ル イ ラ ン ノ キ


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小学校の校庭を歩く男がいた。途中から足速に校舎裏へ行き、置いたはずのパーティー帽子がない代わりに手帳が置かれていることに気づいた。

「…………」

手帳を開き、一枚だけ挟んであった紙の文面を見遣る。

《アースさんへ

本当は直接お伝えしたかったのですが、叶わないのでお手紙から失礼します。
あの日、声を掛けてくれてありがとうございました。私は今、幸せです。
貴方にもより多くの幸せが訪れますように。》

読み終えた彼の表情が綻んだ。

「よかった」

いじめられていた少女を見つけたときのことを思い出す。
あの日はクラスメイトの誕生日で、その子の家に男子も女子も集まって誕生日パーティーをしていた。変な帽子を被らされて、買い出しに行ってきてくれと頼まれた。その内容もよく覚えている。誕生日プレゼントとして携帯ゲームの本体と、ソフト五枚、人数分のお菓子と、ビールにワイン。それから、盛り上がるからと店の前で変な帽子を被ったままパンツ一丁になって証拠の写真とってきて、と。
それらの要望に応える勇気もお金もない。奴らに促されて見張られている中で万引きをしたこともあった。金を請求されて奪われたこともあった。

今思えば大したことじゃなかった。暴力を振るわれていた彼女と比べれば。

それでも当時の自分にとっては苦痛で逃げられる状況でもなかった。クラスの全員が敵だった。自分だけが省かれていた。言いなりにさえなっていれば、仲良くしてくれた。
精神的苦痛は心を蝕んでゆく。
親にだけは知られたくなかった。いじめが原因で転校した身として、またいじめられているんだと言って悲しませたくなかった。困らせたくなかった。だから毎日楽しいふりをして、時々クラスの男子にお金を払って友達のフリをして家に遊びに来てもらっていた。

死にたかった。そんな勇気もないくせに。なにより親を悲しませたくないから自殺なんかできるわけもなく。
そんなときに彼女と出会った。まだ小学生だというのにいじめられて、その表情は生気を失っていた。ただ遠目から見守るしか出来なかった。
だけど、彼女を取り巻いていた子供たちが去っても起き上がらない少女に、手を差し伸べたくなった。自己満足の優しさだったかもしれない。自分なら誰でもいいから助けて欲しいと思うから、そんな勝手な考えで行動に出た。

この行動が彼女にとって良い結果を招くかどうかなんてわからない。わからないけど、自分と重なって、どん底から救いたくなった。負けないで欲しかった。未来はまだ白紙で、今が全てじゃないって。

自分にも言い聞かせていた。彼女の未来を案じながら自分も生きた。彼女と自分の未来を見届ける為に。

そして今日、当時15年生きて絶望に浸っていた俺は、あれからまた同じ年月、15年を生きて、あの日の未来を見た。
未来を見ることが出来なかった彼女と自分の未来が、確かにそこにあった。


end - Thank you

お粗末さまでした。140508
編集:230102

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©Kamikawa

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