voice of mind - by ルイランノキ


 静かなる願い13…『俺に任せんしゃい』

 
「言い忘れておったが、一度に停止できる最大時間は1時間じゃ。次にまた停止するにはその倍の時間を待たねばならん」
 
要するに1時間以内に時計台の出入り口を探して一番上まで上ってヒメルを救い出し、金のプレートを手に入れろ、ということだ。これがゲームなら、時間制限が設けられているため厄介なミッションだな、とアールは思った。こういうのは気持ちばかり焦るのだ。
 
「では手分けしましょう。アールさんとカイさんとヨハンネスさんは時計台のすぐ周辺を。僕とヴァイスさん、そしてスーさんは少し離れた場所を探します。塔への入り口が塔にあるとは限りませんから」
 
なるほど、と感心している場合ではない。1分1秒、無駄にはできない。それぞれ出入り口を探し始めた。
 
「ボタン的なものがあってさぁ、それ押したら扉が現れるとか、どう?」
 と、カイ。
「いろんな可能性を考えてとにかく怪しいものあったら教えて」
 と、アールは塔に触れながら外壁の隅々まで見て回る。
「怪しくないものかもしれないじゃん。怪しいものだったらすぐに見つかっちゃうし」
「じゃあ怪しくなくてもなにかあったら教えて」
「そんなこと言ったら全部そうじゃん。この足元にある草だってさ、どれか引っ張ったら扉が現れるかもしれないってことでしょー?」
「とにかく、なにかありそうと思ったら自分で確かめて。ていうか私のすぐ後ろをついて歩かないでよ。カイは反対回りで探して」
「へーい……。ところでシラコっちどこいったの? 溶けたの?」
「先に戻ったの。待たせると悪いから早くミッション終わらせなきゃ」
「俺も先に戻りたい。そんでアイス食べたい」
「手伝わないなら向こう行ってて! 時間ないんだからわがまま聞いてる暇もないの!」
 痺れを切らしたアールはカイに怒鳴り、探索を再開した。
 
カイは頬を膨らませ、ムスッとしながらアールとは反対方向から時計台の周囲を見て回る。
 
ルイは視野の範囲を広げ、自分ならどんな仕掛けを考えるだろうかと思考をめぐらせた。そもそも扉はあるのだろうか。出現するのだろうか。魔術で巨大な塔を建てるのは時間と力が必要だけれど可能だ。上空を見遣り、ヒメルがいるとされているてっぺんの鉄格子を眺める。なにか空を飛ぶものであそこまで行けないだろうか。あったら今頃誰かが試しているだろうけれど。
 
「これまでのダンジョンのように」
 と、ヴァイスが口を開く。「中から外へ出るゲートならありそうだな」
「……そうですね。確かにこれまでそうでした。海底の町では元々島にあったアリアン像が沈んでしまっていましたが、リンドン村の地下道も、アーテの館も、アリアン像があった場所から外へ出るゲートがありましたね」
 
逆はどうだろうか。ゲートの出入り口。ないとは言い切れない。あるとしても時計台から遠いとは考えにくい。時計台に近づけさせない魔法が既にかけられているのだからわざわざ出入り口を遠くに作る必要はないはずだ。いや、時計台に近づけさせない魔法を解除しないままに出入りできるようにしたのであればそれなりに距離は必要だろう。
 
「時計台にはヒメルさんが生贄として閉じ込められている……それだけなら何度も出入りする必要はないはずですよね?」
 と、ルイは考える。
「…………」
「ヒメルさんを閉じ込めるためだけに作られたのだとしたら、やはり出入り口はないのかもしれません。中の構図がわかればいいのですが……」
「…………」
 ヴァイスはルイと上空を見遣った。肩にいるスーも、時計台を見上げる。
「スーさん……スーさん!」
 と、ルイはスーに顔を近づけた。
 スーは驚いて目をパチクリさせた。
「スーさんは塔の鉄格子があるところまで上れませんか?」
 
スーはムリムリ!と手をつくって意思表示をした。
塔が斜めになっていたり出っ張りのあるデザインをしていれば上りやすいものの、真っ白い無機質な円柱の時計台が垂直に空へと伸びているだけだ。いくらなんでもスーでも上れない。
 
「やはり無理がありましたね……すみません」
 
とはいえ、なにか方法があるのではないかと思考をめぐらせる。空を飛ぶことができたらどんなにいいか。空を飛ぶことができたら。
 
「……ヴァイスさん、すみませんが引き続き探索をお願いします。なにか見つかりましたら連絡を。僕は少し調べたいことがありますので」
「わかった」
 
ルイはあることを思いついた。けれど時間がない。ヨハンネスの元へ駆けつける。
 
「ヨハンネスさん! お聞きしたいことが」
「なんだ?」
「ラジコンヘリ、お持ちではないですか?」
 そう、それならスーだけでも乗せて飛ばせるのではないかと思ったのだ。中の様子を見ることが出来たら塔へ上る手がかりが見つかるかもしれない。
「そんなものはないな。だが、ここはおとぎの国の外れ。森を抜けておとぎの国・ハニーランドへ行けばあるだろう」
 
そういえば森の木が行っていた。自分たちが選んだ道とは反対方向には楽しいおとぎの国がある、と。ただ、時間がない。
 
「ここから遠いのでしょうか」
「全力で走ったとしても30分だな。自転車なら裏の倉庫にあるが」
「貸していただけますか?」
「あぁ、だがそんなものをどうするんだ?」
「ヴァイスさんが連れているスタイムだけでも鉄格子から中へ入れればなにかわかるのではないかと」
「ふむ……しかしそこまで飛ばせるかどうか。見えないほど上空だからな」
「そうですね……」
 
ルイはヨハンネスと急ぎ足で家の裏へ回った。さび付いた古い自転車はタイヤの空気が全く入っていなかったが、パンクしているわけではなさそうだ。空気を入れるとパンパンに膨らんだ。
 
「ヨハンネスさんはおとぎの国へ行かれたことはあるのですか?」
「私に限らずこの村の住人は誰ひとり訪れたことはない。我々は呪われているからと、入ることを拒まれる」
「そうですか……」
「さ、急ぐんだ。あまり時間がない」
「行ってまいります」
 
ルイは自転車に跨った。漕ぎ始めたとき、目の前に人が現れて急ブレーキをかけた。古い自転車はけたたましい音を出して止まった。
 
「カイさん!」
 ルイの前に現れたのはカイだった。
「ノンノンノン、君の脚力で間に合うとでも? 俺が行く」
「行きたいだけでしょう……」
 しかしそんなやりとりをしている時間も勿体無い。
「話は聞かせてもらったよ。俺が行く」
「遊びに行くわけではないのですよ?」
「わかっておる。俺が行く」
 と、カイは引き下がらない。
「……任せて大丈夫なのですか?」
 仕方なく自転車を降りると、カイがすぐに跨った。
「任せんしゃい。ラジコンヘリと使えそうなおもちゃとか手に入れてくるからお金ちょうだい」
「借りてきてください、ラジコンヘリだけを」
「理由聞かれたらどうすんのさ。この村の話をしたら貸してくれそうにないじゃん」
「…………」
 考える時間はない。仕方なくカイにお金を渡した。そもそも本の中の通貨はどうなっているのだろう。
「くれぐれもお気をつけて。それから時間を守ってください。遊ばないで用が済んだらすぐに戻って来てください」
「わかったわかった。いってきまっすん」
 
カイは立ち漕ぎをして村の中心を通り抜け、颯爽と森へ向かった。
 
「心配です……」
 

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©Kamikawa
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