voice of mind - by ルイランノキ


 有為転変2…『奇妙な世界』 ◆

 
午後9時過ぎ。
晩御飯も食べ終えて片付けも終えたテーブルに、集めた金のプレートで出来上がった丸い円盤を置いた。本はルイが持っており、全員と目を合わせると一先ず本の鍵を開けた。そして、円盤の上へと移動させた。
すると、突然円盤が光を放ち、その光は本を包み込んだ。ルイが本から手を離したが、本は独りでに宙に浮いてパラパラとページをめくて見せた。その光景に一同は息を飲んだ。
カウンターに座って古書を読んでいたテトラも眼鏡を掛けなおして一同に目を向けると、その成り行きを見守った。
 
パラパラとめくれていた本はあるページで止まると、なにも書かれていなかったそのページに円盤の絵を浮かび上がらせた。それと同時にテーブルの上に置いていた円盤が消えて無くなり、くっきりと円盤が描かれたページを開いたまま、本はテーブルの上にドサリと落ちた。
 
「どゆこと?」
 と、カイが本を上から覗き込んだとき、描かれていた円盤は真っ黒い渦と化し、掃除機のようにカイを飲み込んでしまった。
「カイさん!」
 咄嗟に手を差し伸べたルイだったが、彼も本の中へと飲み込まれてしまう。
「…………」
 残された一同は顔を見合わせ、一人ずつその黒い渦に手を伸ばし、本の中へと入って行った。
 
ただひとり、ジョーカーだけはその場に残り、本棚に寄りかかって腕を組んだ。テトラはそんなジョーカーに目をやった。
 
「お前さんは行かないのかね」
「全員行く必要があるか?」
「興味がないのかね」
「ないな」
 
アールたちを吸い込んだ本は独りでにページをめくり始め、パタンと表紙を閉じてしまった。
 
一番はじめに本の中へと吸い込まれたカイは、草原にいた。足首まである同じ色をした緑の草が一面に広がっている。目で見える範囲一面に、である。それ以外は何もない。遠くの方は霧がかかっている。頭上を見遣ったが、真っ白だった。
 
「ん……? なにここ……」
 
あたふたと周囲を見遣るもなにもないし、自分しかいない。あとから仲間が来るに違いないとその場に座り込んで待ってみるも、一向に誰かが来る気配もなかった。
 
「おーーい」
 
仕方なくあてもなく歩いてみる。音は自分から発する音以外は聞こえない。足元に広がっている緑は綺麗だが、なんとも味気なく不気味さも感じる場所だった。
 
その頃、カイを追って本の中に入り込んだルイの目には、虹色の水面が広がっていた。しかし足元をよく見てみると、足首まで濁りのない透明な水が張られ、底には角のない色とりどりの石が敷き詰められていた。水自体に色はなく、7色ほどあるそれぞれの石の色が全体を見渡したときに虹色の水のように見えていただけのようだ。
 
「ここは一体……?」
 
浅い水は一面に広がっている。ルイが歩くたびに水面に波が生まれた。カイ同様、遠くの方は霧がかかっている。
 
アールは白い砂漠にいた。足跡ひとつない、白い砂が足元に広がっている。
膝を曲げ、砂に触れてみた。サラサラと軽く、濁りがない。
 
「誰もいないしなにもない……」
 
一歩踏み出すごとに、サクサクと砂を踏みしめる音がした。空は青く、雲はない。暫く歩き進めて立ち止まり、耳を澄ませ、「誰かー」と声を出してみる。なんの変化もないことを確かめると、再びあてもなく方角もわからず適当に歩き進め、また同じ事を繰り返した。
 
ヴァイスは線路の上にいた。長い線路が霧の奥まで続いている。周囲は乾燥した大地が広がっており、空は青く雲は無い。自分が前を向いていた方へと歩き始めた。人の気配どころか自分以外の生き物の気配が全く無い。
 
シドは水の中にいた。といっても、自分が今水の中にいることに気がついたのは上空を見遣ったからだ。上空には水面がキラキラと光っている。水の中にいる感覚は全く無い。服は濡れていないし、呼吸も普通にできている。歩いてみるが、水の抵抗も無い。ただ、視界が少し青い。足元は白い砂で覆われている。貝殻や岩、珊瑚などはなく、魚もいない。
 
「…………」
 
シドも奇妙な空間に険しい表情を見せながら、一先ず歩き始める。
 
ベンは直径1メートルはある太い枝の上にいた。それが枝だと思ったのはまるで迷路のように入れ組んでいる枝の道が広がっていたからだ。そしてその隙間から見える上空には緑の葉が生い茂っているのがわかる。下は太い無数の枝によって見えない。
 
「どうなってんだ……」
 
周囲を見ても誰もいない。道なりに進むしかないようだ。
 
アールは時折足元の砂を手ですくい上げ、サラサラと落としながら歩いた。特に意味は無い。先に本の中へ入ったはずのカイとルイの姿がない。出会う気配もないし、同じ空間にいるのかどうかも疑問だった。立ち止まって携帯電話を開いた。圏外ではないことにホッとし、ルイに電話を掛けてみた。しかし。
 
「ん? あれ?」
 
呼び出し音が鳴らない。再びメモリーからルイの番号を表示させ、通話ボタンを押した。しかし何度やっても呼び出し音が鳴らない。
 
「壊れた?」
 
他の仲間に電話を掛けてみるが、全て無意味に終わった。念の為に着信履歴の方から掛けてみたり、番号を手動で入力してから掛けてみるが、どれも同じ結果に終わった。アールは周囲を見回し、この世界では連絡が取り合えないのだと察した。
その頃他のメンバーも、同じ状況下にいた。携帯電話をポケットにしまい、歩き出す。
 
アールは自分が歩いた場所を振り返ると自分の足跡が消えていることに気がついた。これでは同じ空間に仲間がいたとしても見つけてもらえない。
 
「おーい! カイー! ルイー!」
 
喉を痛めるほどの大声で叫んでみるも、返答は無い。
 
「もう……なんなのこれは……」
 
とぼとぼと歩き、歩いても歩いてもなにもない。やけくそになって全力で走ってみた。サラサラとした砂の上は走りにくい。足を取られながら全力疾走。体力がつき、ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返しながらへたり込んだアールは、呼吸が整うまで下を向いていた。そして、ふと人の気配を感じて顔を上げると、目の前には無表情で前方を見つめている男が立っていた。
 
「うわっ?!」
 
驚いて立ち上がる。いつのまにか周囲に点々と人が立っていた。しかし奇妙なのは、立っているだけで動いている人がいないことだ。
 
「なに……こわい……」
 
突然現れた人々は皆四方八方を向いており、瞬きもせずにただただ立っている。その顔に生気は無く、まるで血が通っていないように白い。
 

 
「こわい……こわいこわいこわいこわい……」
 
不気味すぎる!アールは自分の体を抱きしめ、警戒心を向けた。
 
「もうなにこれ怖いんだけどっ!!」
 

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©Kamikawa
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