voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国15…『赤い池』

 
あまりの熱さに目を細めた。毛穴という毛穴から汗がにじみ出てくる。まるで砂漠にいるかのように辺り一面陽炎のようにゆらゆらと歪んで見える。
そこにはモニターにも映っていた、人工的に作られた真っ赤な池があった。赤い池はマグマのように煮えたぎっており、辺り周辺の温度を上げている。その上には捕虜として鳥かごに入れられぶら下げられている参加者の姿があった。それぞれの鳥かごは太い1本のワイヤーにぶら下げられており、全ての鳥かごを支えているワイヤーは家の端に建てられた電柱と繋がっている。更にそこには電流が走っていることを注意するように60mAと描かれた稲妻のマーク看板が立てられていた。
 
アールは鍵を持ったまま呆然と眺めていた。ここまでくれば鍵をさして鳥かごからヴァイスを救い出せると思っていたが、大きな問題があった。鳥かごは池から40メートル上にあり、池の縁から80メートル離れている。まず鍵を鳥かごまで運ぶのにも頭を使う必要があった。
 
アールは一先ずヴァイスを探した。煮えたぎっている池の真上に吊るされている彼らは熱がこもった蒸気を浴び続け、脱水症状を起している者もいた。
 
「ヴァイス!」
 
アールがヴァイスを見つけて声をかけると、ヴァイスもアールの姿を目で捉えた。スーも必死にアールの足元で飛びはね、自分の存在をアピールしている。
 
「鍵ぶん投げても届かないよね……絶対届かないよね……届いても私が上手く投げられるかどうか」
 
イメージトレーニングをしてみるも、届く気がしない。こんなときカイがいてくれたら。
カイを呼ぼうとしたが、ハッと気付いた。そうだった。武器以外は没収されているのだ。勿論、携帯電話も。
 
「どうしよう……」
 
周囲に目を向けると、離れたところで別のチームが風の魔法を上手く操って、仲間が捕らえられている鳥かごに鍵を運んでいるところだった。無事に届けられた鍵で扉を開き、鍵を運んだ魔導士と思われる男は氷の魔法を使って池の縁から鳥かごを繋ぐ橋を作り出した。滑るようにして脱出し、二人はアールの方へと歩いてくる。
 
「あのっ!」
 思わず声をかけた。
「手を貸す気はねぇぞ」
 と、二人の男。
 アールはバツの悪い顔をした。
「そこをなんとか……お願いします!」
「なんで敵チームに手を貸さなきゃなんねんだ」
「そっちはもういの一番に仲間助けたんだからいいじゃないですか。少しだけ手を貸してくれても……」
「図々しい」
 と、彼らはゲートへ向かう。
「お願いします! それとも手を貸すのが怖いですか?」
「はぁ?」
 と、足を止めた。
「手を貸したら次のステージで負けそうですか?」
 強気に出てみたものの、判断を間違えた。
「悪いがいくら煽ったって手は貸さない。自分でどうにかするんだな」
 そう言い捨て、彼らはゲートから戻って行った。
 
途方にくれたアールに、スーがひとつの提案を出した。足元で飛び跳ねるスーに気付いたアール。スーがなにか伝えようとしているのがわかった。スーは体から手を作り出し、自分を指差した。
 
「自分?」
 
それから今度はヴァイスの方を指差した。
 
「ヴァイス?」
 
そして足元の小石を拾って、投げると、アールの目を見つめた。
 
「……もしかして自分を投げろって?」
 
スーはそのとおり!と拍手をした。
 
「そんなの危険だよ……池に落ちちゃったら死んじゃう!」
 
アールはスーを拾い上げ、肩に乗せた。
 
「物を投げるコントロールに自信がないの。ていうか80メートルくらいあるけどそんなに飛ばせるわけがない……。カイがいたらいいのに。ルイでもいいのに。よりにもよって何もできない私が鍵を持ってきちゃった……」
 
ヴァイスを見上げた。鳥かごは今も少しずつ池に近づいている。そして誰かが「熱い熱い」と叫んだ。真っ赤になった腕を摩っている。「鳥かごが熱い……」その言葉を聞いた他の参加者は、あまりの熱さにまくっていた袖を伸ばした。鉄で作られている鳥籠に直接肌が触れないようにだ。
動揺している様子もなく落ち着いているヴァイスだったが、その額からは汗が流れ落ちた。
 
アールは電柱に目をやった。電柱といっても、電線はない。このゲームに使用するために作られたコンクリートの柱だ。60mAと書かれているが本当に電気が走っているのだろうか。もしもまやかしなら、スーに鍵を持たせてワイヤーを通って運ばせることが出来るのだが。
 
「なんで誰も来ないんだろ……」
 仲間の到着を待った。間に合わなければ、もう一か八か鍵を投げるしかない。投げたところでどう脱出するのかは疑問だが。
 
「あんた鍵持ってんだろ?!」
 と、捕虜の誰かがアールに向かって叫んだ。
「だったら俺を助けてくれよ! そしたら手を貸してやるから!」
 ヴァイスがいる鳥かごの4つ隣にいた彼は、必死にそう呼びかけた後、手の平を鳥かごの外に向けた。すると、彼も魔導士なのだろう、手を翳された遥か先にある地面がボコッと盛り上がり、岩が出来上がるといくつも積み重なるようにして彼の元まで繋がった。岩の階段だ。
「あなたを助けたら……手を貸してくれるの?」
「勿論だ! 約束する!」
 
信じていいものだろうか。でも、このままではタイムオーバーになってしまう。
アールは岩の階段に足を乗せたが、岩の階段を作り上げた魔導士の隣の鳥かごにいた女性がアールの足を止めた。
 
「信じちゃだめ! 鍵はどの鳥かごでも開くけど、一度使ったらもう使えないの!」
「え……」
「余計なこと言うんじゃねーよ!」
 男は女を睨みつけ、アールに視線を戻した。
「確かに鍵は一度使ったらもう使えない。でも俺の仲間がもうすぐ鍵を持ってくる。いや、なにがなんでも持ってこさせる! だから頼むよ! 協力し合おう!」
「…………」
 
アールは黙ったまま、岩の階段に乗せていた足を下ろした。
 
「おいッ!」
「仲間が持ってくるんでしょ? だったら仲間を待てばいいじゃない」
「……クソッ」
 
男が作り出した岩の階段が崩れ、消えてしまった。
 

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©Kamikawa
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