ムタから話を聞いた時は本当に背筋が凍った。自分が知らないところでそんなことが起きていたなんて…一度手放した彼らを二度と手放すことがないように、なんて思っていたというのに。比呂は自嘲する。病院に忍び込んでタツミの様子を見に行ったが、かなり痛々しい有様ではらわたが煮えくり返るかと思った。

「比呂、今日俺の部屋来ねえ?」

食堂にて、昨夜のことを逡巡しているとへらへらとこちらに近寄ってくる美作に、眉を顰める。くそ、こんなことなら役員席に行けば良かった…と少し後悔をする。わかっていれば苦手な役員席も我慢したというのに。

「…まだ夏休み終わっていないのに、戻ってくるのが早いですね」
「そんな嫌そうにすんなって、お前のためにいいネタ仕入れてきたってのに」
そう言って目の前の席に座る美作に心の中で舌打ちをする。普段からそうだが、コイツは何を考えているのか皆目見当がつかないのだ。
「……どうだか」
「来るだろ?」
確信している言い方にものすごく腹がたつ。いいだろう、骨の髄まで搾り取ってやるからな
「高野屋の琥珀糖が食べたいです」
「ハイハイ、仰せのままに」
そう言ってきつねうどんを食べ始めた俺に「…似合わねえな」と言ってきた美作の長い足を思いっきり踏みつけた。

***

「ホラ、見てみろって!比呂!お前が踏んだとこ!!あおなじみできてんじゃねえか!! 」
「あおなじみ…?あぁ青痣のことですか」
キラキラと宝石のように輝く琥珀糖をひとつ摘み、歯で砕くと中からゼリーが溢れてくる。あたたかい緑茶はうるさい奴と一緒にいても心を落ち着かせてくれる。
「それで?貴方のいいネタとやらの為にここに来たというのに…何もないなら帰りますよ。残りの琥珀糖を持ってきなさい。」
「持ち帰ろうとするな…そんな性急じゃモテねえぞ?」
「…….帰ります」
比呂が本当に帰ろうとすると、美作が慌てた様子で止めにかかる。
「待て待て、ちゃんとあるから!お前がほしいだろう情報を!持ってるから!!!」
そうも必死に言われてしまえば、椅子にもう一度座りなおすしかないのである。
「……それで?なにがほしいんですか」
きっとコイツのことだ、そんなただで情報を渡す気なんてサラサラないはずだ。なにせ、コイツはプロの情報屋なのだから。にやり、と悪い顔をした美作はここでガラリと雰囲気が変わった。きっとこれがコイツの本質で情報屋、Sharon(シャロン)なのだ。

「お前」
シャロンが指した指の先は比呂に向いている。比呂は顔色を変えずに相手の目を見据える。
「それだけの対価があると?」
「今お前が欲しがる情報すべて、と言えばわかるか?」

互いを見据え、目の奥を探り合う。既に温くなった緑茶には茶柱が立っていた。この膠着した状態を打ち破ったのは、ヒロだった。
「…じゃあ全部洗いざらいはなしてもらおうか?」
被っていた猫を棄て去り、ニヒルな笑みで情報屋を煽ると「上等」という返答。
「その前におはぎ持ってこい」





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