voice of mind - by ルイランノキ


 有為転変4…『連動』

 
ルイは足元に広がっている白い砂を瓶で救い上げ、コルクの蓋を閉めた。周囲を見回すと、自分がいた空間と同じように点々と人が立っている。さぞ、驚いただろうなとアールを思った。
瓶に砂を詰めてもなにも起きなかった。待つ必要があるのだろうと理解する。おそらく、全員が終わるまでは次の変化は起きないようになっているのだろう。
 
「アリアンの塔……」
 
そんなもの、存在しないだろうと思っていた。アリアンが存在した時代から長い年月が流れている。今になって、明るみになるのは今である必要があるからに違いない。
 
アールは真っ直ぐに伸びている線路の上を歩いた。時折線路の近くに立っている人間に怯えながら、ネジを探す。レールのつなぎ目にネジが使われているが、きっちりはめ込まれている上にさび付いていて外せそうになかった。どこかに外れているネジがあるはずだと歩き進めてみると、案の定、ボロボロに砕けている箇所があった。そこから赤錆がついたネジを手に入れた。小さな瓶に、ぎりぎり入れることが出来た。
 
「これでいいのかなぁ……」
 
ネジというより、ボルトだ。少し不安になる。こんなもの、何に使うのだろう。何に使うでもないのかもしれない。
 
最後にアイテムを手に入れたのはカイだった。カイはルイがいた色とりどりの石が敷き詰められた浅瀬にいたが、その綺麗な場所に心が弾み、しばらく遊びほうけていたのである。
 
「もう少し平たくて薄い石なら5回くらい飛ぶと思うんだけどなぁ……」
 と、赤い石ではなく、よく飛ぶ石を探す。水切り遊びである。
「それにしてもここは綺麗だなぁ。水も綺麗だし。──あ、赤い石瓶に入れなくちゃ」
 
やるべきことを思い出し、瓶に入る大きさの赤い石を見つけた。コルクで蓋をした瞬間、また後ろへ強く飛ばされたかと思うと背中と後頭部に衝撃が走った。
 
「いってぇー!! もうなんだよぉ!!」
 
カイが頭を摩りながら振り返ると、同じ様に尻餅をついている仲間たちがいた。酷い集められ方だ。
 
「吹っ飛ばされるの勘弁して欲しい……っていうか誰? 時間かかったの……」
 と、アールは腰を摩りながら立ち上がった。
「誰でもいいよ、戻ろう」
 と、カイ。
「カイでしょ。さっさと済ませてよね。待たされたんだから」
「なんでわかったの?!」
「元の位置に戻りましょう」
 と、ルイはまたテキパキと指示を出す。
 
「それではまた後ほど。この後の展開がどうなるかわかりませんので、警戒してくださいね」
 
ルイの言葉に頷き、一向ははじめにいた空間へ戻った。
 
アールはすぐに少年を探し、ネジを入れた瓶を持って近づいた。すると、しゃがみこんでいた少年は顔をあげ、その顔に赤みが戻ると可愛らしく笑った。
 
「ありがとう! 見つけてくれたんだね!」
「うん。それでよかったのかな」
「もちろんだよ! ねぇ、おねえちゃん、僕とお散歩してくれる?」
「うん、いいよ」
 少し戸惑いつつ、少年の手を取った。そして少年に連れられ、どこかへと向かう。
 
カイも今度は時間を掛けないように気をつけながら少女に赤い石を渡し、散歩を始めた。全員が散歩をはじめると、突然周囲が一変した。どこかの活気溢れる町並みに変貌したのである。これまで身動きひとつとらなかった大人たちもガヤガヤと人数を増やして笑ったり喋ったりと騒がしい。
 
「うっひょー、なんじゃこりゃー」
「じゃあわたし、帰るね」
 と、女の子は言い、カイに手を振って雑踏へ消えていった。
「…………」
 カイはきょろきょろと周辺を観察し、カラフルなおもちゃ屋を見つけて走り出した。
 
カントリーな町並みに驚いていたのはカイだけではなかった。アールたちも全員、同じ町の、同じ場所にいた。ただし、そこに仲間はいない。あくまで別の空間にいるようだ。
 
シドも少女と別れた後、腕を組んで周囲を見回した。これからどうしろというのだろう。下手に動かないほうがいいのか、それとも行動に起したほうがいいのか、悩むところだ。
ベンも途方にくれていた。少しの間その場に居たがなにも起きないため、変化を求めて歩き始めた。パン屋の焼きたてのいい香りが鼻をつき、胃を刺激した。にこやかベーカリーと書かれた看板のとなりに、花柄のバンダナとエプロンを身に着けた若い女性が「試食いかがですかー?」と客引きをしている。
 
その頃、アールも同じパン屋の前に居た。
 
「ひとついただいてもいいですか?」
 と、迷わず歩み寄る。
「えぇ、どうぞ。メイプルクロワッサン、美味しいですよ」
「いい香り」
 香りを楽しんでから、試食の一切れを口に入れた。あたたかくて美味しい!
 
ルイもその女性に声をかけていたが、試食には手を出さなかった。ルイはこの辺りで仲間を見かけなかったかと仲間の外見の特徴を言い並べてみたが、女性は「ごめんなさい、わからないわ」と申し訳なさそうに言った。
 
「そうですか……」
 同じ空間にはいないのかもしれない。ルイはこの新たな場所が自分たちになにをさせようとしているのかを考えた。
 
ヴァイスは不意に自分の肩に目をやった。スーがいない。本の中に入る前、スーはどこにいただろうかと思い返す。テーブルの上だっただろうか。まだ水に浸かっていたように思う。無事ならそれでいい。
そんなヴァイスの視界に飛び込んできたのは、パン屋の隣にあるレストランだった。そのレストランの看板にはライフルが描かれており、西部劇に出てきそうなインディアンカントリーな店だった。自然と足が向く。
 
アールはパンを食べた後、町の中央にある大きな木を見上げた。木を囲むようにベンチが置かれており、一先ずそこに腰を下ろした。
 
「ここでなにか起きるのかな」
 
けれども5分待っても10分待ってもこれといってなにも起きない。
 
「みんなどこに行ったんだろう。みんなもこんな町にいるのかな」
 
同じ町にいるなど思いもしない。突然騒がしい子供の声がして、目を向けると視線の先にはおもちゃ屋があった。店の前で男の子が駄々をこねている。買って欲しいおもちゃがあるようだが、母親は「だめ!」の一点張りだ。
アールはそんな親子を微笑ましく眺めながら、カイがここにいたらまっさきにあのお店に行きそうだなと思った。
 
「…………」
 
そういえば、と、これまでの流れを思い返す。みんなとは別々の空間にいながら、連動していた。急に人が現れたのも同じだったし、性別は違うけれど子供と出会って探し物を頼まれたのも同じだった。同じアイテムではなかったけれど。アイテムを手に入れた後、随分待たされた。カイが何をしていたのかは知らないが、きっとのんびりしていたからだ。
 
「みんなが揃わないと次にいけない……?」
 
同じ考えが頭を過ぎったのはヴァイス、ルイ、シド、ベンも同じだった。唯一カイだけはなにも考えておらず、目の前のおもちゃに夢中になっていた。
 
「すっげ! すっげ! このブロック、組み合わせ次第でいろんなのに変身するんですけどー!」
 と、試供品で遊んでいる。
 
アールは立ち上がり、あまり頼りにならない頭をフル回転させた。──同じことをすればいいんじゃないだろうか。みんなにも同じ展開が起きているとするならば、きっとみんなの前にも町が広がっているに違いない。問題はそこからだ。みんなはなにをするだろう。これはもしかしたら、バラエティ番組でよく見る“仕切りの隣にいる人と同じポーズをしてください”みたいなあれではないだろうか。
 
アールは町全体を見遣った。色んな店、色んな人がいる。私はさっきパンを食べた。もしかしたらみんながパンを食べてくれたら次の展開に進めるんじゃないだろうか。そういう仕組みなのではないだろうか。
 
「んー…考えてもしょうがない! 行動あるのみ!」
 
仲間の誰かに合わせるのは難しい。みんなが同じ人に合わせるとは限らないし、そもそもこんな考えを思いついていない仲間もいるかもしれない。それ以前にこの考え自体間違っているかもしれない。
 
「よし、みんながやりそうなことやってみよっと」
 
アールは一先ずカイが行きそうなおもちゃ屋へ向った。その頃、ルイとシドとヴァイスも、同じ様におもちゃ屋へ向ったことは誰も知る由も無い。
 

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