voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-3…『ごめんね』

 
2位に下がったルイだったが、1位の背中を常に捕らえている。次の障害物までの距離を走るのも日ごろ運動していない者にとってはきついが、いつも外を旅して足を鍛えている分、ルイの体力はまだ保たれていた。
しかしここで足より腕の筋肉を必要とする障害物が参加者の行く手を塞いだ。コースを横切るように流れている大きな川。カヌーに乗って川を斜めに渡らなければならなかった。
ルイがはじめて茣蓙で待機している一行に目を向けた。
 
「どうする? 誰か自信ある人いない?」
 と、アール。
「俺っちは流されてゆくと思う。転覆しない自信はあるけど」
 カイはそう言ってやる気なく欠伸をした。
「ベンさんは?」
「どうだろうな。行ってもかまわないが」
「シドは嫌でしょ? ベンさんお願いします」
 と、アール。
 
シドは黙ったままだ。確かに、カヌーを漕ぐためだけに行くなど面倒でしかない。
ルイは走ってきたベンとハイタッチをして選手を交代した。
 
「すみません……腕力にはあまり自信がなく」
 川の流れが速いため、流されてしまいそうだった。
「俺も自信はないが、少しは役に立たねぇとな」
 ベンは腕まくりをして、カヌーに乗り込んだ。
「渡りきったら交代します」
 ルイはそう言い残してコースから出た。
 
茣蓙に乗り込んだルイを乗せて先に川を渡り、ゴール地点でベンを待った。
ベンは思ったよりもスムーズに進んでくれるカヌーに1位の座を奪うのも時間の問題だなと自信を持ったが、後ろから追い上げてきたチームが意図的にぶつかってきたため、危うく転覆しそうになった。
 
「邪魔だ退けっ!」
 と、3位の男。彼のチームは5人。第1ステージのとき、アールが助けを求めたのに手を貸さなかった男がいるチームだ。
「……相手を沈めるのはルール違反にはならないよな?」
 ベンはそう言って、オールを構え、相手のカヌーへと振り下ろした。
 
大きくバランスを崩した3位チームのカヌーはぐらぐらと揺れて立て直そうとしたが間に合わず、横転。仲間が助けに向かってくるのを横目に、ベンは1位との差を埋めるように漕ぎ始めた。
 
「アールとカヌーに乗りたい」
 と、カイはアールの隣に移動した。
「急になに?」
「池でカヌーに乗って白鳥に餌をやりながらさ、アールがお腹を摩るわけ。『はやくこの子にも見せてあげたいわ』ってね!」
「──ってね! じゃないから。その妄想怖いから」
「俺っちもアールのお腹を摩りながら、『今度はカールも一緒にカヌーに乗って白鳥さんに餌をあげようね』って優しく声をかけるんだ。そしたらカールがお腹を蹴って『早くパパとママに会いたいよう』ってね!」
「怖い。」
 カイはアールと自分の間に生まれる子供の名前を既にカールと名づけている。
「あ、曲の神様が久しぶりに下りてきた」
「…………」
「カール、君の名はカールぅ〜。パパとママの名前からとってカールぅ〜」
「怖い怖い。」
「二人目の子供はルカ〜、イルカじゃないのよルカなのよ〜」
「二人目産まれてるし。」
「三番目の子はアイ〜四番目の子はアカ〜五番目の子は──」
「もうやめて。好きな人いるんでしょうが」
「…………」
「…………」
「五番目の子はカイル〜」
「もういい」
 

好きな人、いるんでしょ?
そんな話を切り出すたびにわかりやすいカイの顔色が一瞬にして変わる。

 
「カイさん、歌ってないでベンさんを応援しましょう」
「えーだって今は仲間として参加してるけど敵じゃん」
 

段々とそれをおもしろいと思うようになっていた。

 
「金のプレートを手に入れなければいけないんです。協力し合い、応援もしましょう」
「ベンだってさ、俺に応援されても嬉しくないと思うけどねぇ」
 

切り出すたびに傷つけているとも知らずに。

 
「ベンさん! あと少しです! がんばってくださいっ!」
「右に同じ!!」
 

ごめんなさい。
 
ほんとうに。

 
「魔物の匂いがするな……」
 と、呟いたのはヴァイスだった。
 
その呟きに反応したのはシドだ。ようやく自分の出番が来る。そう思った。
 

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