voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国17…『スーの活躍』

 
「アールさん!」
 
今、鍵を投げようと思っていたところにようやくルイがやってきた。アールは緊張が解け、ほっと胸を撫で下ろした。
 
「ルイ……」
「遅くなってすみません」
 ルイはアールがまだ鍵を持っていることと、ヴァイスを見上げ、全てを察した。勿論、電柱にも目を向け、使えないことも理解する。
「カイさんを来させるべきでしたね……。シドさんがもうひとつの鍵を見つけてくれました。どちらかが偽物である可能性も考え、両方の鍵も持ってきました」
「そうだったんだ……。さっき魔導士の人が風の魔法で鍵を向こうまで運んでたの。ルイ出来る?」
「僕が取得している風の魔法は本来攻撃魔法です。物を運んだりする風も起せなくはありませんが……うまくいくかどうか」
「森に向かって試してみる?」
 と、アールは池とは反対側にある森の方を向いて鍵を持った。
「ではあの木を目掛けて鍵を運ぶように風を起してみますね」
 
風を調節しながらアールの手から鍵を浮かび上がらせたが。勢いよく1メートルほど飛んで落下してしまった。
 
「上にあるものを風で下に下ろした経験がありますが、その逆は難しいですね。紙切れなど、軽いものならいけそうですが」
 と、ルイは鍵を拾い上げた。
「あ、スーちゃん! 風船みたいに膨らむこと出来るよね?」
 アールが訊くと、スーは地面に降り立って体を膨張させた。風船ガムのような大きさからみるみるバランスボールくらいの大きさまで膨らんでゆく。
「膨らんだスーちゃんに鍵を持たせたら軽くなるんじゃない?」
「スーさんの体内の空気はヘリウムではないので鍵の重さにスーさんの重さプラス空気の重さが加わるだけですね」
「あれ?? そっか……」
「ですが空気抵抗が大きくなり、浮力も加わって飛ばしやすくはなりますね。試したくはありませんが……」
 失敗は出来ないのだ。一発勝負にスーの命をかけるようなことはしたくなかった。
「池ポチャは避けたいね……。個壁結界の床バージョンとかない?」
 池に結界で蓋をするつもりだ。
「物凄い発想力ですね。ですが、残念ながら……」
「結界の上に結界立てられない?」
 少しずつずらして階段のようにするもりだ。
「それも残念ながら」
「……やっぱり投げるしかないか。2投分あるし。見る限りでは同じ形の鍵」
「…………」
 
ルイはアールの肩にいるスーに真剣な眼差しを向けた。
 
「スーさん、やはり、あなたに鍵を託しても良いでしょうか。スーさんごと飛ばしたほうが万が一届かなくてもスーさんなら“手”を伸ばして届くかもしれませんし、それでも届かなければ僕が結界であなたを守ります。剛柔結界なら池に落ちても浮かぶはずですから」
 スーは両手で“まる”をつくった。
「そして投げるのはアールさんにお願いしたいのですが」
「えっ無理だよ!」
「大丈夫です、真っ直ぐに投げることだけ考えて投げてください。僕はあなたの後ろから魔法で風を起します。変な方角に飛んだら結界でスーさんを囲みます」
「でも……体力だけじゃなくて魔力の回復薬も回復魔法も使っちゃいけないんでしょ?」
「結界は大きさや強度にもよりますがそんなに魔力を使いません。僕自身も成長しているので魔力の減りは以前より減少したのですよ。ですから心配しないで下さい」
「……うん、わかった。やってみる」
 
スーは鍵を包み込むように、綺麗な球体になった。アールが投げやすいようにだ。
アールはスーを握って、そのつぶらな瞳を見つめた。
 
「スーちゃん、がんばってね。私もなるべくちゃんと真っ直ぐ飛ばすから」
 スーは瞬きをした。
 
鳥かごに捕らえられているヴァイスは、足元に違和感を感じて片方の足を軽く持ち上げた。靴底が溶けてガムのように糸を引いている。鳥かごの底は熱い鉄板と化していた。
 
「自分のタイミングで投げてください」
 と、ルイはアールの後ろでロッドを構えた。
「そして出来れば投げたらすぐにしゃがんでください」
「わかった。──よし。じゃあスーちゃん、いくよ」
 
アールはプロ野球選手になった自分を想像し、スーを構えて真っ直ぐにヴァイスを見上げた。そして、大きく息を吸い込むと、思い切り振りかぶり、目一杯の力でスーを放り投げた。ルイはタイミングを合わせて風を発動させ、飛んでゆくスーのスピードを加速させた。
グツグツと煮えたぎっている赤い池の上をスーがヒュンッと飛んでゆく。しかしそのスピードはあと少しで鳥かごに届くというところで減速。スピードが落ちたのを体で感じたスーは体から手を作って伸ばした。伸ばした先には鳥かごの鉄格子の間から手を差し伸べているヴァイスの手があった。ルイは剛柔結界を発動させようか迷った。ヴァイスが何とかスーの細く伸びきった手を指先で掴み、鳥かごの中へ引き寄せた。アールとルイがホッとしたのもつかの間、スーが鉄格子をすり抜けると同時にガキンと金属が触れ合う音がしたかと思うと、スーが持っていたはずの鍵が落下してゆくのが見えた。
 
「ルイッ!」
 
アールが叫んだが、ルイは反応に遅れ、鍵はそのまま池の中へとポチャンと落ちてしまった。
 
「残念だったな」
 と、いつの間にか他チームが後ろに立って様子を見ていた。それはまるでクレーンゲームをしている人を見ている客のようだった。
 
「どうしよう……」
「鍵はもうひとつありますが……」
 と、ルイはポケットに入れていた鍵を出した。
 
ヴァイスの革の袖は熱を帯びた鉄格子に触れたことで少し溶けていた。ヴァイスの手の平に乗せられたスーは思わぬ失態にだらんと溶けた。
 
「……熱で溶けたのか?」
 ヴァイスが心配そうに言うと、スーはすぐに元の大きさに戻った。
「誰にでも失敗はある。気にするな」
 
そうは言われても、スーも男だ。このまま何もせずにはいられなかった。ヴァイスの手から飛び降りたスーは鳥かごの床に着地するとジュッと焼ける音がした。そこから鍵穴へジャンプして、体を穴へとねじ込ませた。鍵を開けたことは何度もある。今回もこれどうにかなるはずだ。──ただ、焦げ臭い臭いがヴァイスの鼻をついた。
 
「無理はするな」
 
ヴァイスがそう言った瞬間、ガチャ、と鍵が開いて扉が開いた。ヴァイスはすぐにスーを鍵穴から引き出した。鍵穴に入れていた部分は溶けたゴムのように粘り気があり、少し焦げているのか茶色くなっている。
 
「……大丈夫か?」
 
ヴァイスが尋ねると、スーは体から手を作り出してひらひらと手を振った。──なんとか大丈夫。と言っている。
 
「スーちゃんが開けた! スーちゃんが鍵開けたみたい!」
 と、アールは喜んだ。
「頼りになる仲間ですね。しかしこの後どうするか、です。さすがのヴァイスさんでも助走がとれない上に足場が揺れる不安定な場所からここまで飛ぶのは無理でしょうし」
 
不安げに見上げていた二人だったが、ヴァイスは特に問題視していなかった。
二人の心配をよそに、ヴァイスはスーを肩に乗せて鳥かごの鉄格子を掴んで外側に回り、鳥かごの上まで軽々と飛び上がると、そのままピョンピョンと頭上のワイヤーの上を通って下りてきた。
 
「……電気通ってるんじゃなかったの?」
「まやかしでしょうか……」
 驚いている二人の元にやってきたヴァイスは、一言で説明した。
「電気を防ぐ防護服だ」
「あぁ! そうだったんだ……て、でも破れてる……」
 ヴァイスの袖も革のグローブも溶けて剥がれていた。
「熱や炎にも強いはずなんだがな」
「ご無事でなによりです。さぁ、戻りましょう」
「…………」
 アールは今も鳥かごに捕らえられている敵チームを見遣った。
「……助けられませんよ。お気持ちはわかりますが」
「うん……」
 
ゲートに戻ろうとしたところで、ゲートの魔法円から光が放たれた。やってきたのはカイだった。それもシドが水中で手に入れたアイテムを持っている。
 
「あ。お役御免ってやつ?」
「カイさん……それは? というか、こちらに来たということは鍵を持っているってことですか?」
「この中に鍵がありそうで一応持ってきたんだ」
 と、両腕に抱えていたアイテムを地面に置いた。
 
ルイはひとつひとつ見遣り、液体が入っている小さな瓶と、びしょ濡れのぬいぐるみに目を止めた。ぬいぐるみを揉むように触ると、腹部に硬いものが入っていることに気付いた。
 
「鍵はこの中かと」
「その瓶は?」
 と、アール。
「瓶の底に小さな魔法円が掘られています。これで最悪の事態からは救えるかもしれません」
 と、アールに渡した。
「え?」
「熱を冷ます魔法の液体のようです」
「!」
 
アールは急いで池に駆け寄り、中の液体を池に流し入れた。それにしても水深はわからないが随分と大きな沸騰した池に対して大匙一杯程度しか入っていない魔法の水が効くのだろうか。疑い深く水面を眺めていると、沸騰してボコボコと泡立っていた水面が徐々に治まっていくのがわかった。
 
「すごっ!」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -