voice of mind - by ルイランノキ


 世界平和11…『約束』

 
ゼフィル軍が休憩所に集まった。アール、シド、ルイ、ヴァイス、カイとスーにそれぞれ20人ずつ分けられ、総勢100人。戦力は多い方がいいが、多すぎても目立つためこの人数となった。
 
アール、シド、ルイ、ヴァイス、頭にスーを乗せたカイが、整列しているゼフィル兵の前で向かい合い、互いにエールを送り合った。シドは第一部隊のアジトに潜入するカイに、シキンチャク袋から取り出した透明マントを手渡した。
 
「お前が持ってろ。足音や気配は消せないねぇから過信すんなよ?」
「ありがと! めっちゃ助かるー!」
 と、透明マントを肩にかけた。その部分だけが透けて見える。
「では、最終確認を。カイさんはスーさんと第一部隊のアジトにあるゲートを壊しに、その間に僕はトキ池へ、アールさんはサンズの森に、シドさんはハズミ村の跡地、ヴァイスさんはハズレ小島へ。よろしいですね?」
 と、地図を広げる。
 アールたちは頷いて意思表示をした。
「忘れ物はありませんか?」
「武器も防具も限界まで強化したし、回復薬も持った。準備はOK」
 と、アール。
「なにかトラブルがあった際にはトランシーバーから連絡を。カイさんがアジトのゲートを壊したらそれぞれ担当各地のゲートが開きますので、死霊島へ潜入です」
「ねぇ俺は? ゲート壊した後、どこから合流すればいい?」
 と、カイが不安げに訊く。
「ゼンダさんが各地への移送ゲートを開いてくれます。どこのゲートを使って来るかは僕らの状況から判断してください」
「死霊島へ入ったらきっとすぐ戦闘だよね?」
 アールが確かめるように訊いた。
「えぇ、おそらく。気を緩めず、魔物や組織を討伐しながら死霊島にあるこの塔で落ち合いましょう」
 と、地図上に×印を描いた場所を指さした。
「そういや、この塔ってなんの塔なんだ?」
 と、シドは腕を組んだ。
「名も無き島と呼ばれていた時代に迫害から逃げて来た魔術師たちが集まって建てたと言われています。ここに居場所を作ったのでしょう。結局……長くは居られなかったようですが」
「へぇ、知らなかったな」
「一階に聖なる泉があるため、今は組織が利用している可能性が高いので気を付けてくださいね」
「ねぇねぇ、円陣を組もうよ!」
 と、カイが言った。
「そういう熱苦しくてダセェことすると萎えんだよ……」
 シドはめんどくさそうに言った。
「いいじゃない。ダセェことを全力でやるの、悪くないよ」
 と、アールはカイと肩を組んだ。
「いいですね」
 ルイもそう言ってアールと肩を組んだ。
 
こういうのは苦手だろうと思われたヴァイスも、黙って円陣に加わったため、シドも仕方なく肩を組んだ。
 
「あ、待って。もう一人」
 と、アールは首に掛けていたタケルの剣を元の大きさに戻し、円陣を組んだ中央の地面に突き立てた。
 
アールがタケルの剣の柄頭に右手を置くと、その上にカイが右手を乗せ、それに続いてルイ、ヴァイス、シドが手を乗せた。最後にカイの頭に乗っていたスーがその上に下り立った。
 
「掛け声どうするぅ?」
 と、カイ。
「決めとけよ」
「エイエイオー! とか?」
 と、アールが言った。
「なにそれぇ」
 と、カイが笑う。
「え、こっちでは言わない? 掛け声でエイエイオー!って」
「どういう意味ですか?」
「エイエイオーの由来なんか調べたことないよ」
 と、苦笑する。
「がんばるぞー! おー! でいい?」
 カイが思い付きで言った。
「ダセェ……」
 シドは文句ばかり言う。
「じゃあシドが考えてよー」
「ねぇシュバルツ目覚めてるの忘れてない?」
 アールは緊迫感がまるでない空気感に思わず笑った。
「いくぞ」
 シドが気を引き締めて言った。 
 皆の右手に力が入る。
「気合入れていくぞッ!!」
 シドの掛け声に、ゼフィル軍たちも合わさって「オーッ!!」と叫んだ。
 
身体が勇み立つのを感じる。いよいよだ。いよいよシュバルツの領域に入り込む。そうなればもう後戻りはできない。あとは終わりまで突き進むだけ。
 
「シド」
 と、アールはタケルの剣を地面から引き抜いてシドに差し出した。
「…………」
 シドは黙って受け取り、眺める。
「シドがタケルと一緒に戦って。きっとタケルもそれを望んでる」
「……わかった」
 アールからネックレスも受け取り、タケルの剣をネックレスにして首に掛けた。
「それじゃあ……」
 と、アールがカイに目を向けたとき、ルイが一歩前に歩み出た。それを合図に、シド、カイ、ヴァイスがルイの隣に立った。
「アールさんにお渡ししたいものが」
「え?」
 
ルイたちはモーメルから授かった護符の中に入っていた自分のアーム玉を取り出した。アールはすべてを察して不安げにルイに目を向けた。
 
「僕たちのアーム玉は、アールさんが持っていてください」
「なんで……?」
「なにかあったとき、組織の手に渡らないように。そして、すぐに使えるように」
「なにかって……? 使うって……」
「もちろん、そうならないように努めます」
 ルイはアールの右手を取って、その手の平にアーム玉を託した。
「俺らのアーム玉を預かるってのは責任重大だぞ」
 と、シドもアールの手にアーム玉を乗せた。「お前になにかあったら俺ら全員のアーム玉を奪われるわけだしな」
「じゃあ自分で持っててよ!」
 と、アーム玉を握った右手を突き返すが、その手を掴んだのはヴァイスだった。
「お前は必ずシュバルツと対立する。我々が責任を持ってシュバルツの元へお前を運ぶ」
 と、アールのこぶしを開いて自分のアーム玉も手の平に乗せた。
「みんなも一緒に、でしょ?」
「そのつもりだけどさ、念のため預かっててよ」
 と、カイもアールにアーム玉を手渡した。
「……万が一なんてこと考えたくない」
「僕たちもです。死ぬ気など毛頭ありません。だけど……未来は誰にもわからないから」
「…………」
 
休息所の端で一仕事を終えていたリンカーンが「アール様」と口を開いた。
 
「私はずっとここにおりますので、ゲート紙をお渡ししておきます」
 と、アールに歩み寄ってここに繋がるゲート紙を差し出した。
「いらない……」
 話の流れから、万が一、仲間の誰かが命を落としてもすぐに彼らのアーム玉を武器等に宿して使えるようにできますよ、と言っているのも同然だった。
「アールさん。持っていてください」
 ルイがゲート紙を受け取り、アールに手渡した。
「絶対に死なないで。誰一人」
 と、アールは仲間に目を向けた。「約束して」
「がんばるよ」
 と、困ったようにカイが言った。
「そんな曖昧な返事しないで! なにがなんでも一緒に青い空を見ようよ! じゃなきゃ……私はこの世界を救う意味を無くす……」
「アールさん……」
 ルイは黙って整列しているゼフィル兵を気にかけた。アールの言葉は、決していい言葉に聞こえなかったはずだからだ。
「みんなの仕事は私をシュバルツの元へ届けたら、はい終わり、じゃない! 無事に帰るところまでが仕事なの! 世界の平和を見届けるまでが仕事なの! その後だって、みんなの物語は続いて行くの。繋げていくの。途中放棄は許さないから。──皆さんもそう」
 と、アールは兵士たちに目を遣った。
「この戦いで死んでいい人間なんか一人もいない。未来を思うなら、必ず命を持ち帰ってください」
 
アールの言葉に、兵士たちは力強く敬礼をした。
代わりはいくらでもいる、そんな言葉を浴びながら下積みを重ねたゼフィル軍の中には、今日という日に命を燃やす覚悟を決めた者もいた。死ぬ覚悟で挑むと意気込んでいたが、アールの言葉に今一度自分の命について意識を向けることになる。
 
「あ、そうだ。写真撮ろー?」
 と、カイがシキンチャク袋からカメラを取り出した。
「この流れで、ですか」
 と、ルイが困惑する。
「きっとこの後はシュバルツを倒すまで仲良く写真撮影する暇もなさそうだからさ? 最終決戦を前に撮っておきたくて」
「じゃあこういうのはどう?」
 と、アールが思いついたことを口にした。「戦いが終わったら、同じポーズでもう一度写真を撮るの」
「なにそれ最高じゃん!」
 と、カイが声を上げた。「そういうの好きー!」
「戦いの前と後とでどう変わってんだろうな」
 シドもアールの提案に乗ったようだ。
 
司令官のイーサンがカメラマンを名乗り出てくれた。カイの指示の元、それぞれが立ち位置に立ってポーズをキメる。『スマイリー!』という掛け声と一緒にシャッターが切られた。
 
「では、健闘を祈って、必ず塔で落ち合いましょう」
 
ルイの言葉を最後に、カイが率いるチームを残し、アールたちはそれぞれゼンダ指示の元、各方面から死霊島に繋がっている秘密のゲートがある場所の近辺へゲートを使って移動した。
休息所では残されたカイチームが号令がかかるまで息をのんで待っている。
 
「スーちん、頼りにしてるからね?」
 と、カイが肩にいるスーに声を掛けた。スーは任せてくれと拍手で応える。
 
しばらくして、小型トランシーバーに連絡が入った。
 
『──カイチーム、ホルキス荒野の第一部隊アジトへ繋がるゲートを開く。ゲートの先に歩哨が待ち構えている。魔法円の波動で気づかれる恐れがある。用心するように』
「わかったー」
 と、カイが答えると、すぐそばでゲートが開いた。
「おし……じゃあ……、行きますかぁ」
 こういう時は自分が指導者にならなければならないとわかってはいるが、足がすくんで声も震えて、動揺を隠せない。
『カイ、待ってるからね』
 と、アールの声が届いた。重要な連絡があるときのみトランシーバーを使うようにと言っていたのに、だ。
「任せんしゃい!」
 と、返事をし、カイは透明マントを頭から被って「俺に続けー!」と、ゲートに足を踏み入れた。
 

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