昼夜逆転フィリオパレンタル

その日の午後、一人の青年が、ふらふらと酔ったような足取りで商店街を歩いていた。
鼻歌混じりに町中を進むその姿は、先程ナンパに失敗したようには到底見えない。
どこからどう見ても、ただの男子高校生。
にっこりと笑ったその顔は、誰が見ても楽しそうだった。

「あー、それにしてもざんねん。結構かわいい子だとおもったんだけどなぁ、あの子」
「っう…あ…!」
夕暮れにかかり薄暗くなった路地裏に、間延びした声と小さな悲鳴が渡る。
足で腹部を踏まれ、一目で不良とわかる派手な格好をした大柄な青年の口から、苦しげな呼吸が漏れた。
そのままスニーカーの足先をずらし、胸部を越え、喉へ近づかせながら、彼は笑みを深める。
先程まで同じ、誰が見ても楽しそうな笑みを。
「や、やめ…」
「ひまつぶしにはちょうどいいと思ったのにさぁ?」
足の下で、ぼきりと音がした。
「が…うぁあっ!!」
「あー、折れちゃった。カルシウムちゃんととってないんじゃない?最近の子」
そう言って、笑いながら何度も折れた部位へ力を加える様は、倒れ伏した青年には悪魔のように見えただろう。
すっとしゃがみこんで、青年の髪を掴んで頭を持ち上げる。
「夕哉はさ、ちょっと昔にきみよかずーっと大変なけがして左側が上手く動かないんだよねぇ、いまでも」
そう言って彼は、息を飲んだ青年の右頬を指でなぞった。
なぞるその指は、ぎこちない動きを見せる。
「うがっ!」
ぱっと髪を離して倒れ込む青年の頭部を蹴り飛ばす。
舞台役者のように大げさに手を振るうと、その体にしてはやや小さめな手は、彼の羽織った上着の袖の中に消える。
「そんなのに負けたとなっちゃあもう二度とここいらでいばれないなぁ大変だろうなぁ。だからこうしよう、きみはここですっころんで体をぶつけたんだ。そうだろ?少年」
コンクリートのビル壁に叩き付けられた朦朧とする青年の目には、逆光を受けて笑う彼の両目が、黒く落窪んだように見えた。
うなずく以外の、選択肢はなかった。

それにしても、と、彼は呟く。
視線の先には、噴水。
暗闇から何かを探し出すように、濃赤褐色の瞳が、細められた。
「またじゃましてきちゃってほんと…なにさまのつもり?あの蟻」
いつか、思い知らせてやる。
そう言って口を三日月にして笑うその姿には、昼間学校で見せる無邪気さの欠片すら、残ってはいなかった。

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