voice of mind - by ルイランノキ


 世界平和20…『報道』

 
アール・イウビーレ。シュバルツとアリアンの間に生まれた子供。
彼女と共に戦う仲間、カイ・ダールストレームは小心者であり、シド・バグウェルは一度組織に身を売った剣士、ヴァイス・シーグフリートは人を食らうハイマトス族であること、ルイ・ラクハウスはドラゴンの血を受け継いだアマダットであることを、それぞれの生い立ちと共にメディアはおもしろおかしく報道した。おまけ程度に、スライムのスーについても触れられている。
 
「酷いわ……どれも悪意がある言い方」
 と、大広間の外、城内の通路で携帯電話を片手にリアが呟いた。
『すまない』
 と、携帯電話の向こうから謝ったのはマッティだった。
「あなたのせいなの!?」
 思わず声を荒げた。
『いや、情報提供したのは俺だ。ただ、報道の仕方について誤解を招かないよう指示を出していたんだが……甘く見ていた。言いたい放題だ』
「……私がもう一度メディアに顔を出すわ」
『出してどうすんだ。彼女たちはいい人です、なにも心配いりませんって言うのか?』
 子馬鹿にしたように言う。
「なにも言わないよりはいいわ」
『だったら国王に発言させろ。かしこまらなくていい。自分の言葉で話させろ』
「父は今──」
『忙しいとか言うなよ? 10秒だ。10秒ありゃ伝わるもんは伝わる』
「そうよね、わかったわ……」
 
大広間にてアールたちに指示を送っていた国王ゼンダの元にカメラが入った。
 
「アールちゃんたちの誤解を解くために一言でいいからメッセージがほしいの」
 と、リアが言う。
 
ゼンダはアールやゼフィル兵の動きに意識を集中していただめ、ちらりとカメラに目を向けて手短にメッセージを残した。
 
「あの子たちは身を削ってがんばっておる。応援してやってくれ。私も自分の仕事を全うする。以上だ」
 
近所のおじさんの発言と大差ないゼンダの言葉は光の速さで世界を飛び回った。重みが無くあまりにも質素な発言に、偽物なのではないかという物議を醸した。合成や誰かが真似たものではないかと疑われたが、それぞれの専門家が本物であると主張した。
 
大広間に設置された大きなテレビ画面に流れたそんな報道を見て笑ったのはゼンダだった。
 
「酷いわ……威厳がないにもほどがあるのよ」
 と、リアが呟く。「やっぱり私が発言すべきだった」
「それはそれでまた世間が騒ぐ」
 と、大広間にデリックがやってきた。血まみれだ。
「誰の血だ」
 ゼンダが訊く。
「ゼフィル兵と組織の。一人逃した。なんだっけ、セドリックだったかパドリックだったか、そんな名前の」
 と、ポケットからタバコを取り出した。
「そいつは死霊島へのゲートを開く鍵の一人だ。逃がしていい」
「なんだ、ならよかった。けどどうせまた懲りずに攻め入るでしょうから、新しい駒の配置をしておきました。死体は邪魔なので燃やしました。アーム玉は回収済でっす」
 タバコを加え、火をつけた。
「ここでタバコは吸わないで」
 と、リア。
「火を付ける前に言ってもらえます?」
 と、めんどくさそうにタバコを床に落とし、踏み消した。
 リアが吸殻を拾い上げ、デリックに手渡した。
 
大広間に設置しているテレビに死霊島の映像が流れる。アール、ルイ、シド、ヴァイスが交互に映し出されるが、アールの映像が一番長く使われている。
 
「カイはどこっすかねぇ」
 と、デリックは腕を組む。
「カイくんはまだ第一部隊のアジトよ」
「けどもう用は済んだろ? ゲートは壊したと聞いたが」
「集まっていた組織の連中が戦いをやめないのよ」
 と、テーブルに移動し、地図を見遣った。「きっと上からの指示がないからね」
「とりあえず目の前にいるゼフィル兵をぶっ殺そうって感じか」
 
ゼンダはテレビモニターに映る一行の様子と、トランシーバーからの情報でアールが死霊島に入ったゲートからの潜入が安全だと判断し、カイに指示を送った。
 
「──カイ、聞こえるか? サンズの森へのゲートを開く。アールの後に続いて死霊島へ、生き残っている兵士と共に向かえるか?」
 
すると、カイからではなくアールから連絡があった。
 
『ほ、ホラーなんですけどっ!!』と。
「どうした」
『ゾンビ!! リアルゾンビ!! ゾンビ島!! きもぉおおおぉおぉいッ!!』
 と、騒がしい。『地面から這い出てくる! 心臓に悪い!』
「カイチームを行かせる。──カイ、聞いているか?」
『はい』
 と、カイから短く返答があった。
 
「切り替えが下手だと厄介だ」
 と、デリックがカイの様子を察して笑う。
「あなたは切り替えが早そうね」
 リアは血で汚れているデリックのコートを見遣った。
「俺に立てついていた魔法兵の頭がグシャってへしゃげたんだ」
「…………」
「目ん玉飛び出してよ、叫び声も上げなかった」
「…………」
「すぐにそいつの代わりの魔法兵が駆けつけて、そいつは俺への忠誠心が高くてねぇ。俺がタバコを吸い始めても文句ひとつ言わねぇの」
「……?」
「なんだかなぁって、思ったわ」
「……あなたが考えていることがよくわからないわ」
「わからなくていいっすよ。他人が考えていることはそいつの問題であってあんたの問題じゃないから考えるだけムダ」
「相手のことをわかろうとすることは無駄かしら」
「俺の気を惹きたいんなら無駄じゃねぇけど。ねぇ? お父さん」
 と、冗談を言ってゼンダに目を向けた。
「チャラい男に娘はやらんぞ」
「チャラい!」
 と、デリックは吹き出した。「俺チャラいっすかねぇ」
「ほんとにもう……」
 リアは呆れたようにため息をこぼした。
 

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