俺のケツがまだ青かった頃、(今もまだ青い年頃だとは思う)特撮ヒーローを親に見せられた。

その時、俺は父ちゃんにこう言ったらしい。

「どうして、この人達やっつけちゃうの?」
「みんなが嫌がる事をしたからだよ。」


俺は考えた、それではもしこの悪役達に何か理由があったら、この何も理由を聞かず事実確認を行わず一方的にやっつけたヒーローが悪役になってしまうじゃないか、と。
何も知らない観衆もまた、悪ではないか。と。

「じゃあヒーローはみんなの嫌がることをしないの?」

不可抗力、という言葉もあるように、この悪役達に何か救済処置だってあったって良いじゃないか。

「正義ってなあに?」

正義という定義だって、人によって違う筈である。
そもそも、みんなって誰を指すものなのか。
やはりマイノリティは排除されてしまうものなのか。

開始早々やられてしまう、悪役達を見てなんだか可哀想になる。
いや、だってまだ悪役達は、キーキー言ってただけだし。

「でたな!ニクタベナー!今日も成敗してやる!」やっつけた後に「みんなも野菜をしっかり食べて、ニクタベナーに負けちゃダメだよ!」と、ヒーローは白い歯を見せて笑っている。
野菜もそりゃしっかり食べなきゃいけないけど、肉も食わなあかんやろ。


ツッコミどころ満載の特撮ヒーローに、幼いながらにして俺は父ちゃんに抗議した。


これではあんまりではないか!
悪役が可哀想である!!


今となっては、その時相当父ちゃんは返答に悩んだろうな、と思う。ゴメン。


話は戻すが、それなら、悪役を助けてくれる最強のヒーローが居てくれたっていいのでは?と俺は考えたのだ。なにそれ、面白そう。


昔の方がこのように難しい事ばかり考えていた気がするが、俺のこの偏屈な考え方や面白い事が好きということは、変わらず現在である。


正義とか、悪とか、考えるの面倒くさいから

やられたらやり返すってことで良いかな。
それも卑劣なやり方でね、



どこまで歪む、俺のポリシー。
そして、昔の俺、考えすぎだ。



ーーーヒーローになるコツ、教えます。

***

某県の山奥に位置する、まあここまで言ったら大体読者の方はわかると思うが一応説明しておこう。

私立松ヶ丘学園。

中高一貫全寮制男子校であり、金持ちばかり集まる嫌味な私立高校。
外見・身分で自分のステータスはほぼ決定される、なんとも一般人には優しくない。
生徒会や風紀委員会には学園のほとんどの仕事が集中し、その所謂"役持ち" は一般生徒にとっては崇高すべき対象、雲の上の存在である。
外見が良い奴には親衛隊がつき、親衛隊持ちには近づいてはいけないというのが暗黙のルール。
こんな鳥籠みたいな学園世界中探したってココ以上の場所はないだろう。

息苦しい。


俺は高等部から外部生として入学し、静かな一年を送ったと思う。…比較的。制裁にはあってないし、俺の気持ちはノンケのままさ。

その生活も一年が過ぎ、早くも二学年になってしまった。


***


月が細く鋭く光り、辺りは静まりかえる。

ある街の一角で、複数人の揉み合う声。


「やめてください!」
嫌がる少年に柄の悪い男たちが群がり、逃げ場を無くしている。
「兄ちゃん金、持ってんじゃあないのお?」
「も、持ってないです…!」
少年が、男達を拒むとそれに反発するように、男どもがさらに少年を追い立てる。
「嘘つけよ、ッ!?」

揉み合う路地裏の人影。カツアゲのようだ。
小柄な男を追い詰めていた男の後頭部に空き缶が思いっきり当たったーーー。

「ドーモ、皆のヒーロー参上しましたー。」

空き缶が飛んできた先には、180はある細身の男。
パーカーを深く被っているため、顔は見えない。が、声は辺りに染みるような声である。

「遅くなっちゃってごめんねえ?お兄さん。
まあ、ヒーローって大体遅れてやってくるでしょう?」

「あぁん?んだてめえ、てめえも金とられてえのか!」

「やだなあ、俺は君たちをやっつけにきたの。
お金なんか、持ってないよ」

「なら、死ね!!!!!」

不良が思いっきり、パーカーの男を殴り飛ばした。大振りのソレはパーカーの男の頬に思いっきり当たり、あっけなく道に倒れる。

「ハッ、ざまあねえなあ。」

「こいつなにがしたかったんだ?」

「知らね、コイツから金巻き上げてさっさとズラかるぞ」


不良が男から目をそらし、意識をそらした瞬間ーー、



刹那、不良の一人が思いっきり飛んだ。

「は、は!?!?!?」

すると、殴り飛ばしたはずの男が立っている。口元は楽しそうに歪んでおり、殴ったであろう右手は相手の鼻血で濡れている。

「いてて、俺さ、やられたらやり返す主義なの。これで正当防衛は成立するしね!まあ、君達最近相当ここら辺で暴れてくれてるみたいだから、俺が出てきたんだけど、一応ね、言い訳できるようにしなくちゃ」

「な、に言ってんだ、てめえ!!」
「まさか、お前!卑怯な手をよく使うって有名の、カンスト野郎か…!?」
「え、なにそれ、心外なんだけど。俺は魔王じゃなくて、ヒーロー!まあ、あながち間違ってもないんだけどね。…君たちここら辺で最近暴れまくってる奴らでしょう?本当。そういうのこまるんだよね…ここは俺らのシマだからさ…

さ、お仕置きの時間だよ?」

その台詞に、なにか思い当たったような顔をしたチンピラの一人が、パーカーの男を指さして、わなわなと震えている。
「コ、コイツ…!黒いパーカーに…ッ、相手の不意をつく卑怯な戦法ッ!
…villainの…ッイ”!!!?」
いつの間にか、指さした人差し指が男の手によって折られている。指を折られた男は悶絶し、うずくまっている。
「そ、せいかーい。まあ、不意をついてるんじゃなくて、喧嘩は先に手ェ出した方が負けっていうだろ?…勝手にヤラレタと思って油断する方が悪いんだよ
…あと、ヒトのこと、指さしちゃダメだよ?」


そこからは速かった。
パーカーの男は、一瞬にして不良達をノされ、一部始終を見ていた少年は怯えをはらんだ目で男を見つめる。
男は、少年に歩み寄りパーカーを取り、人差し指をたて少年の口元に近づけた。

「…今日のコト、誰にも言っちゃダメだよ?」
暗い路地裏に差し込んだ僅かな光が、男の顔を照らして少年の目に焼き付けた。ゆっくりと頷いた少年の頭に手を置いて、頭を撫でると男は身を翻し、闇夜に姿を消したのだ。

少年のポッケの中には、お金が入っていた。


***

………ハァァァァァァァァすみませんコレ俺ですぅぅぅ、恥ずかしいいいいいい!!!なんだお仕置きって!!恥ずい!恥ずかしい!!!!

………まあ、

「なーーんてことも、もう一年前ですよっと。」

さっきの回想はアレだ、俺の黒歴史だ。

忘れ去りたい記憶の一部だ。

何だ、ヒーローってめっちゃ中二病かよ…



中学三年まで、あんなことをやっていたが
あることをきっかけに足を洗った。

別にグレていたわけではないが、なんとなく夜の街、というものに興味を持ち、いつのまにかチームに所属し、不良どもとケンカに明け暮れる毎日。…ちゃんと家には帰ってたよ?

それも、高校入学を機にやめ、今じゃ超絶真面目な生徒である。

と、いうのも半分嘘だが。

真面目、ではないかも。あ、成績はいいけどね!!

母ちゃん怒ると怖えからさ、、うん。
心配掛けないように、成績くらいは良くしとかないとね!

そんなわけで私立松ヶ丘学園高等部、第二学年Aクラスに所属し、俺は平凡な毎日を送っているんだ。




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