voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記2…『離れ離れ』

 
「──?!」 
 
目の前に覗き込んだオーガの顔から逃げ出そうと走り出したアールだったが、オーガの手がアールの体を捉えた。地上から持ち上げられ、頭からオーガの口の中へ放り込まれそうになる。しかしアールも大人しく捕まってはいない。剣を振るってオーガの顔に傷をつけた。──と、その時、ヴァイスが軽々とオーガの頭上まで上がって来ると、アールを捕まえている手首に移動し、銃口を押し付けて引き金を引いた。その瞬間、オーガは痛みを振り払うようにアールを手離した。アールの体が地面に叩きつけられる前にルイがロッドを振るって剛柔結界で彼女を守った。
 
怒り狂ったオーガはますます気性が荒くなる。
その様子をジョーカーは岩山の上から見ていた。そして、痺れを切らして懐から真っ黒く塗る潰された1枚のカードを取り出した。
 
「化け物化しても使えないとは」
 カードを二本指で挟み、アールに向かって投げ飛ばした。
 
回転しながらアールに一直線に向かったカードは、ちょうど結界から出たアールを包み込む黒煙に変化した。
 
「わっなにこれ?!」
「アールさんッ! 手を!!」
 ルイがアールを包み込んでいる黒煙の中へ手を入れた。けれど、どんなに手探りで探してもアールを捉えることが出来ない。
「ルイ!! どこ?!」
 彼女の声だけが響いた。
 
ルイは黒煙の下にあるカードを見遣った。魔道具だ。拾い上げようとしたとき、黒煙と共にアールは消え、墨で塗りつぶされたような黒いカードは真っ白い紙へと変わった。
 
「オーガも消えた」
 と、ヴァイスが歩み寄る。
 
ルイは険しい表情でカードを拾い上げ、裏を見遣った。描かれていた魔法円がすうっと消えた。
 
「ゲートを開く魔法円が描かれていました。どこかへ移動させられたようです」
「オーガもか」
 と、シドがやって来た。その後からジャックたちも駆け寄ってきた。
「それはわかりません。トーマさんは?」
「カイとミンフラを追いかけていった」
 と、ベン。
「カイさんに連絡してみます。全ては読めませんでしたが魔法円に書かれている行き先の一部が読めたので、心当たりがないかトーマさんに聞いてみます」
 
ルイは逸る思いでカイに電話をかけた。しかしこんなときに限ってなかなか出ない。
その頃、カイとトーマは上空を飛んでいた。
 
「いやー、怪我をして置いてきぼりにされてるミンフラを助けてあげたらこんな展開になるとは考えもしなかったねぇ」
 と、胡坐をかいて腕を組むカイ。
 
怪我をしたミンフラはカイから貰った回復薬で傷を癒したあと、仲間たちが羽ばたいていった方角とは反対方向へ羽ばたいて行ったが、暫くして大きな大きな緑の葉を運んで戻ってくると、カイたちの足元にそれを敷いた。二人は顔を見合わせて、大きな大きな葉の上に乗ると、ミンフラは葉の端と端を重ねるように両足でつまみ、二人を葉で包むようにして仲間が去って行った方へと運びはじめたのだ。
 
「これぞ冒険って感じだな」
 と、トーマ。
「ところでさ、嫁さんってどんな人がいいの? アールみたいなー? でもアールはだめだよ。俺っちが許さない」
「アール? あの子は……まぁかわいいけどタイプじゃないよ。もっと女の子らしくて、色気もほしいな」
「贅沢!」
「そりゃ贅沢も言うよ。最初で最後の嫁さんにしたい相手を探すんだから」
「俺、いろんなかわいこちゃんと出会ってきたけど、可愛くて色気があって性格がいい子は危ないと学んだよ。それでも引っかかっちゃうのが男なんだけどさー」
「危ないって何だよ」
「なにか隠してるってこと。完璧な子なんて黄金島を探すより難しいと思う」
「なんだよ黄金島って」
「俺が今勝手に考えたんだけど、世界中の黄金が集まった島だよ。世界は広いんだ。探せばありそうだろー? でもなさそうじゃん。それが“完璧な女”なんだ」
「なるほどな。そんな島ないと思っていても探してしまうのが男だ」
「そうそう、男ってのは夢を見る生き物だからね!」
「希望は捨てたら終わりだ。──ま、希望に縋ってばかりで現実を見れなくなるとそれも終わりだけどな」
 
ルイは何度も電話を掛けなおしたが、冒険に夢中になっているカイは気づかなかった。
 
「ヴァイスさん、駄目元でアールさんに連絡を」
「…………」
 ヴァイスは言われるがままアールに電話をかけた。呼び出し音は鳴っているが、繋がらない。
「この島にいたってしょうがねぇ。島を出る方法を探すぞ」
 と、シドは島を歩き回ることにした。それに付き合うのはジャックだ。
 シドはルイたちと離れながら携帯電話を取り出し、誰かに電話を掛け始めた。
「アールに電話か?」
 と、ジャック。
「んなわけねぇだろ」
 
マナーにしていた携帯電話が鳴っていることに気付いたのは岩山の上にいたジョーカーだった。着信相手はシドだ。電話には出ずにコートのポケットにしまった。
 
「クソ。出ねぇ」
「カイか?」
「ちげーよ! ジョーカーだ」
 苛立ちながらそう言って、携帯電話をしまう。
「ジョーカーか……そういやまだ会ってないな」
「あのオーガはクラウンの可能性がある」
「え? ……どういうことだ?」
「黒魔術で魔物付きにされたんだろ。自ら望んだことなのかどうかまではわかんねぇけどな」
「あれが……クラウン?」
 ジャックは絶句した。
「耐久性がなければ魔物に飲み込まれるのも時間の問題だろうな。既にもうクラウンの意識はほとんどなさそうだった」
「シュバルツじゃあるめぇし……体内に魔物を取り入れるなんて自殺行為もいいとこだな」
「どっちにしろ好都合だろ。化け物化しても元はクラウンだ。死んだら化け物化して強化された力がアーム玉に宿ってシュバルツの力の一部になる。クラウンにとっちゃ光栄なことだ」
「……お前は?」
「あ?」
「お前は死んだらどうなる。アーム玉は、シュバルツに捧げるのか?」
「当たり前だろ」
 

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©Kamikawa
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