voice of mind - by ルイランノキ


 世界平和3…『都市伝説』

 
シドとギップスが外から戻って来たとき、テトラが2階へと上がって行った。
テーブルにはギップスの魔道具と、アールたちが不要になった物が並べられている。
 
「アール、ちょっと手伝っとくれ」
 と、ウペポが台所から顔を出した。
「僕が行きましょうか」
 ルイが率先して席を立ったが、アールが「私をご指名なので」と笑顔で台所へ向かう。
 
それと入れ違いに2階からテトラとヴァイスが降りて来た。流れをいち早く察したのはルイだった。ウペポがアールを指名したことには理由がある。
 
「4人揃った」
 と、テトラが小声でモーメルに言った。
 
普段騒がしいカイも、空気の異変に気付いて口をつぐんだ。モーメルが静かに口を開く。
 
「あんたたちに渡した護符の中に、あんたたちのアーム玉も入れてある」
「…………」
 命が尽きた時、自身の力と思いがアーム玉に宿る。
「どうするかは自分で決めなさい。使うことがないよう、祈ってるよ」
「アールさんのアーム玉は、彼女が?」
 と、ルイ。
「いや、テトラの本屋敷の本の中さ。あの体になった以上、使うことはないだろうが、念のため安全な場所に保管してある」
「わかりました」
「あたしからの話は以上だよ。さぁ、ギップス、仕事しな」
 と、仕事を終えたモーメルはモニター前の椅子に腰かけた。
 
ギップスはアールたちの不要になった物を買い取っていく。カイのおもちゃを見て、「これは買い取れません」と言った。
 
「宝物なのに!?」
「カイさんにとって宝物でも、価値はありません」
「そんなはっきり言わなくても!」
「そういや、旅の道中で見つけた武器があったな」
 と、シドがシキンチャク袋からハルペーなどを取り出した。
「筋トレグッズも買い取ってもらったらー?」
 と、カイ。
「今後も使うからな」
「今後っていっても国から莫大なお金が貰えるとしてさ、いくらでも新しいの買えるじゃん」
「俺は期待してねぇよ」
「貰えないと思ってるの!? 命をかけて戦ってなにも? そんなわけあるかーい!」
 と、手の甲でシドの腕をベシッ!と叩いた。
「戦いを終えたあとの世界がどうなってるかなんてわかんねんだから、あんま期待すんな」
「バカだなぁシドは。夢は見るためにあるんだよ」
「お前、夢に関する都市伝説知ってるか? 戦いを前に夢を語ると死ぬんだよ」
「こーわっ! もう二度と夢は語らない!」
「もう手遅れだろ」
「ひぃいぃぃ……、俺……死ぬのかなぁ?」
 と、カイは涙目でルイを見遣る。
「人は夢を見るものですし、夢を語って命を落とした者たちがいる一方で、生き延びた人も多くいますよ」
「“都市伝説”って口に出すと急に胡散臭くなって信憑性が薄れるよな」
 と、シド。
「都市伝説。都市伝説。そんなもん都市伝説。胡散臭い都市伝説。夢を語ると命を落とすなんて嘘っぱちの都市伝説」
 と、ぶつぶつとお経のように呟く。
 ギップスが黒い二つ折り財布からお金を出しながらカイに目を向けた。
「引き寄せの法則をご存じですか? 私も夢は語るべきと思います」
「俺は国からたんまり謝礼金をも貰うんだ!」
 と、カイはすぐに信じる。
「語って夢が叶うんなら誰も苦労しねぇわな」
「シドは黙ってなさい!」
 と、カイが怒鳴った。
「おいくらになりましたか?」
 と、ルイがギップスに言った。
「17万3,000ミルですね」
「うひゃあ!! なにに一番高値が付いたの!?」
 と、カイが一番喜んだが、カイの私物でお金になった物はひとつもない。
「妖精の鱗粉です」
 と、小瓶を見せた。
「鱗粉? ルイのー?」
「いえ、アールさんのものだと思います。妖精のアイリスさんからお礼として頂いたものですね」
 と、台所に目を向ける。
「あー! アイリスたん! そういえばあったねぇそんなことも」
 
台所では、ウペポとアールが肩を並べて大きな鍋の中に入っていた万能薬を漏斗(ろうと)を使って小瓶に移し替える作業をしていた。以前モーメルが育てていた薬草を粉末にしていたものが残っていたため、ウペポがそれを使って万能薬を作ったのだ。
 
「またウペポさん家に遊びに行きたいなぁ」
 と、アール。「雲の橋を渡って」
「いつでもおいで」
 ウペポは優しくそう答えた。
 
手伝いを終えて居間に戻ると、一同からの視線を浴びた。
 
「アールさん、妖精の鱗粉、売ってしまっていいのですか?」
 と、ルイ。
「売れそうなら。売らない方がいいかな?」
「一番高値が付いたぞ」
 と、シドが言う。
「ほんと?」
「鱗粉ってなんに使えるんだっけー?」
 カイが虚空を見遣った。鱗粉を受け取ったとき、その場にいた気がするが覚えていない。アイリスの可愛さは鮮明に覚えているのだが。
「ひとつまみ1分、植物と会話ができるの」
「貴重なもんじゃん!」
「何回分か使ったよ? ウペポさんの家から過去に戻ったときに」
「え? そんな話し聞いてない! たんぽぽと会話でもしたのー?」
「大きな木と。助けてくれたから」
 と、思い出を語った。
 
防御力、攻撃力、属性耐性を上げるアイテムなどをギップスから一式購入した一行は、長居する暇もなくすぐに旅を再開するため、今一度モーメルたちに礼を言って席を立った。
 
「今度ばあちゃん家に戻って来るのは最後の戦いが終わった後かなぁ」
 と、カイが外に出ながら寂しそうに言う。
「その時は胸を張って戻っておいで」
 テトラに支えられながら玄関の前まで見送るモーメル。その後ろにはモーメルの言葉に頷くウペポの姿がある。
「あ、歩行地図はどうなったのー?」
 カイの問いに、テトラが部屋に戻って歩行地図を持って帰って来た。
「ゼフィル城から死霊島へのルートは完成しておる。君たちの居場所も、わざわざ連絡せずともこの地図から確認できる」
「地図はこの後ゼンダに引き渡すよ」
 と、モーメルが言い足す。「報酬が貰えるはずさ」
「まじぃ!? それ俺たちが貰えるの? 受け取りに行かなくちゃ!」
「ゼフィル軍に持たせたらいいさ。どうせ落ち合うだろう?」
「もし報酬を頂けるのでしたら……この戦いの必要経費に回してください」
 と、ルイが言った。
「ゼンダに相談しておくよ」
「私たちにまだやれることがあればすぐにゼフィル城に向かう」
 と、ウペポ。
「あんたたちの未来を、最後まで見届けるからね」
 モーメルはそう言って、笑顔を向けた。
「はい。──それでは、行ってまいります」
 ルイが最後の挨拶をすると、アールたちも続けて「行ってきます」と言った。
 
モーメル、テトラ、ウペポは口を揃えて「行ってらっしゃい」と一行を見送ったのだった。
 

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©Kamikawa
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