ル イ ラ ン ノ キ


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美少女戦士なんて目じゃない
 
《人の弱みつけ込もうとするこの悪党め! わたしたちが許さないわ! みんな、変身よ!》
 
今年9才になる娘が食い入るようにテレビを見ていた。一緒になって“変身するときのセリフ”を言って、テレビの前から離れようとしない。
 
「ちょっと智恵美、早く朝ごはん食べなさい。遅刻するでしょ」
「はーい」
 はーいと言いながら、動かない。いつものことだ。
「もう! お母さん知らないよ? 遅刻しても車で送ってあげないからね!」
「いいよーだ」
「むっ……」
 
日に日に生意気になっていく娘。生まれたときはもう一日中頬擦りしたくなるほど可愛くて可愛くてたまらなかったのに、言葉を覚え、知恵を覚えていくたびに生意気度が増してきている。だからと言ってわが子を嫌うことはないけれど。
 
「そんな変なアニメ観てないで早く食べなさいっ!」
 と、ダイニングテーブルを叩き、口が滑ったと後悔した。
「変なアニメじゃないもん!」
 ようやくテレビから顔を背けたと思ったら鋭い目つきで睨まれた。
「ごめんごめん。ほら、はやく食べなさい」
「みっちゃんも、ゆかちゃんも、かおりちゃんも、みっちゃんも、みんな見てるんだよ?!」
 と、友達のみっちゃんが二回出てきたが、スルーしよう。
「ごめんね、10代の若い女の子がパンチラしながら戦うアニメ、かわいいね」
 
──あぁ、私は最低な母親だ。
 
「……みんなお母さんのことカバって言ってた!!」
「んなっ?!」
 
カバですって?! なにも言い返せなくなったからってそれ言う!?
娘は椅子に座り、黙々と朝食を食べはじめた。言ってやったと言わんばかりの顔で。
 
確かにとっくの昔に50kgなんか突破してましたとも。結婚する前までは身なりに気をつかっていましたとも。でもちょこーっと安心しちゃったのよ。結婚出来たし、順調に子供も授かって母親になれたし。新米ママとして一生懸命に頑張って、新米奥さんとしても一生懸命に頑張っていたら、いつの間にか横幅が大きくなっていた。一生懸命がんばった証よ。それをカバだなんて失礼しちゃうわ。
でもお隣りの奥さんに比べたらまだマシよね。「残飯食べるブタみたい」って言われたらしいし?
 
「カバママ、おかわり」
「…………」
 
このやろう。娘が生まれたときは可愛らしくて女の子らしい子に育てようと気をつけていたのに、確実に私に似てきている。どこで間違えたんだろう。
 
「自分でつぎなさい」
「カバママは動きたくない、と」
 そう言って娘は小さな茶碗を持って椅子からおりた。
「……ついで差し上げますわ、お嬢さま」
 手を差し出しながら娘に対して嫌味ったらしく言ってみる。
「最初からそうしてよ」
 と、娘は私の手に茶碗を渡した。
「…………」
「はやくついできてよ」
「わかりました、カバママの娘のカバ子ちゃん」
 
朝からぎゃあぎゃあと親子喧嘩になったのは言うまでもない。学校に送り届けても尚、言い争っていた。
だいたい、あのアニメのせいだ。ふざけてる。
 

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©Kamikawa

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