voice of mind - by ルイランノキ


 心声遺失13…『邪魔』

 
収容所にあるテレビモニターに、街の様子が映し出されていた。街を守る防壁結界を壊して入り込んで来た魔物たちが街を駆け回り、上空を飛び回った。
大きな街の結界でさえ壊されたのだから、小さな町や村はすぐにのまれてしまう。避難指示に従わずにその場に留まり、魔物の餌食になった人々も後を絶たない。
 
メディアはアールたちの様子を報道したがったが、死霊城の中の様子がわからないためその外観を映し出して憶測でコメントをするしかなかった。今は動きが激しい街の様子をひっきりなしに映し出されては、「落ち着いて避難指示に従ってください」と繰り返すばかりだ。
 
「──さっき、魔物に襲撃された街が映っていたんだが、ほとんどが無差別に人を襲ってる中で動きがおかしい魔物がいた。相手の様子を窺って、街の住人が武器を振るった途端に一撃で殺しにかかる。頭脳派だ」
 と、デリックがトランシーバー越しにルイに伝える。
『中にはそういった魔物もいるでしょうね……』
 と、ルイ。
「その頭脳派の魔物の額に」
 と、歴史学者のシキがデリックの横に立ってテーブルの上に広げている地図を見下ろした。「ヨグ文字が浮かんでいたんです」
『え?』
「ヨグ文字の意味は、《リンク》。連携、一体化、という意味を持ちます」
 
ドクン、とルイの心臓が跳ね上がった。
 
ルイは今一度周囲を見回した。アールたちがタロスと戦っている。気づいたことがあった。タロスに攻撃が向いている間は彼女たちの体を這っているヨグ文字に動きがない。けれど、周囲にいる人型のマモノに向けた途端に虫のように這いまわる。
アールの肩を人型のマモノが振り払った剣がかすめた。アールは眉間にしわを寄せ、振り向きざまに剣を振るった。
 
「動きを止めてくださいッ!!」
 と、ルイが叫ぶ。
 
アールたちはルイの言葉に反応し、動きを止めた。
 
「人型のマモノは、おそらく街の住人です……」
「え……」
 じりじりと距離を縮めてくるマモノに、アールたちは後ずさった。
「街に僕らの体とリンクした魔物が暴れているようです」
「それじゃあ……」
 
さっき、殺してしまったのは……
 
『その頭脳派の魔物は武器を持っているような動きをしていた』
 と、デリックの声が届く。『持っていないのに、だ。その上、人を殺してる。見えない武器で、人の首を斬った』
「ど、どうしたらいいわけ?」
 と、カイがマモノから放たれた矢を、ブーメランで弾いた。
「人型のマモノは殺さず、タロスとクロコッタを倒しましょう……」
 
ルイの指示を受け、攻撃対象をタロスとクロコッタに絞る。けれど、住人のマモノを相手にしなければしないほど、どんどんと集まって来る。それもそのはず、街にいる住人たちは攻撃を仕掛けてこない魔物を前に、力を合わせて立ち向かおうとしているからだ。加勢が増え、掛け声とともに一気に攻撃を仕掛けてくる。
アールたちはひたすらに避けるしかなかった。その間にもタロスの攻撃が飛んでくる。住人のマモノが数を増して部屋を埋め尽くしていく。動き回れるスペースがどんどん無くなっていく。
 
──邪魔すぎる……。
アールは致命傷は与えぬように周囲の住人を追い払った。カイも思わずブーメランを振り回し、住人を遠ざける。ヴァイスとスーも体術を用いて住人を払いのけた。
 
「住人に、手を出さないよう指示できませんか!?」
 と、ルイはデリックに言った。
『状況を把握して今スィッタと連携を取った。──けど、お嬢たちの体とリンクしてる魔物はそれぞれ別の街にいるようだ』
「……なるほど、だから次から次へと人が集まって来るのですね」
『それに攻撃をするなと言っても、皆自分や大切な人を守るために必死で余裕がない。手を止めない者もいるだろう』
「少しでも減ってくれれば十分です。このままでは身動きが取れないので」
『シュバルツとは対面したのか?』
「……まだです。今は厳しい洗礼を受けているところです」
『そうか』
 と、短い返答が返って来る。
 
その短い返事に、急かす感情が含まれているように感じたのはルイだけではなかった。
みんなが待っている。青い空を。暗闇に差し込む光を。戦いの終わりを。平穏を。目の前に広がる光景に嘆き苦しみながら、いつまで続くのかと不安に押しつぶされながら、待っている。
 
「こんなところで時間を食ってる場合じゃない」
 と、アールは呟き、床を蹴ってタロスの顔の正面まで飛び上がった。
 
宙で魔力を溜めて解き放つ。大ダメージを食らったタロスは後ろへと倒れていく。その肩の上で慌てふためいていたクロコッタにヴァイスの銃弾が命中する。タロスとクロコッタは床に倒れ込んだ。
安堵する間もなく住人がアールたちに飛び掛かって来た。傷つけまいと武器を引っ込めどうにかやり過ごそうと人々の間を抜けていく。
まだ生きているタロスが起き上がる。クロコッタも息があった。ルイはすぐにクロコッタに炎を浴びせた。その通り道に住人が飛び出し、巻き込まれた住人共々火が燃え上がる。ルイは目を伏せた。別の住人の手が伸びてくる。住人の手はルイの胸倉を掴み、反対の手で短剣を突き刺した。防護服に守られ体を貫通することはなかった。住人を強引に引き離してロッドで打撃を与える。
住人に取り囲まれていたカイがブーメランを乱雑に振り回す。怯んで後ずさる住人をかき分けて逃げ出した先にタロスが待ち構えていた。慌ててブーメランを構えたが既に遅く、タロスの巨大な拳がカイの横腹を殴った。ダメージが防護服を超えて鈍い音が鳴る。吹き飛ばされた勢いでカイの体が床を激しく転がった。
 
「カイ!」
 と、駆け寄ろうとしたアールに住人が迫る。
 
──邪魔すぎる。
 
アールは身を構えて剣の柄を強く握った。それに気づいたルイが慌てて風の魔法でアールの周囲に集まっていた住人を吹き飛ばす。
 
「…………」
 アールはルイに目をやった。その不安げな表情をルイは捉えたが、二人の間に新たな住人が駆けてきて視界を塞ぐ。
 
──邪魔だよ。
 
嫌な感情がふつふつと湧き出て来る。アールがその感情に気を取られていると、背後にいた住人が彼女の背中をえぐった。痛みに顔を歪め、住人を睨みつける。剣を握る力は強いが、振りかざせない。別の方向から弓の矢が飛んで来た。なにも出来ずにダメージを受ける。がむしゃらにしがみついて来る住人もいた。身をよじり、払いのける。バランスを崩して床に倒れ込んだ。
 
──邪魔なんだよ。
 
カイのうめき声が聞こえた。目を向け、立ち上がろうとするアールに住人の槍が突き刺さる。槍を構えた住人の頭がヴァイスの銃弾で吹き飛んだ。アールは槍を引き抜き、剣を握りなおして自分を取り囲んでいた住人の足を斬りつけた。
 
「アールさん!」
 と、ルイの声が響く。
 
制止するルイの声を聞きながら、アールは剣を振るった。周囲の住人たちを一撃で一掃する。住人のマモノは人形のようにバタバタと倒れた。アールはタロスに向かって走り出した。床を蹴り、物理攻撃を連続で浴びせる。床に着地すると同時に、倒れていたクロコッタが微かに動いていることに気づき、その喉を剣先で掻っ切った。
 

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