「ぬぁぁああああああぁぁあ!!」
…遠くの、いや、
俺様のいる地下鉄のホームの上、地上の改札から聞き知った声が響いてくる。
ヘッドホン越しでもハッキリと聞こえるそれは長年連れ添っている人物のもので、きっとこれからも変わらないかもしれないとゆう不安を微かに抱きながら、真田の旦那が降りてくるだろう階段の方向を見上げた。
「あれ、佐助だ。おはよー、ってかあけおめ」
「んあ?あけおめ姫ちゃん。今年もよろしくー」
そんな事をしていれば、丁度到着した回送の電車から乗り換えの為に降りてきた姫に声を掛けられた。
「よろしくー。と、新年早々初の登校日に幸村の絶叫が聞けるとは思わなかったわ」
「あぁ…、休みぼけかなかなか起きなくて、大将が任せろって言うから先に出てきたはいいんけどさ…」
横にきて一緒に階段を眺めていれば、人の波を掻き分け、もの凄いスピードで降りてくる赤い人物。
少し離れたところにいるせいか、こちらには気づいていない様子。
「…目立つね」
「赤のTシャツ来てるから尚更ね」
「騒がしいしね」
幸村が階段を降りきったと同時に、人が降りきったらしい回送電車のドアが閉じるのが視界に映った。
「さ、佐助…」
アナウンスも流れてるし大丈夫だとは思いたいのだが、あの幸村だ。
一つの事には集中させるとんでも無い力を発揮するが、いかんせん周りが見えなくなって、ひどい時は暴走してしまうあの幸村だ。
そして、あの勢いからして“電車に乗る”とゆう事に一点集中してるような気がする幸村が回送電車に乗ってしまうような気がしてならない
「まさか、無いよね…?」
呟くのが先か、影が動いたのが先か…
「旦那ッ!それ回送…っ」
…コンマ一秒。
佐助の伸ばした手は虚しく宙を切った。
まさに一瞬だった。閉まりかけのドアへ華麗に身を滑らせた為、駅員さんも気づいていない様子。
走り始めた電車の窓から見えるのは安心したように息をつきながら座席に座ったはいいが、誰も乗っていないことを不思議に思ったらしくキョロキョロと辺りを見回している幸村だった。
「…お疲れ。ま、なんとかなるでしょ」
「…そ、そうだよね…」
「それに自業自得。私たちの気にするところではないよ、うん」
なんとも言えない、疲れてるような呆れてるような表情の佐助の肩に手を置いて声をかける。
ホームには再び電車が風を切ってやってくる。
今度は駅から駅へと繋ぐ各駅停車。
幸い、幸村も私たちには気づいていない事だし、いつ戻ってくるかわからない相手を待つほど、こちらにも時間的な余裕はない。
「うん、行こう行こう。幸村は大丈夫だから、ほら」
初っぱなから遅刻は勘弁して欲しい。
ほぼ、自分の都合だが幸村だってガキじゃない
私は佐助の背中を押して電車に押し込んだのだった。
20120118