voice of mind - by ルイランノキ


 未来永劫6…『僕らの夢』

 
「ねぇー、これなに入ってるの? ほんと重いんだけど!」
 と、女性は言った。
「わぁーごめんごめん!」
 カイが駆け寄り、ダンボールを受け取った。
 
ルイと女性の目がパチリと合った。
 
「あー! ルイさんじゃないですかー!」
 と、叫んだのはライリーだった。
「ライリーさん! お久しぶりです」
 と、頭を下げる。そういえば、旅をしている最中にライリーとカイが連絡を取り合っていたのを思い出す。
「あ、あのねー、ライリーが来ることを言いたかったんだ……」
 カイはそう言って、ダンボールを奥に運ぶ。
「そうでしたか」
 なぜ言いづらそうにしていたのだろうと小首を傾げる。
「いついらしたんですかー?」
 ライリーはルイに尋ねながら、棚に並んでいるカイの手作りオブジェのひとつを手に取った。
「30分ほど前です。ライリーさんはどうしてこちらに?」
「え?」
「……え?」
 ルイはてっきり、彼女も開店準備の手伝いをしに来たと答えると思っていた。
「あ、ライリー、ルイにまだ話してない……一緒にお店やること」
 と、カイが店の奥から戻って来た。
「そうだったのですか!?」
 ルイは驚いてライリーとカイを交互に見遣った。正直カイが一人でお店をやるのは心配だったが、二人でなら……。
「まぁ30分前に来たばかりなら、私のことは後回しでもしょうがないね!」
 ライリーは手に持っていたオブジェを顔の前に持ち上げた。「これほんとに売るつもりなの? いくら?」
「一体1,000ミルくらいかなぁ」
「冗談は顔だけにして!」
 と、笑う。「100ミルくらい?」
「顔も値段も大真面目なんだけどー」
「え、本気で言ってるの? こんなわけのわからないもの売れるわけないじゃない!」
 と、カイに近づいて笑いながら肩をバンバンと叩く。
「芸術とはそういうものなのだよ、凡人にはわからないんだ」
 と、不貞腐れる。
「ごめんごめん! 気に入ってお迎えしてくれる人がいたらいいねー」
 ライリーはオブジェを振りながら、カイのご機嫌を取る。
 
──あれ? と、ルイは思う。もしかして。
 
「お二人は……」
 お付き合いされているのですか? と訊こうとして、飲み込んだ。もしも違ったら、二人の仲を気まずくさせてしまうかもしれない。
「ん?」
 と、カイがルイに目を向ける。
「気が合いそうですね」
 と、笑顔で言葉を選んだ。
「気が合わなかったら一緒にお店やらないよね! 私もエプロンしてくる!」
 ライリーはそう言って、店の奥へ向かった。
 
カイはダンボール内に残っているおもちゃを全部外に出して、空のダンボールを畳んだ。
 
「ライリーさんと、いい感じですね」
 と、ルイは外に出されたおもちゃを手に取って商品棚に置いた。
「どんな風に?」
 と、カイ。
「お似合いだと思いますよ」
「……でも、そう思っているのは俺だけかも」
「…………」
 恋愛に関しては自信過剰なカイが、めずらしく弱気だ。それがなにを意味しているのか、ルイにはわかった。
「らしくないですね。ライリーさんなら、カイさんの魅力に気づいてくれると思いますよ。応援しています」
「…………」
 
店の固定電話が鳴った。店の奥から「私が出るー!」とライリーが叫んだ。
 
「ルイは? これからどうするの?」
「僕、ですか」
 
カイは視線を落としているルイの横顔を眺めた。あの日、ルイがどんな思いで自分の命をかけて国王に歯向かったのかを考えると、今でもまだ胸の奥がちくりと痛んだ。
 
「今日はいい天気だね」
 カイは店の出入り口に移動して、窓の外を眺めた。「明日も晴れだってさ」
 
ルイもカイの隣に立ち、空を見上げた。
 
「まだ、好きなの?」
 と、ストレートに言葉を選んだカイに、ルイは優しく微笑んだ。
「きっと、彼女以上に想いを寄せる人は現れないと思います」
 初恋の相手が、未来から来たアールだった。そして彼女は世界を救い、星を守る存在になった。共に戦った思い出も含めて、これ以上の経験はもう無いだろうと思える。
「まぁ、アールを超える存在とは俺だってこの先出会えないと思うよ」
 と、カイの表情が綻んだ。「ルイはさ、3年日記って知ってる?」
「3年分の日記が書けるノートですか?」
「そうそう。ルイはさ、今日、明日と明後日と明々後日と、3年後の日記まで書けちゃうわけ? もしや……未来が見えるの!?」
「見えませんよ」
 と、笑う。
 カイが言いたいのは、明日のことは誰にもわからないということだ。
「……先のことなんてわかりませんよね」
「うんうん。雷が落ちるような出会いが待っているかもしれないし、気が付いたら恋の落とし穴に落ちているかもしれないし、自然と、緩やかに誰かを好きになるかも。まぁ、俺が言うのもなんだけど、恋愛がすべてじゃないけどね。夢とかないわけ? 俺みたいにさ。世界を救った謝礼金はたんまり貰ったんだし、新しいこととか初めてみたら?」
「謝礼金のほとんどは寄付してしまいました」
「だっ!?」
 と、カイは驚きのあまり変な声を出した。
「今も復興に向かっているとはいえ、世界は苦しい状況ですから」
「ルイらしいけどさぁー…、そろそろ自分の幸せを考えなよ。仕事とか決めた? ルイが無職なんてヤだよ俺。城で雇ってもらったら? ここでは雇えないよ? この店まだうまくいくかわかんないし」
「これ以上お世話になるわけにはいきません。カイさんにアドバイスをされる日とが来るとは、本当に先のことはわかりませんね」
「人は成長していくもんだよ」
 
カイは店の奥に目を向けた。ライリーが戻ってこないのは電話が長引いているからだろうか。もしかしたら気を遣ってくれているのかもしれない。
 
「アールはルイの幸せを願ってるよ。アールが今日を繋いでくれたんだ。大事に生きないと」
「今日を繋ぐ……いい言葉ですね」
「命も繋いでいこうよ。残された俺たちの使命だ」
 と、カイは笑う。
「そうですね。まず僕は、夢を探すところからはじめようと思います」
「子供の頃とか将来の夢なかったの? 医療関係とかさ、料理人とかさ、清掃員とかさ、ルイなんでもできるんだから可能性は無限大じゃん?」
 レジの足元に置いていたダンボールをルイの元に運んだ。「これもそこの棚にお願い」
「介護職に興味があるので、そちらを目指してみるのもいいかもしれませんね」
 ダンボールを開けると、お返事うさぎというぬいぐるみができた。以前、カイがモーメルからもらった魔法のぬいぐるみだ。
「これは……魔法は?」
「魔法なんて無いよ。スイッチを押して話しかけたら、何通りか収録してる音声が流れるようになってるだけ」
「やはり魔法の道具は無いのですね」
「ルイのロッドは?」
「今はおしゃれな杖です」
「おしゃれな杖!」
 と、笑う。「おじいちゃんになったらまた使えるからいいじゃん」
「カイさんのブーメランは?」
「打撃武器としては使えるけど、魔物はどんどんいなくなってるし、VRCも再建中で今なんて試斬台に立てた畳表に向かってぶん投げる事しかできないよ。シドがいたら、あまりのつまらなさに刀を放り投げるねー」
「では、手離したのですか?」
「フマラの家にあるよ。飾ってる」
「僕も城を出たら、フマラに拠点を置こうと思います。家もあることですし」
「俺も住所はそこだから、時々会おうよ。近況報告も兼ねてさ」
「えぇ、是非!」
 
しばらくして、店の奥からライリーが顔を出した。
 
「ねぇ! そろそろ式典がはじまるよ!」
 
ルイとカイは作業を止めて、テレビがある店の奥の部屋に移動した。
 
立ち尽くしていても、命は削られていく。
考えながらも歩みを進めて、足を止めても頭ではあれこれと考える。
でも人は万能ではないから、時にはなにをするのもやめにして瞑想し、身体を休めて頭の中が雑多になっている状態から解放し、心を落ち着かせる。
そしてまた歩き出す。その繰り返しだ。
 
平和記念式典の様子が生中継でテレビに映し出された。トキ島に佇むエテル樹の側には平和の鐘が設置されている。
 
9時ちょうど。平和の鐘が鳴り響く。
人々はその鐘の音を聴きながら、祈りを捧げた。
映像が切り替わり、ゼフィル城の広場が映し出された。式典に合わせて清潔感と高級感のある白と金色で揃えた衣装を身にまとった兵士たちが整列している。楽器体の演奏がはじまると、広場の中央で子供たちが楽しそうに踊った。
音が止むと、城の塔から1000羽の白い鳥が放たれた。わぁと歓声が上がる。
城を飛び出した鳥たちはその羽を一生懸命に羽ばたかせてどこまでも続く空を自由に飛んでいく。
 

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