「あンのアホが!一人で突っ走りやがって…!別に焦る局面でもなんでもねえだろうが!」

 トーカが吼え、それをセイウンが横で宥めながら目の前の羅紗たちを斬り殺していく。
 蟻のように湧き出てくる敵に、トーカは汗ひとつ掻くことなくなぎ倒していく。

「…それにしても、この羅紗たちは呪いを元に生まれているみたいだが母胎はどこだ…?」

 トーカと同様に大剣を振り回し、首が飛んでも立ち上がり進行を妨害してくる羅紗たちを退けながらセイウンは疑問を覚えた。
 『羅紗』たちに対する正確な情報は得られていないが、それでもこうして相手をしてみれば知能数は低いものの、高い戦闘力と『意思』が伺える。
 羅紗たちの現在の『意思』は、第七師団への妨害だろう、と推測を立てた。

「母胎に関しては、一番隊が突き止められる。お前ら三番隊はあのアホ隊長の手綱握っとけ」

 苛立ちを隠さずそう言ったトーカに、セイウンは内心溜息をつく。後ろではいつものように、レイスとアオは喧嘩しながら跡をついてきているのがわかる。いつもならば、ここでシキが一喝して双子たちの士気を上げて、疲れてヤダヤダスイッチの入ったシキを俺が担ぐ流れだったのに…と、一人ごちる。

 この猩々緋の洋館に入った時から、シキの様子はおかしかったのだ。
 周りの建物は平屋が多く、それもあまり栄えていない様子の東倭国。これ見よがしに大きく建てられたこの洋館は、異様なオーラを放っていた。

 トーカの言う通り、実際攻め入ってみれば敵は傀儡人形のみ。
 あちらが煽ってきた割には、準備不足すぎやしないか。言ってしまえば、拍子抜けっていうヤツだ、とセイウンは思う。だからこそ、なにか罠があるのではないか、と油断はできない。セイウンは周りの様子をさらに深く注視する。

『こちら一番隊、聞こえるか』

 一番隊隊長のツヅラの声が、通信用カフスから聞こえる。その声はどことなく硬く、嫌な予感がする。

『第二師団ソラ団長を保護。本人の意識はなし。このままソラ団長を引き渡し後、俺達はすぐにメレフをとっ捕まえにいくが…』
「なんだ」

 トーカの声音もまた硬い。 

『奴らは人の記憶を呪いの母胎とし、羅紗を生成しているのかもしれない』

 ツヅラが放ったその言葉に、セイウンは息を呑む。確か、羅紗は元々はフォレストの使用した呪い『蟲毒』の副産物に過ぎなかった。つまり、その蟲毒の完成が必須でメレフはフォレストの呪いを横取りしたに過ぎないのだ。

 しかし、呪いの母胎が「蟲毒」ではなく、「人の記憶」だとすると、この襲い掛かってくる羅紗たちの製造が無限に可能である、ということだ。

 しかも、その母胎とされた人間がどうなってしまうのか。

 ツヅラの報告によると、『蛹の抜け殻』が研究所に無数にありソラは蛹の中にいたとのことだった。一刻も早く、メレフを捕まえニイロにその蛹を鑑定してもらう必要がある。トーカは短く指示を飛ばし、奥歯を噛みしめた。
 
 ますます既に姿の見えないシキに対して不安が募る。

「急ぐぞ」

 目の前の敵をなぎ倒すスピードを上げたトーカについて、三番隊は走る。その後ろを二番隊がまた必死についてきている。この迷路のような洋館で、なにが行われているのか。想像以上に荒廃している東倭国に、不気味な予感が募って仕方がないのだ。


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