理事長にお茶とクッキーのお礼を言って理事長室から出る。
トーカが俺に何も言わないで事を進めるのはいつものことだ。俺に何も言わないでいつも一人で先に行く。
俺を置いていくトーカの背中ばかりを見つめているのだ。
以前は、そうしてただなにもすることができなかったが、今は違う。違うはずなのに。

くすぶる感情と共に、背中がチリチリと痛い。

最近は、こうして嫌な感情が自分の中では渦巻くたびに背中の痣が酷く痛むようになった。痛みだけではなく、モゾモゾと動くような感覚に加えて日に日に大きくなっているような気がする。

「…ベタだな」

昔読んだ漫画に主人公が敵にやられた傷で苦しむというシーンを見たことがある。ありがちなファンタジー的な要素に思わず苦笑いが零れた。
いくら厨二病っぽいとか、ファンタジーすぎて現実味がないとか言ったところで、俺のこの後ろの痣が消えることはない。

そろそろ首の後ろまで痣が見えそうで心配だ。この痣について俺は、誰にも言う気はないのだ。フォレストという呪いに食いつくされて死んでいった男を思い出す。

俺はいつかああなるのだろうか。そう思うと、手先が震えて止まらない。
その震えを無理矢理抑えるように強く手を握りしめ、頭の中を埋め尽くす邪念を振り払う。暗いことばかり考えていると、寿命が短くなる。

昨晩のニイロさんが言っていたことを思い出す。
『東の国はどうやら”座標を渡せ”と言っているようだよ』

”座標”…。なんとなくその言葉に引っ掛かってしょうがない。
どうやら東の国は西の国・エスターと揉めているらしい。それがなんのことかはまだ調査中とのことだが、この二つの国が戦争を始めたら迷惑がかかるのはこの国だ。
シビュラを挟んだ形で行われる戦争なんて、あってはならない。この国は神がいる国であり、なにより世界の中心にあるこの国が戦争に巻き込まれたらそれこそ世界大戦の開始だ。

こちらとしてもそれは食い止めなければならないので、東の国を窘めたところ東の国からの返答は、『NO』。今すぐ大砲ぶっぱして、世界大戦よーいどんっ☆…らしい。
ただ一つこちらが条件を飲めば、我慢してやってもいい、と。
それが、

「…座標、ねえ…」

そもそも、こちらが「やめとけ〜?」と言っているのになんであちらが偉そうなんだ。
ヤンキーか?ヤンキーなのか…?モヒカン金髪短ランなのか…?

外交なんて俺にはわからないし、文句を言える立場にないのだが、実際に動くのは俺達自警団だ。
俺がこの世界に来た頃は、ガンガン戦争をしていたことを思い出す。現国王が着任してから、シビュラは世界の中心として役割、つまりもう二度と戦争をしないようにすると掲げた。

まあ、世の中には戦争が起こることによって得する人間がいるわけで。
それを止めるのが、シビュラの戦力として名を轟かせる自警団なわけだ。

ニイロさんには大分無茶を言って、さらに東の国が何を企んでいるのか、座標とはなんのことなのかの調査を頼んだ。

「…日本は平和だったな」

ただ俺がぬるま湯に浸っていただけ、かもしれないがそう思った。


戻る / 次へ
top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -