voice of mind - by ルイランノキ |
食卓には、ベーコンと目玉焼きが乗った食パン、レタスとプチトマトを添えたスクランブルエッグ、コーンスープにルイ特製スペシャルドレッシングサラダが並んでいる。スクランブルエッグにはパセリを散らすという細かな色見の配慮もされていた。
「これいつまで続くんだ?」
シドは食卓につくと水が入っているグラスに手を伸ばした。
「どういう意味?」
と、アールはまだ寝ているカイを起こそうとテントへ向かう。掛布団をはぎ取り、カイをテントから引きずり出した。
「お前のやる気」
「ルイが戻るまでがんばって持続する。──カイ、朝食出来たよ!」
「うーん……」
テントから引きずり出されても地面の上で眠っている。
ヴァイスが休息所の外から戻ってきた。結局、アールがお風呂を出た後、彼はテントを出て行き、いつも通りの朝帰りである。席に着き、“ちゃんとした朝食”に驚く。
「ルイが戻るまではがんばるってよ」
と、シド。
「そうか」
今日は朝食を食べる気分ではなかったが、しっかりとヴァイスの分も用意されていたため、いただくことにした。スーはヴァイスのグラスの水に浸かった。
「起きてってば! 食べないなら片付けるよ!」
せっかく作ったのだから温かいうちに食べてほしいというものだ。子供の頃、母に「早く食べなさい!」と叱られた理由が今ようやくわかった気がした。
「ん……起きました……」
と、薄目で体を起こし、両手で頬をパンパン!と強めに叩いた。
「もう起こさないからね」
「あい……」
カイはまだ覚めない眠気と戦いながら椅子に座ると、テーブルの上に広がっている色とりどりの朝食に目が冴えた。
「うまそーっ!!」
「でしょ?」
カイのリアクションを見ると頑張った甲斐があると思える。
ルイが居たら褒めてくれるだろうけれど、ヴァイスもシドもあまり顔に出さない。シドの場合は不味ければ文句を言うから、言わないところを見ると悪くはないのだろう。
「お昼はなに?!」
カイはパンにかぶりつきながら訊く。
「今からお昼の心配はしたくない……」
自分ひとり分ならまだしも、料理に慣れていない人が4人分作るというのはしんどいものがある。ルイが作り置きしてくれたおかずがまだあるから、それを出そうと思った。
朝食を食べ終えると、片づけをする。これもまた面倒だ。ルイがいた頃と変わりなくシドはストレッチを済ませて休息所を出て行くし、カイはテントに戻って2度寝だ。まぁ、昨日の晩御飯の片づけを手伝ってくれたから、朝も手伝ってよとは言いづらい。
「手伝うことはあるか?」
と、代わりにヴァイスが言った。
「ありがと。その気持ちだけで救われる」
と、笑顔を向けた。「でもゆっくりしてていいよ。──あ。」
あることに、気がついた。
「どうした」
「みんな、気を遣ってくれてるんだね……。誰一人、飲み物を要求しない」
と、笑った。
ほぼ毎日コーヒーを飲んでいたのに、誰もコーヒーを要求しない。私がルイのように「なにか飲みますか?」と訊いていれば要求してきたかもしれないけれど。
「私がコーヒー入れても美味しくないだろうしなぁ」
と、シキンチャク袋からバケツを取り出した。
「私が汲もう」
と、ヴァイスがバケツを受け取った。
「ありがと」
アールはもうひとつバケツを取り出して、一緒に1往復する。
「今日は野菜も食べていたな」
ヴァイスはそう言って食器をバケツに入れはじめた。テーブルではスーが退屈そうに伸び切っている。
「うん! 草感がなくなったの。違和感はまだあるけど、あー、レタスってこんな感じだったかなーって感じ」
「そうか」
アールも食器をバケツの水に浸け、シキンチャク袋からスポンジと洗剤を取り出した。
この洗剤って毎回使っていたかな……?
シキンチャク袋には他にも洗剤があったが、手に持ってみて一番中身の量が減っていた洗剤を選んで使っている。単純にこれをよく愛用しているから減っているのだと思ったが、もしかしたらあまり使わないからこそ減っているのではないかと思えてくる。減っていないほうは新しく買ったばかりなのではないだろうか。あとでメールしてみよう。
アールが洗剤で洗った食器を、ヴァイスは泉の水に浸けて布巾で拭き始めた。その手には革の手袋が嵌められている。
「ヴァイスはあまり手袋外さないね」
「…………」
ヴァイスは自分の手を見遣った。身につけていることが当たり前になっている。
「いつだったかな、手袋外してるの見たとき、手、綺麗だなって思ったよ」
「…………」
「私も手袋しようかな。──あ、そっか、もう今更ケアしようとしても意味無いんだった」
手が荒れてもすぐに治る。
「…………」
ヴァイスは、別にケアのために手袋を嵌めているわけではないんだが、と思いながら、手伝いを再開した。
片づけを終えて歯磨きも終えると、アールは意味のないストレッチをする。長い旅で身についた習慣だ。体質が変わったとはいえ、朝旅を再開する前にストレッチをするのとしないのとでは気持ちの入れようが違う。
【おはよう、これから出発です。そういえば洗剤、どれでも使っていいのかな? 毎回同じの使っていいのかな?】
ルイにメールを送信して、忘れ物がないかチェックをして、休息所を後にした。
午前6時。今日の天気は悪く、今にも雨を落としそうな雨雲が空を覆っている。
「俺が行く」
早速現れた魔物に刀を抜いたシド。魔物は2匹だ。
「雨が降ったら相合傘しよーよ」
と、カイ。
「えーやだよ。どうせ戦闘で濡れるんだから傘差しても意味ないし」
アールはシドの戦闘を眺めながら言った。
「傘差しながら戦ったら? 血しぶきも凌げる!」
「そこまで起用じゃないよ」
「傘を差しながら優雅に戦う! かっこいいと思うんだけどなぁ」
上空から鳥系の魔物の鳴き声がした。通り過ぎるかと思いきや、こちらの様子を窺っているのか旋回し続けている。
「カイ、あそこまで飛ばせる?」
「んー、ちょっと遠い」
「飛ばせる距離ってやっぱり限界あるよね」
「うん、でも、強化してもらったらもっと飛ばせるかも」
と、カイは背負っていたブーメランを構えた。
鳥系の魔物が鳴き声を上げて急降下してくる。カイはある程度の距離まで下りてきたところで、ブーメランを放った。──が、魔物は下から飛んできたブーメランを起用に交わす。ヴァイスは腰の銃に手を添えたが、ガンベルトから引き抜くことはしなかった。カイが放ったブーメランが戻ってくる際に魔物に直撃したからだ。
ブーメランがカイの手に戻ったと同時に、魔物が地面に墜落した。まだ生きていたためアールが剣を抜いたが既に戦闘を終えていたシドがついでと言わんばかりにとどめを刺した。
「ドルバードに似てるけどくちばし赤いね」
と、アール。
「レッドベイカ。目玉が金になる」
「ゲッ……最悪」
と、目を逸らす。
シドは刀の先で起用にレッドベイカの目玉をくりぬいた。
「美味そうに見えるんじゃねぇのかよ」
「目玉くりぬくのは別……。それに魔物ならなんでもってわけじゃないんだから」
「まぁそうだろうけどよ。チョンチョン見てうまそうなんて言ったらお前と旅をする自信なくすわ」
「チョンチョンなんか人間の顔じゃん……」
「カイ、羽もぐから手伝え」
「へいへい」
強い武器を手に入れるにはそれだけのお金が掛かる。自分の戦闘レベルが上がって愛用武器に物足りなさを感じたら買い替え時だ。それにお金は沢山あるにこしたことはない。
Thank you... |