voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-1…『第2ステージ』 ◆

 
ムスタージュ組織 第三部隊に所属している副隊長のベンも、第十部隊から仲間に入ったジョーカーも、そしてそのジョーカーによって魔物化したクラウンも、第三部隊に見切りを付け始めていた。チャンスがあれば第二部隊、いや、第一部隊に昇格することを望んでいる。
 
──第三部隊が、消される前に。
 
誰もが自分の居場所を探している。今いるこの場所で満足している者などいない。
もっとも自分に相応しく、もっと居心地がいいと思える場所を探している。
 

 
シドはトイレの鏡に映る自分を見遣った。
最近笑ってないな、と思う。世界の平和を守るのに笑顔など必要ない。必要なのは世界を脅かす影に立ち向かう自信と希望とそれを上回る力。安らぎなど、平和が確証されてからでいい。
 
「…………」
 

 
──俺に、世界の未来を見届けることができるのか?
 
二の腕の属印に触れ、爪を立てた。信用されていない。いつ消されてもおかしくはない。信用がないなら取り戻せばいい。どうやって。そんな時間あるのか?
 
「なにをしている」
 と、シドの後ろに鏡越しに姿を見せたベン。「そろそろ第2ステージがはじまるぞ」
「…………」
 シドは鏡に映るベンを睨み、水道の水で顔を洗った。
 
トイレから出ると、第1ステージを上位でクリアした参加者が既にスタートラインに立っていた。ルイがシドに歩み寄った。
 
「遥か前方に見える高台の上に旗がありますよね。あそこがゴールだそうです。第2ステージは障害物競走で、第1ステージとは違って武器や魔道具を使うのは禁止、ただし体術は許されています。コースを走れるのは一人だけですが、チェンジは何度でも可能。回復薬や回復魔法は禁止ですがコースの途中に体力を回復してくれる魔法円があります。ただ、使用できるのは1チームにつき1回、要するに一人だけです。また、コースの先々で待っている障害物は10メートル手前まで近づくことで明らかになるようです」
 
アールは側でルイの説明を聞きながらコースを眺めた。今はただうねった道が高台へと繋がっているだけでなにもないように見える。障害物に近づくことで全貌が明らかになってゆく仕組みだ。シドがトイレへ行ったときに一度進行者が説明しているが、アールの頭ではたった1度の説明では覚えられなかった。それはカイも同じである。
 
「ルイがいてよかったねぇ。俺とアールじゃルール守れずに反則して退場になりそう」
「うん、覚えられないもんね」
「覚えて尚且つそれを理解するのに時間がかかるもんねぇ」
「一緒にされたくないけど否定できない」
 
説明を受けたシドは黙ってコースを眺めた。待ち受けている障害物にどれだけ体力を奪われるかが問題だろう。
 
「最初に誰が行きますか? 障害物次第では目前でチェンジしましょう」
「カイは? 足速いし。お腹の調子はどう?」
「ご褒美によります」
「なんでもするからお腹の調子はどう?」
 と、適当に応えるアール。
「なんでも?! あんなことやこんなことも?!」
「なんでもするからお腹の調子はどう?って」
 もちろんなんでもする気はないのだが。
「すこぶるいいよ! 俺走っちゃう! 吐きながらでも走っちゃう!」
「ではカイさんはスタートラインへ」
「なんでもするんだよね?! 約束だからね!」
「うん、なんでもするから頑張って」
 と、心にもなく適当に応えるアール。
「そういえば私たちはどうするの? どこで待機するの?」
「僕たちは茣蓙(ござ)に乗ってコースの隣を走るのですよ」
「……ござ?」
 
ルイについていくと、パイプテントの下にチームの数だけ筒状に丸められた茣蓙があった。ルイは1枚の茣蓙を地面に広げると、3畳ほどある茣蓙の上に正座した。
 
「……なにしてるの?」
「さ、みなさんも乗ってください」
 
戸惑いながらも茣蓙の上に乗ると、地面から50センチだけ浮かび上がり、スタート地点の横に着いた。
 
「なんで茣蓙なんだろう……絨毯がよかった」
 と、アールは茣蓙を摩った。全然かっこよくない。魔法の絨毯ならぬ魔法の茣蓙なんて初めて聞いた。イグサの匂いが鼻をつく。
 
《──さぁ、そろそろ準備が出来ましたでしょうか。第2ステージへ進んだみなさまの勇姿はパーク内の巨大スクリーンに映し出されておりますので、余裕がありましたらカメラに向かってアピールを!》
 
ラジコンヘリに付けられているカメラがスタート地点に立っている参加者の周りを飛んだ。カイが真っ先に反応し、アイドル並みに両手を振ってみせている。
 
《それでは! 第2ステージ『障害物競走で障害物を乗り越えちゃって行っちゃってゲーム』をはじめたいと思います。位置について! よーい! スタートッ!!》
 
ファーンという音と共に、参加者達が一斉に走り出した。
 
パーク内にあるメイン広場のスクリーンにはチーム戦の様子が映し出されていた。スタートの合図と共に歓声が上がる。どのチームが優勝するのか、賭けている者もいる。女がいるチームは人気がなかった。女は足手まといだという印象が強いのだろう。
 
茣蓙に乗ったアールたちはカイがテレビカメラにばかり気を取られて直線のコースで次々と抜かれているのを見て大きくため息をこぼした。
 
「カイ! ちゃんと走って!」
 
まだスタートしたばかりだ。ビリになるのは体力温存にもなるしかまわないが、カイはカメラに向かって飛び跳ねたり手を振ったりと無駄な動きが多い。
 
「はーい!」
 アールのお叱りを受け、真面目に走り出す。武器は必要ないため、シキンチャク袋の中にしまっている。
「そろそろ障害物が見えてきそうですね」
 
どんなおぞましい障害物が待っているのか、誰しもが息を呑んでいたが、参加者たちの前に現れたのは網が張られている泥池だった。傍らの看板には《潜ってね》とハートマークを添えて書かれている。
 
「最悪」
 と、アールは呟いた。
 
しかしカイは楽しそうに泥の池へとダイブ。カイの子供っぽいところが役に立つ。泥に入るのを楽しいと思えるのは子供くらいだろう。
泥池の前で思わず足を止めたのは参加している女性だった。仲間に目で訴えるも、誰も代わってくれず、渋々池に入って行く姿がスクリーンに映し出されている。
 
「ひどい。男性が行けばいいのに」
「えぇ。ですがこのあとどのような障害物が待っているかわからないので、判断も難しいのかもしれません。男性人は厄介な障害物が現れるまで体力を温存しているのかもしれませんよ」
「そっか」
 このままゆるーい障害物ばかりという可能性もなくはないが。
 
アールは遥か前方に見える高台を見遣った。高台への頂点へと真っ直ぐに伸びる道が太陽の光に反射して見える。あれは滑り台ではないだろうか…。どうやって上るんだろう。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -