家に着き、一人で荷物を降ろしていると、家の中から人が出ていて手伝ってくれる。…別に荷物少ないから大丈夫なのになあ。

玄関くぐって、お手伝いさんに礼を言ってもう「ここでいいから」と荷物を自分でもって自室に向かう。少し寂しそうにする、お手伝いさんにちょっと胸を痛めながら、自室に入る。

この大きめの部屋(最初はもっと大きい部屋を与えられたが、もう少し小さい部屋にしてくれと懇願した)も大きな玄関も広いリビングも、俺はまるで一人だ、と言われている気がしてくる。

被害妄想に近い気もするけど、少なくともこの家を自分の家だと思ったことは一度もない。
母はこの家で、俺もあの人もいない時、一人でこの家で過ごしているんだろうか。

今、母は外に出かけているらしく、本当に元気になってよかった。そう思いながら、軽く荷ほどきをする。

荷ほどきを終え、カーテンを開けて窓を開ける。
ベッドの布団も洗濯したばかりのようで柔軟剤のいい匂いがするし、タンスや窓の桟にはホコリひとつついていない。
俺がいない間、誰かがずっと掃除していてくれたことに嬉しくなる。

手持ち無沙汰になってしまい、なんとなく一階に降りていくとお手伝いの人達が少しあわただしくしている。…なにかあったのか?

リビングを開けると、俺は心底何となくの行動は二度としないと心に誓うことになる。

「…帰っていたのか、実槻」

なんで、母さんより先にてめえが帰ってくんだよ…!!

***

「………はい、父さん」

おかえり、もだたいま、も言ってやりたくなくてそれだけ返す。
義父は、その冷たい目線で俺を捉えると、俺は少しひるんでしまう。

「どうだ、あの学校は。副会長にもなったそうだな。」

知っていたのか、というより興味があったの、といった感じだ。
「…はい、二年生から」

「特別奨学金の申請が通ったようだが、まだそんな我儘を言っているのか」
その対峙する全ての者を凍らせるその目は、俺を一生認めないと言っている。

どんどん俺の足元は崩れていくのを肌で感じる。そうだ、俺はいつだって薄氷の上に立っている。

そのたった一言で、もう割れてしまいそうなのに。

「お前の我儘でまだ「比呂」と名乗らせてやっているが、いずれその名は捨てることになるんだぞ」

貴方に俺は一人で生きていけるんだ、と

俺はその名前を名乗らなくても「あそこ」でやっていけるんだ、と

そのために入学したのに――…

「俺は一生、俺のままです。それ以下でもそれ以上でもない」

俺は以前、この義父に言われた言葉になぞって、言外に俺は継ぐ気はないと言ってやる。
俺は義父の顔をもう見れず、そのまま自室に逃げるように戻った。

……何も成長していないじゃないか。

***

どれくらい、そうしていたのか覚えていないけど窓の外が、オレンジ色になっているのに気づいた。

あぁ、本当は読んでない本があるから、帰ったら読もうと思っていたのに。

もう今日はこのまま眠ってしまおうか。

制服のままだったのも気にせず、ベッドに倒れこむとタイミングを見計らったように携帯が鳴った。

お前、今日は忙しいな。と携帯に同情する。

「…はい、比呂です。」
『………ヒロ』

その声を聴いて、こめかみになにかが伝う。

『ヒロ?』
「か、薫さん」

声は震えていないだろうか。

『…ヒロ、おいで』

その一言だけで救われてしまうんだ。

「……はい」

本当に貴方は俺のヒーローだよ




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