voice of mind - by ルイランノキ |
おじいさんの大切なタオルを探してトーマとアールたちの小さな冒険が始まった。
トーマは家から古びた刀を持って出てきたのだが、所々錆びていてあまり使い物にはなりそうにない。道案内をするトーマを守るように、ルイは彼のすぐ後ろについた。その後ろにアールとカイが並んで歩き、ベンを挟んで一番最後を歩くのはいつも通り肩にスーを乗せたヴァイスだ。
トーマが一行を連れてきた道には既に魔物の姿があった。魔物の通り道と聞いていたからてっきり地に足を着いて歩く魔物かと思いきや、そこにいたのはフラミンゴだった。それも血のように真っ赤なフラミンゴは全部で13羽いる。そのうちの1匹が汚れた白いタオルを銜えていた。
「なんていう魔物?」
と、アールは武器を構えながらルイに訊いた。
「あれはミンフラという少し厄介な魔物です。警戒心が強いことと、彼らの羽に触れると強い痒みが全身に広がってしまいます。死に至ることはありませんが、なかなか痒みが引きません。ただ、その分集めるのが大変なので彼らの羽は高く売れますね」
「素手では触れないってことか……」
「俺がブーメランぶっ飛ばしてあいつにだけ命中させようか? 気絶した隙にタオル奪っちゃえばいいじゃん」
「それが無難かもしれませんね。これ以上近づくと確実に逃げられるか攻撃されるでしょうから。一先ず僕たちは結界の中へ。──カイさん、お願いします」
「おまかせくださいこのわたくしに!」
と、胸を張るカイ。
アールたちはルイの結界の中へ非難した。
「なるべく音を立てないように」
と、ルイが警告する。
「難しいなぁ。やってみる」
そんな様子を眺めながら、アールは弓を扱う仲間がいたらいいかもしれないと思った。
「弓を持ってきたほうがよかったかな」
と呟いたのはトーマだった。
「え、持ってるんですか?」
「自作の弓だけどね。でも俺コントロール悪いから」
「そう……」
カイはタオルを銜えたミンフラを目掛けて全身を使ってブーメランを投げた。けれども武器として使われるブーメランは大きいこともあり風を巻き込んでブンブンと音が鳴る。
ミンフラは風を切って飛んできたブーメランに気付くと、羽を広げて上空へ。カイのブーメランは木に当たって地面へと落ちた。
「追いかけましょう!」
ルイが言い、一向は羽ばたいて行くミンフラを見上げながら後を追いかけた。見失わないように道なき道を進み、地を這う魔物が前方を塞げばアールが剣をぬいて立ち向かった。
さほど強い魔物ではなかったため、ミンフラを見失うことはなかったが、一行はある場所から進めなくなってしまった。
足を止めて遠くへ羽ばたいて行ってしまうミンフラを眺め、切らした息を整えた。
「あの島へ向かったようですね」
ルイの視線の先にはだだっ広い海が広がっており、遠くに小さく島が見えた。
「船ないけど……」
と、アール。
「作ればいい」
そう言ったのはトーマだった。
「船作れるの? どうやって?」
「いかだをね」
「……それ本気?」
と思ったのはルイたちも同じだった。
川を渡るならまだしも、広い海を手作りのいかだで渡るのは無謀すぎないだろうか。海底に魔物がいないとも限らない。
「木を伐るのを手伝ってくれ」
と、トーマはアールの肩に手を置いた。
「私?」
「剣で伐れるだろう?」
「伐れるとは思うけど……」
ルイは周囲を見回してから、ヴァイスに目をやった。
「すみませんがその辺を見てきてくれませんか? 船や人が近くにいないか、小屋があればいかだ作りに使えそうなものを」
「わかった」
ヴァイスはその場を離れ、探索に向かった。
ベンはため息をこぼし、仕方なくいかだ作りに手を貸すことになった。木を伐り倒しながら自分たちは一体なにをしているのだろうかと思えてくる。老人のタオルを取り戻すためにいかだをつくることが鍵を手に入れるために本当に必要なことなのだろうか。
カイはブーメランを椅子代わりにして座り込み、海を眺めた。腕に表示されている時計が刻々と時間を刻んでいる。
「カイさんも手伝ってください」
と、ルイ。
「細い木ならブーメランでなぎ倒せるかもしれないけど結構しんどいと思うんだ。余計なことをして足を引っ張るよりはこうして大人しくしていることが俺っちの役目かなって思って。あ、でもなにもしていないわけじゃなくて、島を眺めながらミンフラが戻ってこないか祈ってるんだよ。割と本気でね」
「…………」
なるべく太さをそろえた丸太と、それらを組み合わせるための丈夫なロープが必要だった。帆を作れると尚良い。それから忘れてはならないのは漕ぐためのオールも必要だ。
ルイは海に目を向けた。島は随分と遠くに見えるものの波は穏やかで、厄介な魔物にさえ出くわさなければなんとか手作りいかだで横断できなくもないだろう。
アールたちが比較的細い木を見つけては丸太を集めていると、探索に出ていたヴァイスが戻ってきた。ルイは作業に勤しんでいる仲間たちのためにおにぎりを拵えていた。
「なにか見つかりましたか?」
「古びた小屋があった。隣にボートがあったが使い物にならない。だが、ロープや丸太、斧がある」
「ここから近いですか?」
「遠くはない」
その報告を聞いたアールたちは複雑な表情を浮かべるしかなかった。頑張って伐り倒した木をその小屋まで運ぶのは一苦労だろう。
「移送魔法で運びましょうか」
と、ルイ。「せっかく伐ったのですから」
「いいよ……こんなことに魔法使っちゃだめだよ……」
と、アールは額の汗をぬぐう。
「いい運動になったと思えば無駄じゃない」
そう言ったのはトーマだった。
はじめは冒険と聞いて面倒くさそうにしていた彼だったが、いざ冒険へと繰り出してみると案外しっかりしているのかもしれないと思える場面に出くわす。
一行はその場を離れ、ヴァイスが見つけた小屋へと向かった。
Thank you... |