ル イ ラ ン ノ キ


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早智子さんは『この後、生け花の作品展参加お食事会があるの』と言って席を立った。

あぁ、それで気合入れて着物だったのね……。

彼女が去った後の喫茶店は、妙に静かだった。お昼時を過ぎていたせいもあるが、冷房が効きすぎな気がするのは気のせいだろうか。
心まで浸透する寒気。

「親父……」
「喋るな。聞きたくない」
 と、拗ねたように目を合わせず、ずっと窓の外を眺めている父。
「どんまい……」

──と、そこにめぐみがやってきた。

「おかわりはいかがですかー?」
「結構です。」
 と、俺と親父は声を合わせた。
「なにも頼まないなら出てってもらえます?」
「なっ!? それが客に対する態度かよ!」
「迷惑だから」
「忙しい時間帯は過ぎたんだからいいだろ」
「目障りだし、どんよりした空気が店内を漂ってて迷惑なの」
「じゃーホットコーヒー」
「私も頼む」
「……かーしーこー」
 と、不機嫌そうに戻っていくめぐみ。
 
「何敗だっけ……」
 俺はテーブルに顔をふせた。
「お前は2回頼んで今ホット頼んだから3杯だろう」
「コーヒーの話じゃねーよ……告白」
「俺は今日で24敗」
 と、親父。
「おつかれ」
「お前は?」
「13敗」
「まだまだひよっこだな」
「ひよこでいいよ……」

「お待たせしました」
 と、めぐみが二人分のホットコーヒーを持ってきた。「うちはおかわり無料じゃないけど」
「わーかってるよ」
「私のおごり」
「え」
 と、親父と俺はめぐみを見遣った。
「だからこれ飲んだらさっさと帰りな」
「ありがとうめぐちゃん」
「めぐみ、はじめてお前が天使に見え……なくもないよ」
「コーヒーサービスしただけで大袈裟だから」
「いや、今の俺らにはこの温かいコーヒー一杯が心に沁みるんだ……」
「はいはい、わかったわかった」

熱いコーヒーを親子二人で飲んだ。
それから5分後、店に入ってきた大人の女性に親父は一目ぼれをして、俺は新入りらしいバイトの女の子に一目ぼれをした。
他所の席へ料理を運んでいためぐみを呼びとめ、親父と俺は訊いた。

「あのバイトの子、誰? 彼氏いんの?」
「あそこの席の女性、既婚者か訊いてきてくれないかな」
「帰れ。お前らいいかげんマジ帰れ」

その後、ちゃっかりホットコーヒー代も取られたことに、なにも言えない俺と親父だった。

「なぁ克哉、早智子さん綺麗だったろう?」
 と店を出るやいなや口にする親父。
「まあ年齢にしては」
「やっぱりもうちょっと頑張ってみようと思うんだが」
「マジかよ。親父のことは友達としていい人と思われているだけなのに。しかも好きな人がいるとかハードル高いだろ」
「嫌われているよりはいい。だからお前も、もう少し粘ってみないか。千晴ちゃんだっけか」
「…………」

これまではフラれたり見込みがないと思ったらすぐに次!だった。親父もそう。
けど、めげない親父を見ていると、俺ももう少し頑張ってみようかなと思えた。

「そうだな」
「お、ならまた手を貸してくれ。てなわけで、二人で生け花教室に通おうじゃないか」
「それは断る。」


end - Thank you

お粗末さまでした。140810
修正:230103

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