voice of mind - by ルイランノキ


 静かなる願い9…『王子様?』 ◆

 
「ルイー!」
 
森の中へ足を踏み入れたルイたちの元に、カイとアールが合流した。
 
「なにか見つかりましたか?」
「なにも……。でもカイが、もしかしたら時計台にあるんじゃないかって」
「……なるほど」
 と、ルイは考え込んだ。
「そっちもなにも見つからない?」
 アールはヴァイスを見上げた。
「あぁ」
「スーさんが何かの気配を感じたようで、森の中へ入ってみたのですが、今のところ何も見つかっておりません」
 ルイの手の上にはスーがいる。
「スーちゃん、まだなにか感じる?」
 アールが訊くと、スーは手をつくってバツを表した。
「もう少し森の中を探索してみましょうか」
「だったら私たちが。ルイは時計台を調べてくれない? 安易に近づいても大丈夫なのかわからないけど……」
「ヨハンネスさんにもう一度詳しく聞いてから、行ってみます。魔物はいなさそうですが、一応警戒してください」
「アールは俺が守るから心配なーい」
 と、カイ。
「ではお願いします」
 と言ったルイだったが、ヴァイスとアイコンタクトを交わした。
 
ルイは村に戻り、スーは再びヴァイスの肩へ。
 
「この森は広い? 手分けする? 迷うかな?」
「随分と奥まで続いているようだ」
 と、ヴァイス。
「じゃあ互いに姿が見える範囲で」
 
3人は少し距離を取って、スーが感じ取った“なにか”を探し始めた。
15分くらい歩きまわり、アールの足が止まった。なにか真っ白い塊が森の中にある。
 
「…………?」
 
恐る恐る近づいてみると、それは人間だった。真っ白い毛皮のコートを着た人間が、うずくまっている。女の人だろうか。薄い金色の長い髪が綺麗だ。
 
「あの……大丈夫ですか?」
「あ……」
 と、その人はゆっくりと顔を上げた。
 
アールは思わず目を見開いた。絵に描いたような“王子様”だったからだ。
 

 
「つ……つめ……」
 と、王子は言う。
「爪??」
「なにか冷たいものをいただけませんでしょうか……」
「あ、えっと……」
 
アールは慌ててシキンチャク袋から水筒を取り出した。
 
「そんなに冷たくはないのですが……」
 と、蓋のコップに水を入れ、手渡した。
「ありがとうございます……」
 と、王子は水を飲んだ。
 
その姿も美しかった。アールは思わず見入ってしまう。本当に美しい男性だった。その声から男性であると認識したが、喋らなければ性別がわからないほど中世的で、まるでCGのように整った顔、長い睫毛、肌も透き通るほど美しい。まさに絵本の中から現れた王子さまそのものだった。
 
アールが魅了されていたせいでカイとヴァイスは暫く経ってからその男性に気がついた。
 
「美人なねえちゃん?!」
 と、思わずカイが駆け寄るが、男である。
「あ、男性だよ……」
 と、アール。
「男?! その顔で男?!」
「失礼だから……」
「なにか冷たいもの……を……」
 と、その男性は倒れてしまった。
「えぇ?! どうしよう!」
「村まで運ぶか」
 と、ヴァイス。
「運べる?」
 
ヴァイスは軽々とその美しすぎる男性を抱き上げた。お姫様抱っこだ。
 
「重くないの?」
「軽い」
 
かなり着込んでいるようで、慎重も170以上あるため重そうに見えたが、細身の男性らしい。ヴァイスは男性を抱えて村へ向かった。
 
「あの顔で男だなんてもったいない!」
 と、カイ。
「びっくりするよね。私王子様が倒れてると思っちゃった」
「俺より綺麗な顔をしてる人はじめて見た! 認めざるおえない!」
「…………」
 アールとカイはヴァイスの後ろをついて歩いた。
「これも展開ってやつー?」
「そうかも。あんなに綺麗な人、現実にいなさそうだもん」
「兄弟いるのかな?! お姉さんか妹いるのかな?! お母さんでもいい!」
「狙いすぎ。」
 
元気がなかったカイのテンションが上がるもの無理はない。息を飲むほど美しい人が現れたのだから。それも男性だ。
 
「スーちゃんが感じ取ったのって、この人?」
 アールはヴァイスの肩にいるスーに尋ねた。
 
スーは体でハテナマークをつくって、わからないと表現した。
 
「村に戻っても宿あったっけ?」
 と、カイ。
「あ、そっか。私先回りして聞いてくる!」
 アールはヴァイスにそう伝え、村へと走って行った。
 
「ほんと綺麗な男だなぁ」
 と、カイはヴァイスの隣に移動し、男の顔を覗き込んだ。男は意識を失いかけている。
「…………」
「ヴァイスも思うでしょ。ていうか、ヴァイスも髪長いよねぇ。俺も髪伸ばそうかなぁ」
「…………」
「写真撮ろう」
「今はやめておけ」
「じゃあ後で撮らせてもらおっと」
 
急ぎ足で村に戻ったアールは、すぐ近くにいた村人に声をかけ、宿があるのか尋ねた。しかしこの村に宿はないという。事情を説明すると、ヨハンネスに聞いてみるといいと提案してきた。
そのせいでアールは更に村の奥まで走らなければならなくなったが、はたと足をとめてルイに電話をかけた。ヨハンネスと一緒かもしれないからだ。
 
『もしもし。どうかされましたか?』
 と、ルイが電話に出る。
「ヨハンネスさんそこにいる?」
『えぇ、いますよ』
 
ルイはヨハンネスと時計台のすぐ近くにいた。
 
「森の中ですっごく綺麗な男の人が倒れてて、休ませてあげたいんだけど村に宿がないって言うの。ヨハンネスさんならどうにかしてくれるかもって村人が」
『綺麗な? 訊いてみますね』
 アールにとって“凄く綺麗な男性”であることはどうしても伝えたいことだった。それだけ綺麗なのだ。
『──もしもし、ヨハンネスさんが家に連れてきて良いとのことです。僕は続けて時計台を調べますので、アールさんはその男性を連れてヨハンネスさんのお宅へ向かってください。ヨハンネスさんもすぐに戻られるそうです』
「わかった、ありがとう」
 
アールは電話を切り、ヴァイスたちの元へ戻ろうとしたが既に村の前まで来ていた。
急いで駆け寄り、事情を説明。この美しすぎる男性が何者なのか早く知りたい気持ちを胸に、ヨハンネスの家へと向かった。
 

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©Kamikawa
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