太陽が頭上にある時刻。賑やかな街に、青年が三人。色とりどりの服を着た姿は、まだ大人になって間もないあどけなさがあった。その中の一人が、独り言のように言った。
「そういえば、異種族がまたこの国で暴れたんだってさ。本当いい迷惑だよな」
「またかよ? 俺らが手を出せないのをいいことに、そこらじゅうで暴れまわってやがるんだから。いっその事出入り禁止にすればいいのによ、なあ、ヴァン?」
そう問いかけられた青年は、どこか上の空だった。その様子に気がついたのか先程の青年が背中を強く叩いた。その衝撃で気が付いたのか、慌てた様子でヴァンは話を合わせた。
「だ、だよね。そもそも僕ら人間は一番弱いのにさ。雁首揃えたって敵うはずがないのに、王様も勝手だよなあ」
「そういえば、隣国ってエルフ族の国だったよな。いいよな、エルフは。なんたって超美人なんだぜ? そりゃあ妖精様から遺伝子もらってんだから、人間よりは容姿がいいはずなんだが……でも俺らだってあいつらの土台になってんだし、もしかしたら俺らも……まさか?」
いやいやいや、お前に限ってそりゃねえよ。鋭いツッコミに気を悪くしたのか、再びその青年はヴァンの背中を叩いた。
相当強く叩いたのだろうか。ヴァンは叩かれた場所をさすりながら、もう知らないとでもいう風に彼に背を向け、もう一人の青年と話を続けた。
「俺はお前が悪いと思うけどな……。ああ、そういえばその異種族が暴れた理由、知ってるか? 人間がそいつを馬鹿にしたからだって。ぺこぺこしろとは言わないけど、もう少し仲良くしてもいいんじゃないか?」
「いや、無理だよ。どうせ僕らは雑種じゃないから弱いですよ」
投げやりにヴァンが言った言葉に、二人は顔をしかめた。
遥か昔、食物連鎖の頂点が人間だった時より少し衰退した頃。人口減少とともに、人間以外の動物と番になるものが増えてきた。人間は元々、他の動物には少し劣っていたと言われている。強靭な肉体と知能を手に入れた動物達は次第に人間に近づき、種族という一つの括りとして分類されることとなった。
「そもそも、人間が多種族との交流がないのが悪いんだよね。せめていつまでも人間にこだわるのをやめたらいいのに」
彼はそう言いながら、鞘に収まっている短剣を取り出し、高く掲げた。毛が薄く、鍛えられているとは言い難い細い腕は、掲げた剣とは不似合いだ。
どこまでも青い空には、人間とよく似た格好の鳥達が飛び交っていた。その数はわずか数羽ほどだが、その数羽でもこの国の人間をどれほど葬れるのだろう。視界に入った鳥から目をそらすようにして、彼は短剣を再び鞘へと戻した。
ヴァンの疑問に、青年は眩しいものから逃げるように目を細めた。だが、
「人間の血を大切にするっていうのも、誇りであり問題だよな。進化を続けた他種族とは違って、いつまでも純血のままなんだから」
そう呟いた声は、何かに憧れていた人間の叫びだった。
名前は一応ヴァンに設定してありますが、元は名前変換です。