voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記1…『謎の男とローザ』


私が私でなくなったとき、身は滅んでいなくても死んだも同然だと思う。
でも、私は私としてここにいる。
 
それなのに私は死んでしまったと感じるのは
今の私を、この運命を、受け入れていないからだ。
 
それはきっと、私の弱さなんだろう。


 
第一部隊を名乗るローザは、単独行動が多かった。
とある街の路地裏にある小さな喫茶店に入った。辺りを見回すと、店内の隅の席に座っている男が手を上げて居場所を知らせている姿が目に映った。
 
「遅くなって悪かったわね」
 と、男とテーブルを挟んで斜め前に座った。
 
男はノートパソコンを開き、なにやら作業を行っている。そこに「いらっしゃいませ」と店員が水を運んできた。
 
「アイスコーヒーを」
 と、ローザが注文する。
「俺にもおかわりを頼む」
「かしこまりました」
 
店員が去ったのを確認してから、ローザは男に報告をした。
 
「グロリアは第4の鍵を探しに本の世界へ入ったようだわ」
「本の世界?」
「詳しくは知らないけど。ま、順調ね」
「他には」
「…………」
 ローザは水を飲み、少し考え込んだ。
「一人で抱えるな。なにかあるなら話せ」
「わかってるわよ……。面白い話を聞いたの。特殊なアーム玉よ。それは粉々に割れていて、その破片を組織の連中が探してる」
「どんなアーム玉だ?」
「シュバルツ様が生前に作ったもの」
「シュバルツのアーム玉か?!」
「生前、なんて言ったら失礼よね。彼はまだ生きているんだもの。深い深い眠りの中で、目覚めるときを待っている」
「粉々に割れていても機能するのか」
「だから、“特殊”であって探してるんじゃない? これも彼の命令。欠片を誰に託したのか、彼から直接メッセージを受け取った者が回収に回ってる」
「属印を捺された者はシュバルツの声が聞けるというのは本当なのか……」
「嘘の報告をしてどうするのよ」
「それで全て集まったのか?」
「いいえ、まだよ。少し厄介なの。シュバルツが眠りについたのは約500年前よ。アーム玉を託された人間は生きてない。無事に保管されているかどうかも不明なんだから、ひとつ探し出すのも大変なのよ」
「そうか。どこまで調べられそうだ?」
「…………」
 ローザは険しい表情で視線を落とした。
 
店員がローザが頼んだアイスコーヒーと、男のホットコーヒーを運んできた。
ローザはアイスコーヒーをストローで混ぜ、シロップなどは入れずにそのまま飲んだ。
 
「わからない。でも、やってみるわ」
「無理はするなよ?」
「えぇ……でも、やれるところまでやってみる」
 

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©Kamikawa
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