「実戦授業が二種類あるのは、もう知っているね?

一つは、四人一チームの団体戦。これは学年ごとに実戦をやるわけだけど、これはトーナメント式だ。学年でもっとも優秀なチームを決める。

二つ目は、俺達が今からやろうとしている、ペア戦だ。ペアの条件は、学年が違うこと。そして、これはより実戦に近い形で行うんだ。それぞれのペアが広いエリア内で放たれる。ペアのどちらかが持っているハチマキを奪い合うんだ。制限時間内に、ハチマキを多く奪ったペアが優勝だよ。
これは我が校伝統の体育祭だと思っていい。一年に一度行われる将来の大事な切符を掴むチャンスだ」
「それなのに、俺とペアでいいんですか」
「こう言えば、俺の立場がよくわかっている君の本気の力が借りれるんじゃないかな、と思ってね」

わかんねえよ…そうぼやきたいが許されないだろう。しかし、生徒会役員であり、軍に兄がいるということはこの男、相当なプレッシャーの中で生きているのだろうなという想像はつく。大変なこって。

「…俺は人の為に頑張ることはなにので、悪しからず」
「まあ、いいけど。頑張ろうね?」
「俺は目立ちたくないので、頑張りたくないです」
「君が頑張ったら、優勝できるってこと?さっすがあ」

もうやだ…この人…

「あと、恋人とか吹聴するのやめてください…ほんと…」
「いいじゃん、君は図太そうだから」
「いや、なんでですか俺ガラスのハートしかもってないです…」

俺への嫌がらせなのか、親衛隊を潰したのかはわからないが、俺で遊ぶのは心底やめてほしいものだ。あの親衛隊の嫌い具合からすると、後者の可能性が高いが、性格の悪さも考えるとどちらも、というのが正解な気がする。
そもそも、なんであんなに親衛隊を毛嫌うんだ…?それなら、親衛隊を認知しなければいい話だろうに。
この男が何を考えているか、おれにはさっぱりだ。

「さて、シキ君。秘密の特訓をしよう」

さて、どうするかな…俺、弱いんだけど…

突然反転した視界に、受け身を取った。それと同時にマウントを取られ、この男の下から抜け出すことができない。
ちょっと、待て…ホント…マウント取られすぎて泣きそう…
あの蒼眼とはまた違う美しい顔がすぐ近くにある。眼鏡がするりと奪われ、前髪を上げられた。
「まずは、秘密の共有からだよ?第七師団三番隊隊長さん」

どうしてそれを…なんて馬鹿みたいな質問はでてこない。この副会長の目的はきっとこれだ。ダガーの秘密が知りたいのだろう。悪かったな、隠し種がこんなちんちくりんで。勝手な卑屈が頭を逡巡した。

まあ、これで俺に飽きてくれるだろう。ダガーの顔が割れているのは、この男の兄が仕入れたのかはわからないが、コイツが探っていたということは明確だ。

「それで、知ってどうする?敵に売るか?国を脅すか?…俺を脅しても何もでてこないぞ」
まっすぐと見つめてくる副会長は、その秀麗な顔を歪ませて大笑いした。
「ハハ、脅し…?そんなことは考えていないさ。…ただ、お願いしたいだけ。俺をダガーに入れてくれよ。」

「入れてほしいなら、俺を納得させてください」
肩透かしな脅しに、内心安堵した。しかし、その脅しは簡単にはきくことができない。まず、トーカに俺がお願いしなくてはならない。…そんな労力が必要なことを簡単に「いいよ」なんて言える訳がないのだ。

うっそりと微笑みを浮かべ、副会長は満足な回答が得られたのか身体を起こした
それに続いて俺も身体を起こし、埃を払う。ほんと、なんでみんな俺のマウントを取りたがるんだ、俺のマウントはそんなに取りやすそうなのか…?

でも、この男は扱いづらそうだし、嫌だなあ…上司的には、イヤです…


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