voice of mind - by ルイランノキ


 世界平和18…『誇り』

 
「カイ」
 と、アジト内の物置き場にいたカイの元へスタンが戻って来た。
「ビックリしたー! 組織の連中かと!」
 構えていたブーメランを抱き締める。
「死霊島へのゲートを開く鍵は5人だ。そこに俺も含まれている。ゲートを開けるために全員集まるよう促した。ゲートが開いたら、すぐに俺たちを殺してくれ」
「……え? もう一回お願い」
 と、カイが訊き返す。頭の上にいたスーもぱちくりと目を瞬かせた。
「死霊島へのゲートを開くには、鍵を持っている5人が必要なんだ」
「じゃあその鍵を奪えばいいんじゃないの?」
「鍵は……」
 
スタンはコートを脱いで、上半身裸になってからカイに背中を向けた。魔法円など複雑なスペルが刺青で描かれている。
 
「俺と他4人の背中にある。全員が集まったとき、ゲートが開く。鍵は俺たちそのものだ。ゲートを壊すには鍵を壊す必要がある。ゲートが開いたと同時に、我々を殺すんだ。鍵を集めるために一区にグロリア一味が集まっているとデタラメを言った。すぐに嘘がバレる。考える暇を与えずにどうにかゲートを開かせる」
 と、スタンは脱いだ服に袖を通した。
「いやいや待って……無理だよ。百歩譲って組織の連中はまだしも、スタンは俺たちの仲間じゃん! あ、属印を気にしてんの? 属印があるのって足だよね!? シドみたいに足を斬ったらいいよ! そしたら制裁からも逃れられるはずだし!」
「カイ、何度も言わせるな。ゲートを壊すには、鍵を壊すしかないんだ」
「…………」
 
スタンは服を着て、カイのイヤホン型トランシーバーを奪った。
 
「──こちらカイチーム、スタンフィールド。死霊島へのゲートの鍵は、ザッパ、ウォルト、ペトル、セドリック、そして俺の背中に刻んである。全員揃えばゲートが開く。壊すには鍵をすべて壊す必要がある。役目はカイに任せる」
 少し間があったあと、『承知した』と返答があった。
「俺に殺せっていうの……?」
 スタンはトランシーバーをカイに放り投げた。
「俺は鍵の話を持ち掛けられた時、好都合だと思った。元々は別の人間が請け負っていたが命を落とした。その代役だ」
「…………」
 カイは受け取ったトランシーバーを眺めている。
「生半可な気持ちで組織に潜入したわけじゃない。わかってくれ」
 そう言いながら、シキンチャク袋に入れておいた透明マントを差し出した。「その時が来るまで、身を隠しておけ」
「…………」
 カイはトランシーバーを耳に装着し、透明マントを受け取った。
「ゲートを開くときは皆で仲良く手を繋いでる」
 と、苦笑する。「だから自決は難しい」
「…………」
 カイは悲しげにスタンを見遣った。
「ゼフィル兵も組織の連中を相手に大忙しだ。──おまえは?」
「……それが俺の役目?」
 消え入りそうな声で呟き、視線を落とした。
「重大な任務だ。世界を救ってくれ」
「でもっ……死にたくなんかないだろ? 誰だって死にたくないはずだよ! 生きて帰れたら生きて帰りたいでしょ? 死にたくて組織に入ったわけじゃないんだからさぁ!」
 
スタンの脳裏に、最後に酒屋で会った兄、マルックの笑顔が浮かんだ。──約束は、果たせそうにない。
スタンはカイの肩に手を置いた。手に力が入る。  
 
「かっこよく散らせてくれ。後悔も悔いもない。俺は自分を誇りに思う」
 
頼んだぞ、そう言って、スタンはアジトの外へ飛び出して行った。
 
━━━━━━━━━━━
 
カイの声が聞きたいと、ルイたちは思った。ずっと一緒に旅をしてきた。彼がこういった任務に向いていないことはよく知っている。
 
トキ池の前で待機していたルイの携帯電話が鳴った。アールからだ。すぐに電話に出た。
 
「どうされましたか?」
『……ごめん、なにもないんだけど』
 と、言葉が途切れる。
「カイさんのことですね……?」
『うん……心配で……。カイに電話しようかと思ったけど……今それどころじゃないと思うし……』
 居ても立っても居られなかったのだろう。自分も同じ思いだった。
「辛い決断ですが、ここはカイさんに任せるしか……」
 
──と、その時だった。トランシーバーにシドの声が入った。『カイ、やるしかねぇだろ』と。
 
『シドが話してる……』
「えぇ、聞こえています」
 
ヴァイスもハズレ小島から通信に耳を傾けた。
 
『……他に方法があるはずだ』
 と、カイの声が聞こえる。
『迷うな』
『きっと他に死霊島に入る方法がっ──』
 カイの言葉を遮るようにトランシーバーにノイズが入った。
『こちらカイチーム、アンディ。鍵が集まったようです! ただなにか、揉めているようで、グロリアの一味はどこだ? と。このままでは……』
 
「カイーーーッ!!」
 
スタンがカイの名前を叫んだ。近くで身を潜めていたカイは奥歯を噛みしめて透明マントを脱ぎ捨て、殺傷能力を高めたブーメランを投げ飛ばした。ムスタージュ組織と戦闘を交わしていたゼフィル兵たちも隙を見て攻撃魔法をスタンの方へ放った。
いくつもの攻撃魔法が重なって、赤黒い炎が開いていたゲートと鍵となった人の体をメラメラと包み込んで空へと燃え上がる。
 
カイは力なく膝を付いた。スーが地面に下り立ち、心配そうにカイを見上げた。
 
『──カイ、でかしたぞ。ゲートが開いた。死霊島に入る』
 と、トランシーバーを使ってシドが言った。
「僕らも行きましょう……」
 と、ルイは電話の向こうにいるアールに言った。
「うん……」
 アールは電話を切り、トランシーバーからカイにメッセージを送った。
『カイ、先に行って待ってるからね』
『必ず落ち合いましょう』
 と、続けてルイが言った。
 
カイからの返答はなかった。
 

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