「それでは、生徒会役員就任式を始めます。」

副会長の声がざわざわとしていた講堂に通り、就任式が始まった。壇上に今期生徒会メンバーと前期生徒会メンバーが並んだ瞬間、一般生徒からは引退する生徒会メンバーを惜しむ声と今期生徒会メンバーに対する歓喜の声が上がった。この「役付き」と呼ばれる生徒への歓声はいつものことである。

そう、俺はそんなことに腹が立ってる訳じゃない。違うことに腹を立てているんだ。
……何故って?…そりゃあ俺の愛しき平和が崩れたからさ。

ほら、あのFクラス最後尾から送られてくる視線。
"ミツケタ"と言わんばかりの視線の数々。こっっわ。ホラーだわ。

つまり、うん、まあ、そう。俺の愛しき平和は見事に崩れ去ったんだ、今この瞬間に――

***

時は遡り、三日前。

生徒会就任式が間近に迫り、心なしか生徒達は不安定で廊下が騒がしい様な気がする。

俺は生徒会室に呼ばれ、嫌な予感に腹を痛めながらも特別棟の廊下を俺は歩いた。

生徒会室の扉をノックし、ドアノブを回す。
中の人間を確認し、俺は思わず溜息をついてしまった。

「比呂君、待ってたよ」

俺を呼び出したこの人物、三木 凛埜(ミキ リンヤ)の左の二の腕には"生徒会"と書いてある腕章。言わずもがな、生徒会長サマである。

「…ご用件はなんでしょうか」
比呂があからさまな態度で、生徒会長へ言い放つ。
「冷たいなあ、僕からの呼び出しなんて早々ないよ?」
「嫌な予感しかしませんよ」
今まで、この会長に振り回されてきた比呂は、呼び出された時から嫌な予感が止まらなかった。綺麗な顔がしかめ面になりその様子を会長が楽しんでいるようにも見える。
「フフッ、言うなぁ。僕と君の仲じゃないか。」
「…去年、選挙管理委員会の仕事でご一緒したくらいです」
そう、選管と呼ばれる委員会で生徒会長のこの人と仕事を一緒にしたのだが、一年生の俺に仕事を押し付けるわ、本当にひどかったのだ。
「僕はその時に運命を感じたんだけどね」

そう、この腐れ生徒会長、俺と委員会で会って以来こうして会う度会う度口説くようなことを言ってきてうるさいのだ。
俺が何をしたって言うんだ。

「比呂君は、みんなにはニコニコするのに僕にはしてくんないよねえ」
「…してほしいんですか」
「いぃやあ?君のそのスマイルはみんなのモノだからね」

うるせえ!ニコニコしてりゃ怖がられないし皆優しいんだよ!!心の中で、叫び、訴えてるがやはりというかなんというか、会長には伝わらなかった。

「まあ、君を口説くのは後にするよ。」
「……」

「君も知っての通り、三日後に生徒会就任式が行われるね。そこで僕と会計、庶務は三年だから引退だ。」
「そうですね」
「今回の人気投票の結果はもうでている。会長は元副会長、書記はそのまま引き継ぎになる。そうなると、今空いているのは副会長、会計、書記な訳だけど」
「……そうですね」
「次期生徒会副会長は、君だ。」
「そうですね……は?」
「人気投票だからね」
「い、いや、俺、Aクラスですよ!?」
「別にAクラスだからと言って人気投票が低い訳じゃない。それに君はSクラスに入れるのに自ら蹴ったろう」
「空気が合わないんですよ!」
「それに君はいつもあのニコニコキラキラの王子様キャラで人気なんだから」
「っは!?王子様キャラって…いや、そうですけど………」

君に拒否権は無い、とでも言うように笑みを深める男に、俺は引き下がることしかできないのか。それでも、生徒会入りだけは必ず避けて通りたい道なのだ。
わざわざ、Sクラスではなく、Aクラスに入れてくれと入学するときに先生たちに頼んだっていうのに…それはクラスの雰囲気になじめなさそう、というのもあるが生徒会に入らなくて済むように、という意思もあったのだ。

しかし、この会長の言い方からして、これはもう事後報告だ。俺の意思は関係ないのだろう。
もうすべて来年の生徒会の布陣は決まっていて、これは決して俺の意思を確認するようなものではないのではある。

俺は、うなだれることしかできなかった。



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