voice of mind - by ルイランノキ


 海底の町9…『交渉』

 
流れた血で視界が悪かった。
アールを捕らえていたギルマンが戻ってくると、戦闘は一時中断した。流れていた血は、ギルマンのものと人間のものが混ざっていた。
 
「ルイ! 大丈夫?!」
 と、アールは慌ててルイに近づいた。ルイの腕から血が流れている。水中だから尚更血が止まらない。
「アールさん……ご無事でしたか」
 他にも、クラウンは足を怪我していた。
「まだ解決はしてないんだけど、一旦休戦……。でも、アクアスーツ破れてるのに水入ってこないってどうなってんの?」
 
ルイたちと争っていたギルマンたちはリーダー格を囲むように集まると、事情を聞いた。納得いかない様子だったが、リーダーには逆らえない。
 
「シド、ルイを連れて先に戻って」
「…………」
「アールさんは?!」
「少し話したらすぐに戻るから」
「ですが……」
「オレが待っていよう」
 と、クラウンが名乗り出る。
「……助かります」
 それはそれで心配だったが、一人にさせるよりはいい。渋々クラウンにアールを任せた。
 
シドはルイを連れてイラーハへ戻って行った。
 
「人魚さんに会うにはどうしたらいいんですか?」
 と、アール。「今日人魚のショーがあったみたいだけどもう終っているだろうし……」
「我々が近づけば話も聞かずに逃げてしまう。人魚と連絡を取り合っている人間がイラーハにいる。そのショーを考えた主催者だろうと思うが」
「じゃあその人に訊いてみる」
「明日の午後10時まで待つ。守れないようなら……わかっているな?」
「はい……」
 腑に落ちないといった表情で返事をして、ギルマンたちがその場を去っていくのを見送った。
 
「イカはおとなしいねぇ」
 と、クラウンがアールに近づいた。
「敵じゃないのかも。あくまで半魚人の」
「イカも仲間なのかい」
「聞いてないけど……たぶんそう。とにかく戻ろう。時間がない」
 
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先にイラーハへ戻ったルイとシド。ふたりきりになるのはどのくらいぶりだろう。
アクアスーツを脱ぎ、傷の具合を確かめた。思ったより浅い傷だ。
 
「ご迷惑をおかけしてすみません」
「…………」
 シドは黙ったままその場に座り込んだ。
「クラーケンもいることですし、第三の鍵を手に入れるのは容易ではなさそうですね」
 シキンチャク袋から回復薬を取り出して飲んだ。傷口には薬を塗り、ばい菌が入らないように大きめの傷テープを貼った。
 
そこに、ヴァイスがやってきた。その後ろからカイが顔を覗かせた。
 
「怪我してんの?! 大丈夫?」
「カイさん。えぇ、僕は問題ありません」
 
騒がしいカイが来たからだろう、シドは立ち上がり、アクアスーツを置いてその場を去った。
 
「鍵は手に入れたのか?」
 と、ヴァイス。
「いえ……少し厄介なことになりまして。アールさんの戻りも気になります」
 
自分が脱いだアクアスーツとシドのアクアスーツを持ち上げようとしたが、ヴァイスが手を貸してくれた。
まもなくしてアールはクラウンと共に戻ってきた。しかしアクアスーツを脱ぐと慌てた様子で町の奥へと走って行った。
 
「なにがあったのです?」
 と、スーツを脱いでいるクラウンに訊くルイ。
「半魚人との交渉さぁ。人魚との仲を取り持ってやるんだそうだ。その人魚と連絡を取っている人間がいるらしく、探しに行った。制限時間があるからねーぇ」
「何時までですか?」
「午後10時。オレは宿に帰らせてもらうよ」
 と、クラウンはため息混じりにそう言って、その場を後にした。
 
みんな、アクアスーツをその場に置きっぱなしだ。壁に引っ掛ける金具があるというのに。
 
「カイさん、すみませんが町長のグレースさんを呼んできてもらえますか」
「いいけどそのかわりあとで愚痴を聞いてよねー」
 と、カイはグレースの家へ。
「愚痴? なにかあったのですか?」
 と、クラウンとアールのアクアスーツを壁に引っ掛けた。水が滴り落ちる。
「人魚のショーが気に食わなかったらしい」
 と、ヴァイス。
「カイさんにしては珍しいですね。好みの女性がいなかったのでしょうか」
「あながち間違ってはいない」
「ヴァイスさんは様子を見に来てくださったんですね。今度また海へ出るときは一緒に来ていただけませんか? クラーケンとの戦闘があるかもしれません」
「クラーケン……水中での戦闘は厄介だな」
「えぇ、地上でも厄介ですからね。戦うことになったら、アールさんのサポートをお願いしたいんです。相手からの攻撃を受けたときに、水中だとバランスをとるのが難しいので」
「わかった」
 
──と、カイがグレースを連れて戻ってきた。
 
「ご苦労だったな。アーム玉は手に入れたかい?」
「いえ、まだ。実はギルマンに邪魔されてしまって」
「ギルマンか……」
 グレースは腕を組んだ。
「ご存知ですか?」
「近くに住処があることは知っているが……怪我人は?」
「いますが、大したことはないようです」
 と、クラウンを思い返す。足を怪我していたとはいえ、引きずって歩いている様子はなかった。
「ただ、アクアスーツが破れてしまって」
 攻撃を受けた場所だ。弁償するしかない。
「驚きだな、アクアスーツも防護には優れているはずだが破かれるとは」
「ギルマンは三叉の銛(もり)を武器としていました。中には魔力が加わったものもありましたから、それが防護服を貫いたのだと思われます」
「人間を相手に用意された武器といえるな。新しいアクアスーツを用意しよう」
「弁償代はおいくらですか」
「アーム玉を手に入れてからでいいさ」
 
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アールはマーメイドショーの主催者を探すため、手がかりがないかとカイが持っていたチラシを見遣った。するとチラシの隅に主催者の名前が書いてあることに気がついた。人づてに居場所を聞き、さほど苦労せずに見つけることが出来た。
 
「人魚と話がしたい? それは無理ね。よくそういうお願いをしてくる男性がいるけど、基本断っているのよ」
 と、主催者の女性はB地区の掃除をしていた。ローザに話しかけたのも同じ女性である。
「緊急なんです。ギルマンとの交渉中で」
「ギルマン? それは誰?」
 地面を掃いていた手を止めた。
「あ、半魚人です」
「半魚人?!」
 と、すっとんきょうな声を上げた。「話したの?」
「はい、えっと……町長さんに頼まれたものを探しに海に入ったんですけど、ギルマンと会って。私危うく……。とにかく、人魚と話さないといけないんです」
「無理だと思うけど。彼女たちが半魚人のことを悪く言っていたのを聞いたことがあるし。話もしたくないし顔も見たくないって言っていたわ」
「ギルマンとの間になにがあったんでしょうか」
「さぁ。そこまでは」
「聞きたいんです。とりあえず会わせてもらえませんか? 来てもらうのが無理なら私の方から会いに行くので」
「うーん……駄目元で聞いてあげるけど、期待しないほうがいいわよ」
「お願いします」
「半魚人のことでって言ったら話も聞いてもらえないだろうから、とにかく人魚と話したい人がいるからって伝えるわね」
「はい!」
 

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