周りを見渡すとそこは見たことのない場所だった。
家々が並び、田畑があることからここは村だと推定する。

ただ一つはっきりとわかることは、今自分が見ている風景が現実のモノではないということ。確証もないというのに、それだけははっきりとわかったのだ。

「一体ここはどこだ…」

先程まで、軍事学校の講堂で決勝トーナメントをしていたはずだ。覚えているのは、ハスに対する怒りと、ノアを酷く傷つけた自分への憎しみを抱いたこと。その直後、背中に激しい痛みが走ったところまでしか覚えていない。

状況を確認すべく、周りを見渡す。

村にはだれもいなかった。

色の無い、人の気配のしない不思議な空間。風はない、音もない。
ふいに、子供の泣き声が聞こえた。声をたよりにそちらへ向かっていく。

ジャリ、ジャリと歩みを進むたびに嫌な音が鳴る。
崩れたボロ屋のようなものからその声は聞こえる。それも、悲痛な叫びだ。

気付かれないように部屋の中を覗くと骨が浮いた子供が部屋の奥の方でうずくまっている。親御さんはいないのだろうか。というか、この周辺には人ひとりいなかったのだ。泣いている子供に聞くのは気が引けるが、自分の状況を把握するために声をかけるべきだろう。

「ひっく…○○…かあさん、とうさん…」

泣きじゃくる子供に声をかけようとしたが、喉が引き攣って上手く声が出せない。
違和感だ、彼から異様な空気感を感じてどうにも声を掛ける勇気が出ないのだ。この場を早く立ち去りたい、彼に見つかる前に早く!と本能が訴えている。

一歩後ろに下がると、足元で何かを踏んだ音が響いた。ジャリ。

その瞬間、目の前の子供がこちらを向いた。
口元には血がべっとりとついており、その両手もまた赤く染まっている。

彼は何か呟いた。

『た べ ちゃっ た』

反射的にその場を走り出す。足元を見るとそれは人間の骨のようなものが敷き詰められていて、足が竦む。走るたびに、ジャリ、ジャリ、と嫌な音が響いていっそのこと立ち止まってしまおうと速度が落ちる。

気付けば、そこは先程の村の風景と似ている場所へと来ていた。
いや、さっきの村だ。ただ、人がいる。

「どうなっているんだ…」

人が集まっている場所へと向かうと、人々が円になってなにかを叫んでいるとこだった。
聞き取れないが、様子からしてあまり良い内容ではなさそうだ。

「すみません、何をしているんですか…」

声を掛けても反応が無い。やはりこれは夢なのだろうか。
なにかを叫んでいる人の前で手を振ったり、変顔をしてみたが反応が一切ない。俺は透明人間になったみたいだ。

円の中心を見ると、そこにはうずくまった先程の子供がいた。

怯え切って泣いている様子からは、先ほどの狂気じみた表情は伺えない。
顔も手も血で濡れていないし、周囲の大人たちからなにかを言われ怖がっている。

子供の傍により、同じようにしゃがんだ瞬間ただの声が、罵詈雑言に変わった。

「この悪魔!」
「はやくこの村から出ていけ!」
「鬼!」
「やっぱりあんな外部の人間を信用しない方が良かったのよ…」
「子供で『蟲毒』を試そうなんてしなければよかった」
「災いがこの村にまで降りかかってしまう…!早くこの子供を殺せ!」

殺せ!ころせ!ころせ!
この小さな子供に降り注ぐ言葉のナイフたちに思わず耳を塞ぎたくなる。子供は大丈夫だろうか、と子供の顔を覗くとこちらをじっと見ている。

『お前もいずれこうなるのだよ』

口の動きだけではなく、今回ははっきりと聞こえた。それも、子供のように高い声ではなく、太く低い大人の男の声だった。聞き覚えのある…それは、フォレストと名乗ったカルト宗教の教祖のような声。

足元にびっしりとしかれた人骨が酷く哭いている。雨のように降る暴言と大人のエゴも、人間の醜さも、小さな子供の背中にグサリ、グサリと刺さっていく。

気が付けば、大人たちもいなくなっていて俺の側にいた子供もいない。

顔を上げると、血に濡れた身体を雨で浄化するようにひとり歩く子供の後ろ姿が見えた。


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