「こちらノア、応答願う!」
耳につけたカフスは無線となっている。
 今回の任務は、俺たち同期の初任務だというのに、初っ端から危機的状況に陥っていた。深くフードを被り、自身の相棒でもあるライフルを強く抱きしめ拠点を移す為、走り出す。
 第七師団三番隊唯一の狙撃手として、俺がやられてしまうと一気に形勢を逆転されてしまう。誰かに援護を頼みつつ、相手の駒を減らしていく必要があった。
『こちらシノ、こっちは片付いた! どうかしたか!?』
「敵に居場所がバレた! 応援を頼む!」
『了解』
これでシノが来てくれるだろう。
 しかし、安心はしていられない。どこから銃弾が飛んでくる。その場から急いで離れていると、敵に見つかり周囲を囲まれる。
「チッ」
拘束され、捕まってしまった。その瞬間、デカい音でブザーが鳴った。

『新人実戦演習終了、屋外モード解除』
段々と景色がただの演習場に戻っていき、背の高い建物たちは無くなっていく。
 ここは国の最新技術が集まった演習場だ。仮装空間を作りだすことができ、今回のような屋外での実戦演習はもちろん、なかなか出来ないシチュエーションでの実戦演習が可能だ。

 実戦演習が終わり上官に集められる。
 自警団に正式に入団して一か月。こうして最初はどの師団が適切か見極めるために新人たちは、敵役と討伐役に別れて任務を遂行する演習を何度も繰り返す。新人たちは第五師団に集められ、頃合いを見て他師団に配属されるのだ。
 今回も上手く行かなかった。

 シノが俺の頭に、ポンと手を置いてきたが、俺はそれをはたき落とした。
「ひっでえーの」
「うっせえ、いくら俺がかわいいからって気軽に触んな」
「……お前ほんと良い性格してるよな……」

 軍事学校を四年間しっかりと通い、無事卒業。自警団にようやく入団できたものの、周りもまた同じ志を持って入ってきているわけで、実力が高い連中ばかりだ。

 クロは元々自警団の人間だったから、俺が普段行動をともにするのはシノ。すでに猫を被るのもやめていた。

「お前どこの師団に入りたいとか考えてる?」
「やっぱ第一師団だろ〜! 花形だしな! お前は?」
「俺? やっぱ第七師団だろ!」
「第七師団か〜! 第七師団と言えばあれだよな、あの人」
「「トーカ団長とシキ隊長!!」」

 他の団員たちの会話が聞こえてきて、思わず耳を大きくしてしまった。そうだろう、そうだろう。俺のダチはすげえんだ、と相槌を打ってるとシノに小突かれた。

「なんで、お前が得意げなんだよ、今日ボロ負けしたくせに」
「はあ?それはお前もだろ、シノ」

 確かにシノの言う通りなのだが、腹が立ったので足を思い切り踏んづけてやる。シノが痛え!と叫んだせいで廊下にいた人たちの視線が一気に集まった。

「…お前ら、なにしてんの」
「シキ!」

 後ろから声がして、久しぶりに聞く声に嬉々として振り返る。そこにはやはりシキがいて、苦笑いを浮かべていた。
 この四年間でシキは大分身長が伸びた。一年生の時は俺と同じくらいの身長だったはずなのに、今では頭一つ分違うのだから成長期というのは実に理不尽だ。

「…お前猫かぶりやめたんじゃねえの」
余計なことを言うシノの足の甲を再び踏みつける。
「お前マジで俺の足に謝れよ…」
「お前らも相変わらずだよなあ、今日の演習どうだっだ?」
そう言って笑うシキに、俺は頬を膨らませた。その様子を見て大体察したシキがまた笑って俺の頭を撫でた。

「今日晩飯どうだ?」
「やったー!上司の金で飯だー!」と喜んでいるシノに、シキはまた嬉しそうに笑っている。同い年なはずなのに、本当に幸せそうに笑うシキに年上の匂いを感じた。

「…シキ、老けた?」
「えっまじ?」
嘘だよ、って言ったらシキは胸をなでおろして「なんだよ」って笑ってたけど、やっぱりシキは俺達の先を全力で走っていて早く追い付きたいと強く願った。


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