1. ◯◯ ◯◯


目が覚めたら真っ白い壁の真っ白なベッドの中
キツい薬品の蒸せ返るような匂い
窓からの眺めは見慣れない木樹の景色

『わたし…名前なんでしたっけ?』

目の前で心配そうに自分を見つめている女性に
そう聞くと、ボロボロと涙を流し始めた
一体どうしたというのか?

「あなたはね…玲奈というのよ、玲奈」

涙を拭いながら、真っ直ぐな瞳でそう教えられた
そうか、私は玲奈というんだ

ここはどうやら病院みたいだから
私の身に何か起きたんだろうか

『私に何が起こったんですか…?あの…家族とかは?』

そう質問したら女性は困ったように黙り込んだ
なんで?どうして?
何か説明出来ないような事情でもあるの?

しばらくすると、ある少年がガラッと
ドアを開けて 私のいる病室を訪ねてきた
友達?にしては年上で大人びていて
佇まいが落ち着いてるなぁという”第一”印象

「気分はどうですか?玲奈さんは
崖から転落して、頭を強く打ってしまい
記憶がなくなった…とさきほど
お医者さんが話しているのを聞いてしまいました」

『え…そ…そうですか…あ、あなたのお名前は?』

「僕は…玲奈さんの友人で…水瀬 玲士…と言います
早く体調が良くなる事を祈っていますね
それでは、僕はこれで」

少年は優しい微笑みで、すぐさま病室を去っていった

いいんだこれで
僕は明日には水瀬家に引き取られて
兄妹離れ離れになる

玲奈の泣き顔を見なくて済むと思えば
丁度良かったのかもしれない

これからは別々に互いの人生を歩んでいこう…玲奈


10年後、玲奈(15)

この孤児を集めた施設は、16歳までしかいられない
それまでに里親や新たな施設に移るか
自分で働いて独立するしかない

まさに人生の岐路に立っていた玲奈に
ある日、思いもよらない出来事が起こった

「こいつは上玉だな!いくらで売りに出そうか?」

「あの”集い”に献上してみては…?」

「そうだな!あの方々ならきっと高い値で…」

凶器を持った十数人の男達が施設を襲撃し
子供達は一瞬のうちにして攫われた
玲奈は人攫いの男にグイッと顎を掴まれた

『汚い手で触れるなっ!この手を離せ!』

「うるさいなぁ!少し黙れ!!!」

玲奈は必死に抵抗するも
複数の男達によって押さえつけられながら
用意された大型車に無理矢理乗せられた

ナイフを突きつけても恐れ知らずで
あまりにも玲奈が暴れる為
男達によって口を布で覆われ手も拘束具で縛られた

何時間も車を走らせている気がする
一体どこまで遠くに連れていこうというのだろうか…

そして間もなく、周りを塀で覆われた
記憶にも全くない豪邸のような建物に到着した

「あなたも家族に売られてきたの?」

着くなりある狭い一室に案内されると
綺麗に身を着飾った女性に声を掛けられた

『いや…私は無理矢理、気が付いたらここへ…』

「じゃあ、人攫いに襲われたのね?可哀想に…」

同じ様な若い女性が何十人もいるという
兵士と思われる男達に監視されていいる中
逃げ出すのは容易ではない

案内されるままに奥へと突き進んでいくと
一層豪華な部屋の中へと案内された

赤い絨毯に大きなシャンデリア
白いシルクのテーブルクロスにスーツを纏う紳士達

一見煌びやかなパーティーだがこれは
普通のパーティーとは一味違った
様々な身分の女性が集められた、ある催しだった

玲奈が現れた瞬間
辺りの視線は一気に玲奈に注がれた

「待っていたぞ〜わが女神達!…おぉ!これは!」

それもそう、大きく見開かれた黒真珠のような瞳
きめ細やかく眩しい白い肌に、スラリと細い美脚
誰よりも目を惹くのは、華奢なガラス細工のような
肢体にはりついた、艶めいた黒髪の玲奈

「なによ!後から来たくせに…
この長い黒髪の…生意気な女!」

派手に着飾った女達は一斉に玲奈を睨んだ
我こそは殿方へと息巻いていた矢先に
こんな美少女が一緒とは面白くない

そんな騒然とする中で、玲奈は
気だるそうに窓を眺めていた
一人の眼鏡をかけた青年が目に止まった

あのいかにも階級の高そうな青年も
この茶番に付き合わされいる一人か
そう思ったら急に親近感が湧いてきた

「水瀬の当主様〜!今日はエラく
べっぴんさんがおりますぞぉ?」

「貴方達が楽しめばいいのでは良いのでは?」

「いやさぁ、たまには水瀬さんも息抜きして…
いつも手厳しいこちらの身にもなって下さいよ〜」

「今は、妻以外の女性とは交流というか
全く興味がないので…」

既婚者である青年は、パーティの参加者にそう呟いた
ゆるやかに波打つアッシュブロンドの髪
20歳にして妖艶な大人の色気を持ち合わせた美貌は
男女共に憧れの的であった

玲奈は退屈そうに自分の髪を巻きつけながら
食事に手を付けようとしたその時

眼鏡の下で髪の色と同じ灰色の目が
顔を近付けてじっと自分を見つめていた

『なっ!…いきなりなんですか?!』

いきなりの玲奈の大声に周囲が驚く中
アッシュブロンドの青年は玲奈の
すぐ後ろに突っ立っていた

「ちょっとこちらへ、付いて来い…」

青年はいつもの穏やかな表情とは一変
颯爽と玲奈の腕を掴んでドアを開けた
一応このパーティの主催者という肩書きを持つ青年の
予想外の行動に周りは固まった

「お前…どうして身売りなんて考えた…?」

『はぁ?お前には関係ないし
私は攫われてここへ来たんだ!』

「くだらない嘘をつくな!此処の参加者は
自ら志願した女性ばかりのはずだ!
金か?金が必要なのか…?!」

『嘘じゃないっ!私は…あっ!』

玲奈は青年に着衣の胸元を削がれ怖気つき
急ぎ両手で覆い隠した

「ほらな、怖いだろ?これに懲りたら二度と…」

『私は記憶がないんだ!だから自分が
どういう境遇で、本当は売られたのかもとか
金が必要だとかも…イマイチ理解出来なくて…』

「…」

青年は黙って玲奈に羽織りを被せ
自分の部屋へと連れていった

部屋の内装は意外とシンプルで、中には
幾つもの種類の猟銃が並んであり
一瞬驚いたがただのコレクションだと言う

辺りが静かになった夜
2人は小一時間黙ったままだったが
青年が沈黙を破り、先に口を開いた

「何か…食事を用意しようか?」

『ああ、ありがとう…』

玲奈は目を背けたまま返事を返す
青年は先程のパーティで十分胃袋が満たされた
玲奈の分を持って再び部屋に帰ってきたが
小さな彼女の姿は部屋中探しても見当たらない

『んっ!辞めろ…!』

「おー小さく引き締まった、柔らかくていいケツだ!」

その頃玲奈はある男に手首を掴まれ
背後から身体を壁に押し付けられていた

青年のいない間にこっそり部屋を抜け出し
出口を探し求め彷徨っていたところ
ねっとりとした手つきで、玲奈の尻を撫で回す
青年の執事である阿久津 了に捕まっていた

『やめろっ!…この変態!痴漢野郎!』

阿久津はジュルジュルと音を立てて
美味しそうに玲奈の首筋を舐める
下半身を撫で回す手が、ゆっくりと
下着の中へと伸びていく

玲奈は力の限り抵抗するも
名前は日本人名ながらも、金髪碧眼の美形ハーフの
容姿に見合っただけの屈強な体格に
容易く押さえつけられてしまう

了は玲奈の下着を横にズラすと
色素は薄いが太さは並み以上な
外人ハーフのぺニスを当てがってきた

初めてなのに…こんなグロテスクなものが
入るわけないがないと、玲奈は涙目になった

『や、やめろーーーーーっ!!!』

怯えながらも玲奈は力の限り叫んだ
すると、暗闇の向こうから急いで
こちらへ近付く足音が聞こえる

「…おい、俺の”所有物”に手を出すな、了」

青年はいつも以上にすさまじい威圧感と
射抜くような冷たい眼差しで
了は名残惜しそうにも思わず後ずさった

「いや、その…出来心というか…」

「そうか…全部、お前が仕組んだんだな?」

了は顔を俯かせて、静かに立ち去っていった
青年は美夜の首筋に残った唾液の跡に気付き
濡らした布で丁寧に拭き取った

「汚い…」

『悪いな、会ったばかりで…こんな事させて』

「…”会ったばかり”だと?」

青年は玲奈の言葉に軽く微笑した
意味深だがその優しさに、玲奈は少し心が
落ち着いたが、豹変していく様に恐怖を覚えた

「汚い汚い汚い汚い汚い…!」

『おい、どうしたんだ?』

「汚い!!!」

青年は突然狂ったように玲奈の口を手で塞ぎ
いきなり衣服を全て剥ぎ取られ、自室へと押し込まれた

「まるで自分の物が穢された気分だよ…僕が
全部綺麗にしないと、このままじゃ気が済まない…」

会って間もないはずの、決して交わってはいけない
そんな関係は重々承知のはず

”所有物”を穢され狂った感情に
青年自身も壊れている事に気が付いていた

目の前の真っ白で華奢な細い玲奈の儚い裸体と
艶めいて濡れる桜色の唇、目に浮かべる涙にさえ
欲情が疼いて抑えきれない青年

「縛り付ける手間が面倒だ、そこへ横たわれ」

『おま…お前まで…っ…まさか…!』

青年は寝室のドアを開けて、玲奈を
天蓋付きベッドへと追いやった
玲奈の口を手で抑えながら
青年はなぜか涙を流していた

『んー!んーーー!』

「こんな形で、お前と再会したくなかった…!」

玲奈の手をベルトでベッドに縛りつけた

玲奈は泣きながら自分の頬にキスをする青年の涙を肌で感じて、抵抗を辞めたーーー


「玲士様、失礼します!
本日のスケジュール報告ですが…」

「了、ちゃんとノックしてから入れ」


了がノックと共に入ってきた
玲士は朧げにシーツに包まった玲奈を
思い出しては、少し悲しげな表情を浮かべた



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