」
 シドは舌打ちをし、アールが来た道を戻って行く。アールも後を追った。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -