■Secret first scene


『あの…黒いスーツの紳士な方
お財布を落としましたよ』

水色のワンピースに胸元には三日月の紋章
ああ、またこの子供達か

「大した額は入ってないから、お礼に
それは貴女に差し上げましょう」

「はぁ…また”善意”ですか…龍臣様…」

ハットを深くかぶった紳士は俯いたまま
笑みを浮かべ、少女に優しく言葉を返す
執事は毎度の茶番劇にため息を漏らす

『そういうわけには参りません
”お父様”にこういった場合は丁重に
失礼のないように、断るようにと…
言われておりますので…』

ふむふむ、言葉遣いもなかなか
教育が行き届いているのか
久々にあの”劇団”へ、子供達の演劇を
”観に行くだけ”ならいいかな

「分かったよ、拾ってくれてありがとう」

そう言うと、少女は笑顔でこの場を立ち去った

せめて名前を聞けば良かった…
若き社交界の華とも謳われる紳士が
そう酷く後悔するほどに
ちらっと顔を見たその瞬間…

少女がまるで美しい天使に見えた

「俺の許可無しに一人で外出は
禁止と、あれだけ言ったはずだが」

『も…申し訳ありません、千秋お父様
ルナさんに託けられてこの近辺で話題の
ケーキを並んでいたら遅くな…っ!』

バンッ

男のビンタによって、少女の頬が赤く腫れた

「全く…またくだらねー理由だな
俺が言いたいのはそういうことじゃない
今晩はキツい”罰”を覚悟しておけ」

少女を叱りつけた30手前位の歳の男は
妖しい笑みを浮かべ、今日公演が行われる
この都市一番の大ホールへと入っていった

”水無月児童劇団”

劇団員は児童約300人で構成されており
実際に出演できるのは毎回50人ほど
厳しいオーディションをくぐり抜け
今は花形スターである水無月 ルナを中心とした
演目が各地で行われている

開演前の舞台袖ではルナをはじめ数々のキャストが
現在、ある噂で持ちきり大騒ぎである

「えーっ!客席にあの小田切財閥の
ご子息がいらっしゃってるの?!
どんな素敵な殿方かしら?」

「あらっ!いつも以上にヘアメイク
気合い入れなきゃじゃないのっ!
もうどいてどいてーっ!」

女子キャストは大慌てで控え室に戻ったり
鏡を取り出したり奪い合ったり
公演直前というのに一気に忙しなくなってしまった

そんな中とりあえず無事に開演スタート
この物語の主人公であるアンの出番は
これまでも一度もなく、裏方で小間使いとして
働き進行を見守っているだけの仕事

ルックスはルナに負けず劣らず申し分ないのだが
いつもオーディションで落ちてしまうのだ

うわぁぁああああーーー!パチパチ…

難なく本日の公演は終了、お客さんの反応も上々

幕が降りた瞬間キャストは
一瞬ホッとした表情になるが
すぐに目の色を変えて化粧直しに
”勝負服”へとお色直し

今から始まるのが水無月児童劇団のメインイベント
別名”裏オークション”の幕が上がった

「お集まりの紳士淑女の皆様、お待たせ致しました
本日、これより密やかに行われます
”特別な”オークションの主催者の、榊 千秋です」

明らかに上流階級の男女が
大金を手に目をギラつかせて
自分好みの少年少女の登場を
今か今かと待ちわびている

水着やお気に入りのドレス
あえて下着で勝負に挑む少女や
四つん這いになって獣耳コスプレをする少女まで

少年の場合は、健康第一の肉体が審査基準になる為
面積の小さい下着一枚でほぼ全裸に近い状態

たとえ一晩限りでも構わない
期限有りでも無しでも全ては飼い主の自由
早い話が金持ちがお気に入りの
幼い少年少女を買い求め、裏オークション
という名の人身売買が繰り広げられている

隣同士で雑談を楽しむ中、壇上に1人の少女が立つと
一瞬静まり返り、とたんに一気にザワめき出した
一番の目玉である、水無月 ルナのご登場だ

いつもの通り透き通った声で畏まり挨拶をする
その挨拶に会場中は拍手喝采
彼女の値は毎回当然ながら飛び抜けている
それも一晩限りの期限付きという縛られた条件でも

千秋がこれ以上は上がらないと値踏みし
ルナを32番の客に競り落とさせた
ルナは期待に胸を膨らませながら
客席の32番の番号札を付けた男性客を
目を細めて確かめてみると…?

「んっ…はぁ?嘘でしょ…」

思わずショックで小言を漏らしてしまうほど
相手はどう見ても小田切財閥のご子息には見えない
シワシワの老人だった

その頃、龍臣は特別に別室で主催関係者を呼び出して
写真付き名簿一覧表を食い入るように眺めていた

「所属しているのはこの50人で全員ですか?」

「いえ実は…ここだけの話、現在所属してるのは
こちらの308名となっております…」

係員はおずおずと、関係者以外
閲覧禁止のPC画面を見せた

すると、水無月 アンという
今朝居合わせた少女の写真を発見した

「この娘を身請けしたい…ではなく
メイドとしてす雇う、のでしたね?
表面上のこちらの契約としては
この値段で…如何です?」

龍臣が示したのは豪邸が建つほどの破格の金額
係員は腰を抜かしながら「榊さんの許可が…」
なんて言いながらも、ポケットマネーに渋々と
勝手に契約書に印を押してしまった

「ありがとうございます
アンさんはどちらですか?」


大財閥小田切家のご子息で
第一の当主継承権を持つ小田切 龍臣は
一人でポツリと煌びやかな壇上を眺めている
アンを迎えに行ったーーー



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