voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記13…『A〜E地区まであるひょうたん島』 ◆

 
上空から見ると少しいびつなひょうたんの形をしているひょうたん島。
若い子が働いているというA地区はひょうたんの上の部分で、一番大きい島だ。残りのB〜E地区は4つの島が2×2で並んでおり、ひょうたんの下の部分になる。
 
A地区には不動産屋があり、この世界には沢山の島があるらしく、その中でも開拓済みの島にある物件の紹介をしている。また、B地区からは空の旅を楽しめる飛行船が出ており、それらの受付もA地区で行われている。
B地区の右隣にあるC地区ではペット販売が行われ、小さな動物園と化している。B地区の下に隣接しているD地区にはA地区で働いている従業員の家が建ち並んでおり、関係者以外立ち入り禁止になっている。そしてE地区も立ち入り禁止だが、上からみる限りではただ開拓されていないように木々や草が無造作に生えている。
 
アールたちはイルカのお陰でひょうたん島のA地区へ無事にたどり着くことが出来た。ここへたどり着くのに2時間ほど。水面から魔物が現れたりもしたが、そのほとんどをシドとヴァイスが仕留め、命の危機にさらされるほどの魔物とは出くわさなかった。
 
イルカとお別れをし、A地区を一通り歩き回ってみることにした。ルイはカイに電話を掛けた。A地区は人がごった返しており、携帯電話を当てている反対側の耳を塞がなければ電話の相手の声が聞き取れないほど騒がしい。
 
『はいほーい』
 と、今度はカイが電話に出た。その電話の向こうも騒がしい。
「僕です。もう着いていますか?」
『うん、遅いからかき氷食べてる』
「かき氷?」
 と、周囲を見回すがそれらしきものは見当たらない。
『島の出入り口から反対側の一番奥だよん。不動産屋のイベントやってるみたいでさぁ、色々出店あるよー』
「それで人が多いのですね」
『待ってるねー』
 と、電話が切れた。
 
「カイさんはこの奥にいるようなので──」
 と、電話を終えたルイはアールに声をかけたが、アールの姿がない。今こそはぐれないようにと言おうとしたところなのだが。
「アールさん?!」
 辺りを見回しながら奥へと進んでゆく。いつの間にかシドたちともはぐれてしまった。
「ルイ!」
 と、背中にぶつかったのはアールだった。
「アールさん、よかった……」
「押し戻されるところだった!」
「ヴァイスさんは?」
「船から下りた瞬間に不動産屋の屋根に上ってどっかいちゃった。ずるい……」
「人ごみが嫌いな人ですからね」
 と、ルイはアールの手首を掴んだ。「離れないでくださいね」
「がんばる!」
 
人を掻き分けながら、出店コーナーへたどり着くと、かき氷店を探してようやくカイと合流した。その近くにシドたちもいる。
 
「アールぅ! 会いたかっただろう? 飛び込んできても、いいんだぜ?」
 と、かき氷のスプーンを加えて片手を広げるカイ。両手を広げたいがまだかき氷が残っている。
「トーマさんもお疲れ様。タオル取り戻したんだね」
「あぁ、カイが活躍してくれたからな」
「そう言えって言われたの?」
 と、笑う。
「まぁそうだけど、事実だから」
「ほんと?」
「ほんとほんと! 俺がブーメランで何匹も倒したんだ!」
 と、結局自分で報告をするカイ。自慢したくてしょうがないのだ。
「すごいね! 見たかったな」
「見せたかったよ! 食べる?」
 と、かき氷を渡すカイ。
「ありがとー……って、シロップしか残ってないじゃん!」
「ごめんごめん」
 と、カイは笑ってシロップを飲み干し、近くにあったゴミ箱に捨てた。
「何か食べますか? お腹すいたのでは?」
 と、ルイ。
「うん、お腹ぺこぺこ」
 
ルイは出店を一通り見遣った。
 
「いろいろありますね、焼きそばにイカ飯、焼き鳥にフランクフルト、それから」
「ルイ」
 と、ジャックが歩み寄って来た。「カレーはどうした」
「カレー?」
 と、アール。
「いえ、いいんですよ。せっかく出店があるのですから」
「けどせっかく作ったってのに」
「ルイカレー作ったの?」
「えぇ。ですがカレーは取り置きが出来ますし、一晩寝かせたほうがおいしくなりますから」
「私はどっちでもいいよ? ルイのカレー美味しいし」
「ありがとうございます」
  
結局ルイの計らいで出店の料理を頂くことになった。腹ごしらえをしてから、トーマの嫁さん探しがはじまる。
シド、ベン、スーを連れたヴァイスは協力する気など端からないようで、何も言わずにどこかへ行ってしまった。とはいえ、どこかの地区内には身を置いている。
 
「どういう人がタイプなの?」
 と、アール。「ていうかナンパするってことだよね……」
「可愛い人だな。お洒落で、女の子らしくて、色気もほしい」
「見た目ばっかし……」
「性格はしっかりもので、優しくて、穏やかで、真面目で」
「そんな完璧な女性があなたを選ぶと思う?!」
 と、思わず食って掛かるアール。
「アールさん……落ち着いてください。トーマさん、その条件に合った女性を探すのは困難かと」
「なんでだよ」
「あのねぇ、ただでさえそんな完璧な女の子と出会うのも難しいのに尚且つあなたを選ぶ女性を見つけられるかっていったらもう無理に等しいの! 無理だよ無理!」
「君って、夢がないんだな」
「?!」
 
──カッチーン。頭きた。
アールはトーマをこれでもかという程に睨みつけた。
 
「アールさん……落ち着いて」
「現実を見て現実を!」
 と、アール。
「俺も賛成ー。現実見たほうがいいー」
 と、カイ。
「夢を持つことのなにが悪いんだよ。好みでもない女の子を連れて来られたって俺がその子を気に入らないなら意味がないじゃないか」
「人は見た目じゃないんだから!」
「だから性格も希望してるだろう?」
「両方希望って! しかもいくつも!」
「君がどうしてそんなにも怒っているのかわからないな」
「そんな女の子いないからだってば!」
 と、声を抑えつつも怒鳴る。
「アールさん……落ち着きましょう……」
「探してもいないのに決め付けるのって、どうかと思うよ?」
 と、アールを押しのけて嫁さん候補を探しに向かったトーマ。
「むっかつく! もう探してあげる気がなくなった!」
「そうおっしゃらずに……」
「俺が思うに」
 と、ジャック。
「ジャックいたんだ」
 と、カイ。
「……俺が思うに、あのガキは恋を知らんのだろう。人を好きになったことがないんじゃないか? だから自分のタイプさえも妄想でしか答えられない。実際、色んな女の子と話をさせてみりゃ、わかるんじゃないか? タイプがどうとかじゃねぇってことが」
「確かにそうかも……。でもその前に私思ったんだけど今の浦島太郎みたいな格好と髭面どうにかしたほうがいいんじゃない? 老けて見えるし失礼だけどちょっと……小汚い……」
 

 
「ウラシマタロウとは名前ですか?」
「うん、いじめられていた亀を助けたらその亀に連れられて海の中にある竜宮城っていうお城へ。散々遊んで帰り際にもらったお土産の箱を空けたらおじいさんになちゃった!っていうおとぎ話の主人公」
「ぶっとんでるねぇ。助けたのにじいさんになちゃったなんて。バッドエンド!」
「んー、竜宮城で過ごした時間は数時間程度だったのに地上では何年も過ぎてたっていう設定だったと思うんだけど。ていうか、桃太郎もそうだけど大昔と今とでは大きく内容が変わってるみたいなの」
「んじゃあ俺っちたちの冒険記も時代と共に変わってしまって俺が主人公になるってこともあるのかもしれないねぇ」
「主人公?」
「俺たちの旅が物語になったら、確実にアールが主人公でしょー?」
「そうなの?」
「え、違うの?」
「んー、みんなそれぞれ主人公でいいんじゃないかな。物語になったらみんなそれぞれの視点から書かれていて、みんなが主人公がいいな」
「それ大賛成!」
 

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