voice of mind - by ルイランノキ


 静かなる願い7…『呪いをかけた魔道具』

 
アールは大きな欠伸をして空を見上げた。明るい水色の空に、綿を裂いたような雲がうっすらとのびている。
ルイが塔を調べに行っている間、アールは村の中を探索することにした。カイはというと、小さな公園を見つけるとそそくさとベンチに横になった。
 
「可哀想って思ったけど……」
 と、アールは立ち止まる。「ここは本の中だったね」
 
そう言って隣を見遣ると、肩にスーを乗せたヴァイスがアールを見下ろしていた。
 
「だがここの住人は生きている。本の中でな」
「その本の内容って書き換えることできないのかな。人の手によって創られた世界と人々だけど、こんなシナリオの世界で生きるなんて辛すぎる」
「…………」
「テトラさんに訊いてみようかな。ここが金のプレートを隠すためだけに創られた世界なら、私たちがそのプレートを手に入れたらもうこんなシナリオである必要もないと思うし」
「そうだな」
 と、短く答える。
 
そこにルイが小走りでやってきた。表情は曇っており、塔にかけられている魔力は今も感じるとのことだった。
 
「カイさんは?」
「公園で寝てる。塔に近づけないとなると、呪いがまだ解けてないってことだよね? 呪いってどうやってかけるの?」
「おそらく黒魔術を使ったと思われます。ウィルソンという方がどのくらいの力を持っていたのかわからないのでなんとも……。それに魔術師の存在も気になります」
「どこからこの村にやってきたんだろう」
 残念ながらヨハンネスはそこまでは知らないという。
「村の周辺を探ってみようかと思います。呪いのために使った道具があるのだとしたら、どこかに隠されている可能性がありますから」
「どんな道具?」
「特定は出来ません。魔道具は無限にありますから。手分けしてもよろしいですか?」
「全然いいけど……見てわかるものなの?」
「古い魔道具を見つけたら知らせてください。今のアールさんなら触れるだけで少なからず魔力を感じると思います」
「そっか……探してみる」
「僕は村の外を。アールさんはカイさんと一緒に村の中を。ヴァイスさんは僕と外を頼めますか?」
「ああ」
「やっぱ人手が多いほうがよかったかもね」
 と、次の本探しを頼んだジャックたちを思う。
「村の住人にも、協力してくれそうな方がいたら協力してもらいましょう。村にかけられた呪いを解くためですから、協力してくださるかと」
「うん、声かけてみる」
「では後ほど」
 
ルイはヴァイスと目配せをして、村の外へ向かった。
アールは公園へ向かい、カイをたたき起こしてことの説明をすませた。
 
「魔道具探しかぁ、悪くないねぇ。戦うわけじゃないなら全然がんばれちゃう」
 と、カイは立ち上がり、背伸びをした。
「なにか見つけたら電話してくれる?」
「え、一緒に探さないの?」
「時間制限があるんだし、村の中でも手分けしないと」
「えー、じゃあ俺っちが先に見つけたらアールの負けってことで俺にチューね」
「なにそれ」
「いいじゃん。じゃないとがんばれない」
「さっき戦うわけじゃないならがんばれちゃうって言ったじゃん!」
「言ったっけ?」
 と、すっとぼける。
「ていうか……好きな人いるんでしょ?」
「…………」
 カイは虚空を見ていた視線をアールに戻した。
「トーマさんが言ってたけど」
「俺っちはアールが好きなんだ。じゃあそういうことで、負けたらキスね。お先!」
 と、カイは駆け出して行った。
 
「……ほんとに好きな人いるんだ?」
 
ほんの少し、口を尖らせる。あんなに好きだ好きだと連呼してたくせに、と。もちろん本気で受け取ってはいないけれど。
 
「調子いいんだから」
 
ぶつくさと言いながら、アールも魔道具を探し始めた。
しかし考えてみると、村の中にそんなものがあったら誰かが見つけているのではないだろうか。それならば人に尋ね歩いたほうが早いような気がする。でも果たして見つけた人がいたとしてもその人が素直に教えてくれるだろうか。村に呪いをかけた魔道具。安易に触れることはしないだろうし、村の外からやってきた見知らぬ旅人に話してくれるものだろうか。もしかしたら余計なことをしでかして、数年前の悲劇のようにまた魔物が村を襲うようになるかもしれない。信用できるのかどうかもわからない人に簡単に託すとは思えない。
 
アールはごちゃごちゃと考えながら、適当に村の中を探索した。そして駄目元で出会う人に心当たりはないか訊いて回った。
 
「村に呪いをかけた怪しい魔道具? そんなもの見つけていたらとっくにどうにかしているさ」
 村の住人は口を揃えて似たようなことを言った。
「そうですよね……ありがとうございます」
 
適当に探し歩いて見つかるだろうか。魔道具があるのだとしたら簡単には見つけられないところにあるだろう。かつて子供を集めていた地下があったと言っていたけれど、それは今もあるのだろうか。──いや、そこも見つかりやすい場所だろう。
村は決して広くはない。
 
アールは足を止めて周囲を見回した。
誰も足を踏み入れそうにない場所などない。死角になる場所も大してない。地面に埋めていない限り、見つかりそうだ。
 
「さすがに地面の中にはないよね……」
 
ないとは言い切れないけれど、あくまでもこれは本の中のストーリーであることを忘れてはいけない。
地面の中にあるのだとしたらどの辺りにあるのか手がかりくらいはあるに違いなかった。アールは足元を見ながらなにか印のようなものはないか、探しはじめた。
カイはというと、ただひたすらに村の中を走り回っては先ほどのアールのように住人に聞き込みをしていた。
 
「あるとしたら村の外じゃないかい?」
 と、割烹着姿の女性。「散々探したあとだけどね」
「散々?」
「昔ね。村の男たちが村の周囲を探し回ったんだ。見つからなかったよ」
「じゃあやっぱ村の中じゃないの?」
「村の中は村の女が総出で探し回ったさ。怪しいものなんてどこにもなかった」
「誰かの家の中は?」
「それも一軒ずつ見て回ったさ。隅々まで見て回ったよ、見落としはないはずさ。数ヶ月間探し回ったんだから」
「うひゃー…じゃあないね」
「ないというのもおかしな話だけどね。呪いをかけた本人が死んでいるのに呪いはまだ続いているということはどこかにその仕掛けがあるはずなんだから。見つからないのが謎だよ」
「今は探してないの?」
「いつからか探さなくなってしまったよ。子供だったヒメルにだけ全てを託すことに後めたさを感じていたが、今はもう、ヒメルが守ってくれているのだから余計なことはしないほうがいいという考えだ。ヒメルの母親は自分が死ぬまで探し続けていたけどね。時計台に閉じ込められた娘の亡骸でも、その手で見つけて抱きしめたいと思っていたんだ」
「そっかー…。ヒメルちんは今も閉じ込められてるんだよねぇ……かわいそう」
「一緒に母親の墓で眠らせてあげたいんだけれどね」
 
カイは大きな大きな時計台を見上げ、ヒメルを思った。
 
「よし。なにがなんでも探しちゃう!!」
 

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