voice of mind - by ルイランノキ


 イストリアヴィラ20…『オーガ』

 
オーガの濁った白い目は、アールを捉えていた。
ルイは危険を感じてアールの手を掴んでその場から逃げようとしたが間に合わないと判断し、結界で互いの身を守った。けれどもオーガの拳が結界の屋根にぶち当たったとき、ルイが瞬時に結界に皹が入るのを見た。
 
「アールさんッ!!」
 
アールの腕を掴んで結界の外へ転がるように逃げ出した瞬間、結界はオーガの拳によって潰されてしまった。
 
「結界が効かないの?!」
「2重結界でも厳しいかもしれません。逃げましょう」
「でもッ死なないんだよね?!」
 と、何度も確認してしまう。
「恐らくあれは……この世界の(本の)住人ではないかと」
 
逃げる二人をオーガは木々を倒しならが追いかけ、頭上からアールを鷲づかみにしようとした。ルイはアールを突き飛ばし、身代わりに捉えられてしまった。
 
「ヴァイスさん!!」
 と、ルイは近くにいたヴァイスに気付き、アールの身の安全を託した。
「ルイッ!!」
 叫ぶアールにヴァイスは駆け寄り、彼女を抱きかかえてオーガから離れた。
「ルイがッ!!」
「ここにいろ」
 ヴァイスはアールを海岸に連れて行ってから、オーガの元へ向かう。
 
オーガに捕まったルイはロッドを振るって攻撃魔法を浴びせた。一瞬緩んだオーガだったがルイに興味を示すどころかポイと放り投げ、木々をなぎ倒しながらなにか別の物を捜している。その様子はアールを捜しているようだった。
 
「なんで女を狙ってんだ……」
 と、オーガから少し離れた木の陰からオーガを見上げるシド。
「あれはクラウンだ」
 と、ヴァイスがシドの横に着地した。
「クラウンだと?」
「微かに同じ匂いがする」
「…………」
 シドは今一度オーガを見上げた。面影はもうどこにもない。
「ジョーカーはどこに行ったのだろうな」
 と、ヴァイスはルイが飛ばされた方角へ向かった。
「クソッ……勝手なことしやがって」
 シドはなるべく安定のある木の上にのぼり、オーガの頭に向かって攻撃魔法を放った。
 
オーガは避けることはせず、シドの攻撃をまともに食らったが、声を上げただけでよろめきもしなかった。
 
「クソッ化け物が!」
 
オーガは振り返り、シドを見遣った。
 
「来いよ。首を斬り落としてやる」
 
しかしオーガはすぐにシドから視線を逸らすと、アールがいる海岸へと歩き出した。
 
「目的はひとつってか……」
 
あれがクラウンだとは信じがたいが、アールを狙っている時点で“本の中のシナリオ”としてはおかしい。シドは舌打ちをしてオーガを追いかけた。
 
その頃、ルイは海へと放り出されていたが海岸に近かったため自力で戻ってくることが出来た。海から上がったルイに、ヴァイスが手を差し伸べた。
 
「ヴァイスさん……アールさんは?」
 と、手を取る。
「向こうの海岸にいる。戻るぞ」
「はい」
 
ヴァイスはルイを抱きかかえ、アールの元へ急ぐ。
海岸にいたアールの目に、森の中から頭を出したオーガの姿が見えた。
 
「私を狙ってる……?」
 
アールは剣を構え、魔力を溜めた。──と、タイミング悪く携帯電話が鳴る。
 
「こんなときにッ」
 アールは近くの岩に身を隠し、電話に出た。
「もしもし?!」
『あ、アールん? ベンに聞いた?』
「なんの話?! 今それどころじゃないんだけど! ていうかカイは大丈夫なの?」
『え? ベンから聞いてない? トーマがミンフラを追って走ってっちゃったから俺も追いかけたんだ』
「それで今どこ?! オーガ見た?」
『おーが?』
「でっかい化け物」
『なにそれ超怖いんですけどー!』
「見てないならいい。戻って来ないで。そっちが安全ならトーマさんと一緒にいて。出来ればタオルを取り戻すことに専念して」
 と、早口で伝える。
『アールんは化け物と戦ってんの?』
「これから戦うの!」
『そっかぁ。なるべく早く合流してね? 俺男と二人きりなんてやだもん』
「わかったから。ルートだけ覚えておいて。そっちに行くとき困るから」
『ほいほほほいほいほーい』
 と、電話が切れた。
 
携帯電話をポケットにしまい、剣を構えて見上げたすぐ目の前に、オーガの顔があった。
 
「──?!」
 
第三十二章 イストリアヴィラ (完)

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